おおげさ護身バレット / ヒトより高価な弾丸
「先行する量産品はないので規格は勝手に策定しました。専用弾は魔術刻印済み14mm弾頭を使用します」
対戦車ライフルの弾がたしか、10mmちょっと。
14mmというのはたぶん、NATO弾のいちばん大きいやつよりサイズがある。
さらに魔術で加速するのなら、かなりの威力とともに反動があるのではないだろうか。
「ヒトに撃てる弾なのよね? というか、撃てたとしても連射は無理なんじゃない?」
連射できないならオートマチックリボルバーである意味はない。
「制式配備すれば腕力のある種族も使うようになりますから。
それに非力なスイでも、減装薬弾なら2発目を撃てるはずです」
それなら最初から小口径のほうが、弾の携行などを考えると良いように思うが。
「魔力を付与する都合上、弾頭サイズが大きいほうが都合がいいのです。
それに弾速を上げると専用弾が変形して、刻まれた魔術刻印が潰れてしまいます」
つまり、物理力から見ると口径に比例する威力と反動はない、ということらしい。
最後にトーエが説明をしめくくる。
「護身用に持ち歩くとのことでしたので、親しめる外観と軽量化を主眼にしました。
小さいほうが取り回しもいいですが、機能設計の都合と、腰に長剣を釣るのと同じく示威にもなるので、長砲身を採用しました」
「文句のつけようがないわ」
スイが言ったとおり、どこかかわいらしい、表面を撫でたくなる銃に仕上がっている。
「ただ確かに高価な品ではあります」
価格表を見せられたが、特に感想はない。
「スイの安全のためなら惜しくない額だわ」
「え、うそ」
しかし、私の隣で同じ紙を見たスイはそうではなかったらしい。
「ひえー」
小さな悲鳴にも実感が籠もっていない。
フーカがじっとりとした目で見る。
「スイ、あんたは世界初で唯一の人造艦船の艦長になったのよ。
吸血種とか、あんたが見たこともない高位貴族かつ魔力保持者な奴らがあんたを狙うってことなんだから」
「ぜんぜん実感ないです」
まあそんなものかもしれない。
「いざとなったら、フーカ、お願いね」
「仕方ないわね」
さすがのフーカも吸血鬼の相手は荷が重いはずだが、自尊心の高いフーカは気軽な返答で請け負う。
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というわけで、試射会。
フーカに説明を受けながらスイが構える。
取扱説明書を読みながらフーカ。
取扱説明書を書いたトーエはその様子を見ている。
見学者は少し離れた場所。
構えるスイの、右手の指は引き金の下、トリガガードにある小さな窪みへ。
左手は自然に銃身底のグリップガードを支えて。
試射するのは、対吸血鬼強装弾の実包。
専用弾の中でも最大の威力をもつ、いちばん価格の高い弾。
どうせ撃つなら、1度くらいは実弾を撃たなければ仕方がない。
「あれ1発でスイと同い年の女の子が3人は買えますよ」
レインが言う。
特に露悪の意図はなく、淡々とただの事実として。
生涯年収の話だと思うことにしたい。
「いつのスイの話?」
「ヨナさまと出会う前ですね」
命の値段の話は、どうにも好きではないが、忘れてしまうわけにもいかない。
人員と資本、莫大なコストがスイの命を守るために注ぎ込まれ。
だが、高価になったからこそ、艦長として命を狙われているわけでもある。
こういうのはマッチポンプというのか、循環論法というのか。
ネガティブフィードバックなのは確かだった。
「構え」
よく通る声で周囲に知らせながら、フーカが手を上げて合図。
下げる。
「撃て」
発砲音は軽いが、大きかった。
周囲の空気が震え。
銃身が白銀の粒子を振りまきながら熱を放ち。
30m先の的に、わずかにも変わりがないのが少し滑稽だった。
「ドジ! 下手くそ!」
フーカのいつもの罵声が微笑ましい。
当てるのが目的ではないとはいえ、練習はしてもらうことになるだろう。
しかしシロウトのスイが撃っても、制服までが1体となったその姿は、サマになっていて美しい。
ヒトの命を守るため。
ヒトの命を奪うことを真剣に考えられた道具は、どれも独特の機能美を備えるものなのだった。




