どの『択捉』にする? / 擬人化『択捉ちゃん』、魂の御真影オーディション
択捉に神棚を置くことになった。
「渋い顔をしていますね」
「神頼みって好きじゃないのよ」
ヒトの運命はヒトの行いが方向を定め、時に運が結果を左右する、そういうものだから。
もし神様なんてものがいたとして、ヒトの願いをきいてくれる理由はないだろう。
「でもヨナさん、なんだか雰囲気が、もう」
そこでトーエが笑いだした。
「ちょっと、トーエ?」
「失礼ですけど、ヨナさんの容姿でそんな顔をしてるのが面白くて」
『ヨナ』の外見は獣耳童女だから仕方ない。
「ミッキといいヨナさんといい、真面目すぎますよ」
私の不条理な不機嫌を、トーエはふんわりと笑顔で受け流して。
「神頼みしたい船員がいるなら、神様を用意するのがホスピタリティというものです」
「それは狂信者の集団か、よくても詐欺じゃない?」
とはいえ、私が福利厚生を任せたトーエが判断したことに、私が反対するというのも道理にあわない。
「そういうところ、やっぱり真面目さんだ。ヨナさんは苦労症ですね」
「苦労しているのは実働しているトーエのほうよ」
拗ねる子供をなだめるお姉さん、の構図。
実年齢にそぐわない状況だが、トーエにはそうさせる雰囲気がある。
「私は口だけだもの。文句も言っているだけで、方針を変える必要はないわ。トーエの思うようにしてちょうだい」
イリス漁業連合が建立した龍宮神社が、所有する人造艦船『択捉』を魔術的に支援する。
竜宮と択捉をつなぐ呪術道具および象徴として『神棚』を置くのは理屈にかなう。
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「それでヨナさん、神棚の中身なのですが。デザインはこちらで」
竜宮神社をプロデュースしたトーエが、神棚も用意する。
呪術的設計は教会に任せるとして、神棚の中身がカラというわけにはいかない。
哲学的という意味では悪くないと思うけれど。
何事も象徴は大事であり、偶像であっても形象が存在することは必要だ。
「ヨナさんの知る神棚にならって、ヨナさんの写真でも入れます?」
日本の神社をパクって竜宮神社を作った以上、神棚を置き中身もネタ元を踏襲するのは妥当な線なのだが。
艦船に神棚を置いて中に写真。
写っているのは獣耳童女の私。
頭がクラクラしてきた。
「ヨナさんがそういう顔をするのはわかっていましたので、きちんと別の案をご用意しておきました」
「それは、助かるわ」
本当に助かる。
そしてトーエは、机の上に数枚の美少女イラストを取り出した。
龍宮神社を建立する際に行われた、ヨナに対する日本神社のヒアリング。
並行して、日本の美術や広告、それにイラストの話もした中で、『女の子を可愛く描く技術』が、チセを溺愛するトーエの琴線に触れたらしい。
もともと美術学校が出身のトーエは、すでに萌え絵の技術を習得しつつある。
そして、艦船擬人化美少女ゲームは今やひとつではない。
未実装のものを除けばゲームの数だけ、いろいろな擬人化『択捉』がいる。
ヨナの記憶からヒアリングを元に再現された択捉と、さらにいくつかのオリジナル擬人化美少女。
「ヨナさん、それで、どの『択捉ちゃん』にしますか?」
「え」
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艦船に魂を入れる画竜の点睛が、艦船擬人化美少女イラストというのは。
海上自衛隊も公開イベントでパネルを立てていたし、まあいいのか?