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プライドを折る / 大ブーイング大会(をフーカに強制されるみんな) / 艦長の適性を示す

鋼鉄の城のような艦船『択捉』を采配するのが、艦長のスイ。


任官発表の日、その場の誰もが思った。

どうして自分ではないのか。

実力的にせめてフーカではいけないのか。


いや『あの女も出自がいまいちわからない』のだが、かなり高位な貴人家の出身らしいのは所作と言動でわかる。


まさか艦長の座が先着順ということではあるまい、とはその場の全員が思っただろう。

ここに来たのがたった3ヶ月早かっただけの、平民の少女に先を越される。


自分の中に実家の者たちと同じ、血統主義の黒いものを自覚する。

発表の時点で、離反が起きかねない任命。


状況をまとめてみせたのは、その艦長に茶を淹れさせている副長のフーカである。


「あたしが認めたあたしの艦長よ。文句があるなら言いなさい」


そう言って黙らせた。


が、それだけならまだよかった。

フーカは場の空気を掌握したまま、一番前にいた候補生の前に立って、あろうことかこう言った。


「スイを艦長にすることの問題点を挙げなさい」

「は、はい?」


聞こえなかったわけではない。


「スイへの不満を言えと言ったのよ」

「えっと、ありません」

「ないはずないだろうが!!」


肩を掴んで大声でブチギレ。

魔力も乗せた怒髪は


「自分の不満も言葉にできないなんて幹部候補生として大いに問題だわ。

でも今回は特別よ。選択肢にしてあげるから選びなさい。

1つ、能力が不足している。実力が一番でない。

2つ、家柄が無い。ヒト集団を率いるに値する血統を持っていない。

3つ、意志薄弱で決断力が不足している。ヒトの上に立つ人物と言えない。

さあどれ!? 全部かしら?」


この場の誰もが、フーカ相手に『ありません』で済ませられないことを悟る。


「1番です!」


いちばん穏当な表向きの理由を答える。


フーカは隣の候補生へ。


不満を選ばせ、復唱させ、自分で言わせて。

会場の感情はどんどんエスカレートし、いつしか自発的に不満を口にして。

いつのまにか大ブーイング大会になって。


全員の発言が終わり、針のむしろの中心で、スイはこう答えた。


「あはは、ごもっともです」


『まあ言われて当然なんですが、さすがにちょっと悲しいですね』みたいな態度。


本気で責め立てたはずが、まるで効いていない。


私たちの誰もが、プライドの高い血統の傍系。

罵声の嵐に囲まれれば、平気ではいられない。

泣いてくずおれる者もいるだろう。

私だって、途中で逃げ出すかもと思う。


「この程度で泣くような奴が艦長だったら、出港を待たず殺してでも椅子から引きずり下ろすところだわ。

時に死線の上で、私たちの命を握って、艦の命運を采配するのだもの」


ともかくスイは及第点、といった表情のフーカ。


「あんたたちの意見は正当。反論する気にもならないわ。

でも艦長はスイ、あんたよ。あたしはあんたが適任だと判断した」


まるでフーカが決めたかのように断言する。

そして私たちに向かって言う。


「艦長は船員全員の命を握って指示を出すのよ。

どんな場面でも自分のペースを崩さず、自分の意見をはっきりと主張できる人物でなければならない。

己の意固地なくっだらないプライドすら表にできない奴に一国一城の主が務まりはしないわ」


お前たちの真意はお見通しだ、と言外に告げてから。


「艦長の選任に文句があるやつは、艦長としての適性を示してみせなさい。

できないうちは艦長はスイに任せて、黙って働き自分の役目を果たすことね。

実力を示すことだわ」


最初に押し隠そうとした『平民に負けるのが悔しい』などという、あまりに心の狭い嫉妬心。

自らの器の小ささを声高に主張するようなもの。

プライドゆえに到底できることではない。


だから、その場の誰もがフーカの言う『資格』を示すことはできず。

フーカは長い無言の時間をとって、その場の全員に負け犬の立場を自ら確かめさせた。


「あたし以外だっていうなら、あんたたちのうちの誰かが艦長をしてくれても構わない。

でも忘れないことね。

あたしが副長をやる以上、艦長が誰であれ、逃げ出すことは絶対に許さない。

艦長席に最後まで座っていてもらうから」


事ここに至って。

場を完全に掌握しているフーカに逆らうことのできる者などおらず。


その場に、スイを追いやってフーカの上官の椅子に座りたいと思う者は、誰もいなかった。

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