副長フーカ / 深夜の艦隊戦ボードゲーム
「あなたの戦い方はダメだわ。てんでダメ」
フーカは盤面を見下ろして言う。
後ろで私の『妹たち』が見ていても、フーカは言葉に遠慮がない。
周囲に他のギャラリーがいるときも、雇用主のイリス様が見ているときでさえ、フーカはいつでも態度が変わらない。
「こちらが2番艦で中央進出して、分断の圧力をかけたのはわかったのよね?」
「ええ」
「あなた、プレッシャを受けた際に艦を集めようとする傾向があるわ。3番艦の進路変更で取れる手がかなり減ったのが、以降の不利から敗北につながってる」
簡単な所管を述べてから『感想戦、する?』というフーカの言葉に応じて。
そこから先は、フーカの独壇場になる。
『まず懸案の進路変更ね。どう変える?』
『ひとまずは分断を匂わせた相手の出方を見る方針ね。なら相手が引かずに強行したら?』
『では戦力集中の方針はかえずに、ここから選択肢をなるべく失わない手はどうかしら?』
矢継ぎ早によどみなく、フーカの言葉は途切れることがない。
急かされていないのに、尻を叩かれている気分になって、頭が激しく疲れる。
使ったことのない頭の部分を酷使して、意識が朦朧としてきた頃に。
「あ、もうそろそろおしまいになります? お茶にしませんか?」
タイミングを見計らって、スイが休憩を促す声をかけてきた。
----
学園からいつのまにか謎の疑似姉妹制度を押し付けられていたのだが、ようは後輩の面倒を見ることで、ヒトを率いる素質を示せということらしい。
「ささ、妹の皆さんたちもこちらに座って」
スイは平民出だが、それゆえに血縁の面倒がなく、プライドからくる衝突も起こさないし、気が利く。
イリス伯領地の出身なので、地の利もある。
私も、祈りの時間にたく香を買うために、近くにある安くてよい品を扱っている香草屋を教えてもらった。
「そうさせてもらうぬ」
「あっ、わたしてつだいます!」
とくに末妹はすっかり、姉たちよりもスイを尊敬している様子である。
突然あてがわれた『末妹』に戸惑っている『姉』たちよりも、頼りになるのは確かだった。
「フーカは砂糖いらないんですよね」
「ええ、ありがとう」
フーカは、知力も腕力もあってイリス家のお気に入りらしい、あらゆる意味での実力者。
どこから来た何者なのかはわからない。
過去は白紙。
経歴はすべて抹消済み。
実力だけは確か。
そんな得体の知れないフーカを、やんわりと抑えられるのもスイだけだった。