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飛行船グリシャ号 / 経済戦と輸送手段 / 経路獲得競争

「エーリカ様が火事場で鉄道権を握ってしまったので、イリス漁業連合も対抗可能な輸送能力を性急に取得する必要があります」

「それで飛行船?」


レインの説明を聴きながら、視線は上へ。


巨大な格納庫がまたたく間に建築されて、その中に全長240mの巨大な飛行船が鎮座している。


技術的なことはミッキが説明する。


「購入した飛行船は内陸で使われていたものです。海沿いでの長期運用は想定されていないので、いまはまず潮風対策の防腐処理を行っています」

「飛行船も赤く塗るの?」

「いえ、艦船の船底に用いている防腐塗料は用途が違いますし重すぎます。飛行船塗料は既存をベースに静電気対策を主として配合を変えています」


白い飛行船が、塗ったあとは黄色になるという。


----


吸血鬼による、この前の対巨人兵器戦。


一方的な奇襲攻撃であり、政治的失点はあまりに大きい。

グランツ側は当初、賠償条件として、吸血鬼から鉄道がぶんどれると鼻息荒くしていたそうだが。

エーリカ様が鉄道を電撃的にかっさらっていったため、目論見が崩れて大慌てしたという。


飛行船の購入を決めたのは私ではない。

掌砲長のツテで呼んだ政商グランツの事務方が立案し、レインが働きかけて教会のツテで売買を仲介した。


説明はレインからヨナにするが、購入者はイリス様。

ほぼ事後報告みたいなものだ。


とはいえ事前にきかされていても、何も言えることはなかった。

生まれたばかりでこの世界の事情に疎い『古代戦艦イリスヨナ』と、古代戦艦の幼い巫女であるイリス様。

私たちに事業計画をきかされても内容の成否の判断のしようがない。


イリス様はといえば、横で飛行船に目をやりつつ、私をじっと見ている。

話をあまり真剣には聞いていない様子。


「ヨナにまかせます」

「ありがとうございます」


いつものとおりに、イリス様から信任を受けて私が話を進める。


「でも飛行船なんて簡単に買えるものなの?」

「民間の准軍事企業が、平時には大陸で運送業を商っているのです。なので、軍事転用できる飛行船で売買には審査はありますが、あくまで民生品です」

「審査なんてよく通ったわね」

「イリス家は伯領地家ですよ」


忘れていたわけではないけれど、そうだった。


「それといま、準戦時生産体勢で新型へのリプレースが急激に進んでいて、旧式化した現行機が市場でダブり始めているんです」


なのでそんなに高くはなかった、とのこと。


「運用は?」

「飛行船の世代交代で解雇された職員を何人か引き取って、あとは退役軍人を中心にスタッフを集めました。

海岸沿いの辺境国は戦線から遠いので、戦場で重度障害を負った者を中心に。作業効率は悪いですが、旧式の機材に慣れた熟練工です。

整備運用で手を動かすところは、航空機部隊から元気な手すきの隊員をひっぱってきて当たらせるつもりです」


パイロットに見習い整備員をやらせるのか。


「めちゃくちゃ苦情が出そう」

「あのヒトたちは、空が飛べるなら気球でも文句は言いませんよ」


そういうものだろうか。

これもまた私には判断しようがないので、レインの言い分を信じることにする。


「そういえば、飛行船の名前はどうしますか?」


イリス様は興味がなさそうだ。

わたしも建造中の択捉型に夢中で、飛行船にはそこまで思い入れがない。


「元のままでいいわよ」

「では登録名はグリシャ号のままで」


飛行船の足元でこちらを伺っていた、スタッフたちの空気が緩んだ気がする。


彼らは多かれ少なかれ、この飛行船に思い入れがあって、この伯領地に職と暮らしを移した者たちだった。


別に配慮したわけではなかったけれど、職員の気持ちは気をつけて扱うべきものだ。

職員のモチベーションと好感を高めるために、トーエがしてくれている仕事が無になってしまう。

危ないところだった。


----


「しかしまあ、商品の安定供給が確立する前に輸送路を確保なんてね」

「グランツ家なら飛行船のひとつやふたつ、いくらでも用途を考えるでしょう。

それに、電撃展開へむけて、択捉級が本稼働するまでに足元を固めておきたい意図のようです」


全力で海産業にベットしているんですよ、と言われると、さすがにプレッシャを感じる。


「でも鉄道をエーリカ様が握っているなら、それこそ輸送は鉄道だよりでいいんじゃないの?」


大陸鉄道は、すでにそこにあり整備展開が行き届いた国家間輸送インフラだ。

乗り合いさせてもらえるなら、これ以上なくありがたい。


私はそう思うのだが、レインはつれない。


「輸送手段は輸出産業における大動脈ですよ。いつ止められるかわからないのに、輸送路をエーリカ様に依存するなんて論外です」


レイン、エーリカ様をかなり警戒している。

気にかけてくれるのはありがたいが。


「それと、グランツ家としては運送経路について代替案を持つことで、価格交渉力が欲しいんですよ」

「へえ、そういうものなの」


同じ鉄道を利用するにも、代替経路の有無によって、交渉における立場の強さが大いに違うという。


さすが政商はたくましいな、というのが私の素直な感想だった。

あのエーリカ様と駆け引きをしようとは。


「ましてやエーリカ様に対抗しようなんて、ぞっとしない話ね」

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