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海洋技術学園の開校5 / イリス様の開校式典あいさつ

建造中の択捉が見えるスペースを空けて、海洋技術学園の開校式典が開催された。


といっても、式典の目的は外部への顔見せが主。

生徒たちは少し前から参集が始まっていて、今日が入学式といっても実感がなく。

すでにお互い見知った顔のほうが多い。


生徒はイリス家と教会とグランツ家がよくわからないツテで募集をかけて集めた老若男女入り乱れの集団。

若年の少女が若干多いくらいか。


そして入学式は本日のハイライト。


幼等部制服に身を包んだイリス様。

制服を園児服風にアレンジしたバリエーション。


計画を主導するイリス家の息女と、留学する隣国の姫だけ制服が違うのは身分によるものではなくて、彼女たちが幼等部の学生だからだ。


チセも同じ幼等部の制服を着ているのだが、目立つふたりの横に座っていて、ヒトの目にとまらない。


式典中のいまも建造中の択捉を背に、壇上に立ったイリス様が話し始める。


「海洋は人類にとって、古くて新しい開拓地です」


魔力で拡声されて、まずは挨拶と、式典参加者への謝辞、出資者への礼。

それから、参列する幹部候補生へ。


「我々のミッションは、人類の海洋版図を開く艦隊を建造し、海獣の脅威から海を取り戻すことです。

そして我々は、海洋の再開拓者たりうる資格とは何かを見極めなければなりません。

我々が野蛮な略奪者でなく歴史の先駆者たりうるかは、あなたたちの働きによって決まります。

どうか、役割に縛られず自由に考え、共に人類の海洋進出を意義あるものにしていきましょう」


----

「はー、イリス様最高」


壇上で話すイリス様の御姿をこの目で見られたというだけで、十分に最高の式だといえる。

私としては、イリス様のかわいささえあれば、他にはもう何もいらない。


「国内要人も多数参列しているんですけれどね」


今回、ありがたいお話は丁重にご遠慮し、書面をもってかえさせていただいた次第。


その分を交流の時間に充てますというのは言い訳ではなく、周囲ではすでに社交の花が咲いていた。

レインに根回し方法を調べてもらう必要はあったが、略礼としてこの国でもよく使われる、前例がきちんとあるやり方だ。

わりと評価が良いようで幸いだった。


隣に立つレインがささやく。


「みなさんイリス様とヨナさまと話す機会が欲しいのです。だから反対もなかったのでしょう。

なので、このあと挨拶回りしますよ」

「りょ、了解したわ」


といっても、私にはレインがついていてくれるし、イリス様の後に付き従うだけ。


もしイリス漁業連合について要求を言われても、私に何か約束する権限なんて持っていない。

イリス様についていくというのは、私の実年齢を考えると申し訳ないし情けないのだが、周囲を頼るしかない。


私、何もしてないのでせめて式典艦としてお飾りをがんばる所存。


いや式典艦としての主役はもちろん建造中の初期艦『択捉』なのだけれど。


堅苦しい式典の緊張から開放されたスイは、へにゃっとしながら素直な感想を漏らす。


「イリス様ってあんなに喋れたんですね」

「あんたすっかりイリス様への敬いが消えたわよね」

「敬ってなくはないです!」


フーカの呆れ声に、スイはあわてて、こちらを見ながら言い繕う。

言い回しが繕いきれてないやつだけれど。


「別に良いんじゃないかしら」


イリス様に対して、萎縮されず、親しみを持たれるのは良い傾向だ。

この世界で外聞としてそれが許容されることなのかは、まだよくわからないが。


「トーエ、式典の準備とイリス様がした挨拶の原稿、ありがとうね」

「いえ、式典の挨拶、ほとんどイリス様が考えられたんですよ」

「そうだったの?」


驚いている私に、近くにいた生徒のひとりが教えてくれる。


「エーリカ様とイリス様は、あの世代の筆頭として有名ですわよ。

言葉を覚えてすぐに受け答えがはっきりしていた、と。

若年齢でありながら、大人たちと話させて大丈夫だと、わたくしのいた家でもよく話題にのぼるほどでしたの」

「へえ」


生家ではなく『いた家』というワンクッションある言い回しが耳に残る。

彼女は金髪縦ロールだった。

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