海洋技術学園の開校3 / こだわり不条理スパッツ
「乙女の柔肌は絶対に守れとのご用命ですので、一番硬いのは手袋と靴下、そしてスパッツです」
イリス様の思春期前なお御足の美しさに意識を持っていかれるが、説明もちゃんと聞いている。
「サイズSS,S,M,L,LL、色は白と黒をご用意しました。
手袋はロングバリエーションあり。
主素材は法儀式聖別済み蜘蛛が紡ぎ出した生糸。雪銀製マイクロファイバを4%織り込み。
厚さ0.02mmで92デニール。
衝撃吸収力にも優れ魔弾の直撃に耐えます。制服と共に24mm防爆装甲よりも強固です。
剣撃も魔力を込めただけの低級な攻撃までなら受けとめられるでしょう」
どうして24mm防爆装甲より学生服やスパッツの布地のほうが強いんだ。
防爆装甲が紙屑扱いだ。
もちろん、装甲板が本当に脆弱なのではなくて、使い方の問題なのだけれど。
「それはもう、田舎領地がひとつ傾くくらいの予算を学生服につぎ込んでいますから」
具体的な金額をきかされて、私はよろめきそうになった。
「お金がかかっているといっても、学生服全体では、定価ではという話です。
対吸血鬼の勢力から表にウラに、素材提供などで援助いただいています。
イリス様が着るものは、特に資金を重点的に注いだ特注品ですが」
貴人が要人であるから警護予算が高くて当然、というのはわからなくもないが。
イリス様の着る服ひとつで、助かるはずの命もたくさんあるのだろう。
この世界は不条理だ。
わたしに、いまここでそれを是正するつもりはないわけだが。
ひどい女だと思う。
「それにしても、ヨナさまの世界では要人警護ってどうなっているんですか」
レインは職業柄、わたしのいた世界のそれに対して興味津々のようだが、残念ながら私は他のことと同じく、要人警護にも詳しくない。
「まあでも確かに、私の世界のほうが進んでいるというかテクニックは磨かれているかも。
この世界の貴人みたいに魔力で身体強化とか、硬い外殻とかの肉体格差がないからなぁ」
「そうなのですか?」
「アメリカ大統領っていうのが暫定世界最強なんだけどね? 教育を受けられない階層の少年が撃った拳銃弾が当たれば死ぬ」
銃本体はともかく、弾はアメリカで買ったら定価で一発2ドルくらいか。
駄菓子を買う駄賃で大統領を殺せる。
「不条理すぎでは!?」
レイン、驚愕で表情が固まっている。
コンティニュなしの死にゲーだと考えると、確かにゲームデザインが壊れている。
魔力修練や生まれついての才能、身体能力での絶対が決まらないという意味ではあらゆる存在が対等。
代わりに、どんなに努力しても修練しても、人望を集め要職についても、拳銃弾への耐性がつかないというのは不公平かもしれない。