海洋技術学園の開校2 / 幼等部制服、脅威のテクノロジィ
「デザインはヨナさんの知る学生服から幼児向けのものをベースにアレンジしました。
対魔術防護服の設計については、教会から知見と素材を提供していただいています」
トーエの説明に、レインが補足する。
「もともと修道服は対魔術戦のための戦闘服ですからね。今でこそ種族差を隠すための見た目を重視していますが」
私のいた世界ではどうだったか知らないが、魔術や魔物が実在するこの世界では装飾性より実用性が重視されたのだろう。
そう言うレインの修道服は出会った頃の標準品と違って、トーエの手が入っている。
長い歴史と文化の中で、種族差を隠す理由はきちんとあるのだろうが、レインの美しい肢体を見ていると私の中で覆い隠す正当性が曖昧になっていく。
「その対魔術防御が、フリルやリボン?」
レインが答える。
「おおむねそうです。
制服についても、レインが上から説明しましょう」
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「まずは、海洋技術学園制式ベレー帽。
一見では普通の帽子ですが、内ポケットにヴェールが仕込まれています。
口元や首を守るためのヴェールは教会が提供。
魔術戦で用いる戦闘用標準装備と同じものです」
ひと通りの説明をきいて、魔術毒に対する防毒マスクみたいなものと理解した。
「シャツはイリス様専用。
生地は肉眼では均等な白地に見えますが、微細な魔術紋様を織りこんだ特注品です。
服のボタンは全鋼銀製、銀彫物加工30mm経抗魔法陣を封入。火球に3発は耐えます」
服は全身防御、ボタンはいわゆる『身代わりお守り』の一種ということらしい。
「濃藍色に染めた上着とスカートの表面と内布は、肌触りの良い高山ロバの毛をベースに複合特殊銀糸を織り込んだフェルト素材。
表布の防刃強度に加えて、さらに劣性カドミウム皮膜で対呪性能を担保し、これを含む複合装甲12枚封入による防水耐火耐衝撃耐化学対魔術。
なおかつ重量は普通より軽く抑えました」
つまり、えっと、硬いそうだ。
「その、さっきから制服の話をしているのよね?」
知らない固有名詞のオンパレード。
ミッキが配慮せず択捉の装甲を説明しているときもこうなるのだが、まったくついていけない。
「では目先を変えましょうか。
腰の後ろのリボンと、腕脚スカートのフリルについてです」
「スイやトーエの制服と同じね」
トーエ脅威のデザインセンスにより違和感を消されて馴染んでいるが、フリルもリボンも、サイズだけ見るとコスプレ服のそれと同じように大きい。
「先ほどはざっくり説明しましたが、フリル自体に効果があるわけではありません。
正確には、フリルやリボンや装飾で、含有する魔術素材や、魔法陣に相当する文様を織り込むことのできる表面積が増えるのです。
なので、貴人のドレスは布を減らして肌の露出面積で華やかさを競う一方で、フリルを増やしリボンを生やしてパニエのボリュームを競うわけです」
魔術防御はお金がかかるから、貴人家としての財力を誇示することもできる。
トーエの仕事が魔術宝石の装飾加工だったことを思い出す。
「フリルを含め、織り込み魔法陣はすべて教会が持つ最新の120nmプロセスで製造したものです」
肉眼では確認できません、とのこと。
「耐衝撃だけで見ても、魔力の使われていない攻撃であれば銃弾くらいは弾きます」
この世界でマシンガンが主武装にならないわけだった。