海洋技術学園の開校1 / お嬢様たちの園児服 / 幼等部
「良家のご息女って感じがするわ」
「伯領地の姫様ですからね」
着替えたイリス様は、エスカレータ式お嬢様学園に通う園児そのものだ。
頭の上に小さなベレー帽。
白シャツに濃藍色の上着は肩かけタイプ。
おなじ濃藍色のスカートはフェルト生地だが複雑な折りひだのついたプリーツ式。
折りひだは腰の後ろでは大きなリボンに束ねられており、尻尾のように折り目が垂れ下がっている。
そしてスカートの中からフリルのパニエが、これでもかというボリュームで存在をアピール。
すぐ下はシンプルな、輝く白のロングタイツ。
エナメルのなめした革色の、丸くてかわいらしいショートブーツ。
銀糸をあしらった薄くちいさな白手袋。
上着の飾りボタンはわずかに金よりの銀。
胸元とベレー帽に、桜色の花びらの校章。
そこだけ心なしか海兵隊っぽくて雰囲気がミリタリィ。
海洋技術学園の学生服をベースにした、幼等部の制服。
ランドセルはない。
イリス様には常に使用人がつくので、荷物は自ら運ばない。
「ご要望でしたら、そのランドセル? に合わせた構想をしますよ」
「ありえないわ。まだ幼い生徒たちに、あんなに大きなカバンいっぱいの教科書を運ばせるつもりはないもの」
私からすると、ランドセルは少女をかわいらしく飾り立てるデザインバッグではない。
日本の暗部、ヒト社会の怠惰、若者には意味なく重いモノ背負わせておいてもオッケーの精神、教科書をしまう場所が設計に織り込めなかった結果のバッドデザインの産物と感じてしまう。
そしてトーエの服飾戦略には、海洋技術学園の授業計画を含むグランドデザインが織り込まれている。
忸怩たる思いだが、こうしてまたいつの間にか、トーエの仕事が増えているのだった。
ともかく。
「それに、イリス様たちには、ソフトケースに肩紐つけたようなシンプルなバックパックが似合うと思うの」
「そうですね。ご用意していますよ」
とそこで、横からレインが、めずらしく抱きつかずにソフトケースを差し出す。
「これなんていかがでしょう」
「あら良い、って重っ!」
密度もあいまって、肩が地面に持っていかれる。
「24mm防爆装甲の切り出しが詰めてあります。重量約40kg」
「なんでこんな重いバッグに」
イリス様には、というかヒトにはとうてい持たせられない重量で『さっきまでの話聞いてた?』と言いたくもなる。
「ヨナさまご用命の対吸血鬼装備です。とはいえこのソフトケースを構えていても、魔弾の直撃を受けたら装甲板しか残らないでしょうが」
「それじゃあ意味ないじゃないの」
「そのとおりです。そして、そのための特殊制服です」