機関長レミュウと古代戦艦イリスヨナの秘密 / あと付けスクリュー
船尾側にまわってみると、イリスヨナにあいた大穴の亀裂から、機関長のレミュウが顔だけ出していた。
いつものペンギン衣装で大柄フードを深めにかぶっている。
童女の身長に大人の体躯、小さな猫耳がフードを押し上げている。
容姿だけ見ると、かくれんぼしている女の子のようでもある。
機関室の引きこもりだと聞いていたけれど、本当に船外に出るつもりがないらしい。
レミュウと目が合う。
「こっちを見るな。周囲に気づかれる」
妄想に支配された患者みたいな言動だった。
レミュウ、もしかして疲れているのだろうか。
しかし、イリスヨナの船体にあいた大穿孔よりも、そこから顔を出すレミュウよりも、衝撃的な光景がある。
古代戦艦イリスヨナの船尾、いつもは喫水下にあって見えない箇所が、頭上に。
大型輸送機の尾部にあるような、大きなカーゴハッチ。
小さく開いた隙間から、スクリュー軸が飛び出すように生えていた。
「まさか古代戦艦イリスヨナのスクリューが『後付け』だったとはね」
自分のことながら想像外だった。
古代戦艦イリスヨナの主推進機は、どうみても斥力推進装置のほうだ。
レミュウによると、イリスヨナの斥力推進機が不調を起こした際に、仕方なく取り付けたのがスクリュー推進だったという。
ハッチの開口部を見上げる。
「いちおうシールしてあるけれど、充填剤にシワが寄っていて、見るからに雑な仕事よね」
このハッチって、もともとは潜水艇の発進を想定しているのだろうか。
「ロボットのプラモデルみたいな雑さよね。なんで大丈夫だったのこれ」
「イリスヨナの機関出力は膨大なのだ。この程度でも十分に海洋で活動できる。
それに施工した頃はまだ、人類は古代戦艦の整備技術を今ほど失ってはいなかったのだよ」
曰く、今は死んでいる臨時王都セルディカのようなキロメートルサイズの古代戦艦が、大洋をいくつも交易に行き来していたという。
「レミュウ、浸水箇所に使えそうなものは残っていたかしら?」
大抵のものは永く海水に浸かっていたため使えないだろうが、機構のない単純な掃海具くらいは見つかるかなと期待していた。
「浸水箇所から垂直発射管で使える弾種が見つかったぞ。弾体を倉庫へ移すのに妖精の乗員を使いたいのだが」
「もちろん構わないわ」
でも長い期間を海水に浸かっていたその弾頭、問題なく使えるのだろうか?
「使えるに決まっておろう。古代戦艦の純正弾頭は人類史程度の短時間では劣化せんよ」
「はあ」
人類史が短時間とは、なんとも宇宙スケールな時間軸だった。
それに、古代戦艦のほうは故障が多いらしいから、それより丈夫にできている。
「それは当然、古代戦艦よりも機構が単純だからな」
レミュウに言わせるとそうなのかもしれないが、誘導機能付き弾頭を、機構が単純とは普通いわない。
「とりあえず使えそうなものは、こっちで勝手に判断して、進水していないエリアに運び込んでおく」
「よろしく。まあ、敵地かもしれない陸の上で、ずっと横腹の穴を晒してるわけにもいかないしね」