表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
178/630

陸の上の大鯨 / 古代戦艦イリスヨナ座礁

「敵勢力下で弱点を露呈。白日のもとに晒したまま、身動きも取れず、か」


岸辺に引きずりあげられた古代戦艦イリスヨナ。

いま船体が陸上にあって、全体を船底まで見ることができた。

船体装甲など構成要素には厚みがあるのに、全体ではすらりとした印象を与える。


もとから左腹にあいていた水面下の大穴も、いまは何も手当てされることなく外気に触れている。


「こんな大きな船の大きな穴、隠しようもないのだけれどね」


こんな大穴をあけたまま、どうして洋上に浮いていられるのか不思議なくらいの、イリスヨナの大きな弱点。

いま爆弾でも持ってこられたら抵抗する手段がない。

エーリカ様に知られてしまったし、吸血鬼軍の工作兵の皆さんにもばっちり見られて、付近住民にも。


もしかして、船として露出を恥ずかしがるべきところか、これ?

などと、どうでもいいことを考えつつ。


しかしまあ。


「自分で言うのは抵抗あるけれど」


諸外国では船を女性性で呼ぶというが、納得できる肢体の美しさを連想させる曲線を描く船体形状。

衝角は船首と一体化しており、ひときわ大きな噛み締めた牙のような接合部。

後退した球状船首。

船底は平坦でなく、鈍い刃のような角度がついている。


この船ひとつで世界中、どこまでも行けそうな。


「綺麗な船だわ」


私の趣味に合う。


「そうですか」


隣に立つ同好の氏であるミッキは、美観というものに関心はない。

おためごかしで心にもない同意を口にするタイプでもない。

私は、ミッキのそういうところに好感を持っている。


彼女には見えている世界が違うのだろう。

古代戦艦イリスヨナのことも、私とは違う目線で見ている。


どう見えているのかは、わたしにはわからない。


「シミュレーションの時も思っていましたが、イリスヨナの船体デザインは私が設計するものより、姉さんのそれに近いです」

「どういうこと?」

「造波抵抗や静音といった、流体力学に最適化した形状とは、少し違います」

「見せるための船底だと?」

「意図された形状とは限りません。ヒトは鳥の羽根や魚の鱗、森の中で見た山嶺に美しさを見出しますが、それらは美しさを意図して造形されたモノではありませんから」


対して私たちの作る『択捉』は、ある種の美しさの印象を与えることを意図して、コピー元から造形を変更している。


----


全長300mもあるイリスヨナの船尾へ向かって地上を移動しながら、たまに周囲のことも見渡す。


昨晩の戦闘で、川岸にできていた巨大な血の川は、手慣れたようすの吸血鬼軍の工兵部隊が、午前中のうちに焼却処分した。

浅瀬と川岸の巨兵は、工事用の天幕に覆われて姿が見えない。


いまは、軍用列車の曳き綱、馬車と各種族の工兵が、アリのように無数によってたかって回収作業中。

巨大な包帯でぐるぐる巻きにされたミイラのような状態で、軍用の複線列車に乗せられていく。


「イリスヨナもあれで運んでくれないかしら」


列車に乗せろという意味ではなく、すぐそこの河川に船体を放り込んでくれれば、それだけでいいのだけれど。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
本作に登場する架空艦『古代戦艦イリスヨナ』を立体化! 筆者自身により手ずからデザインされた船体モデルを、デイジィ・ベルより『古代戦艦イリスヨナ』設定検証用模型として発売中です。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ