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古代戦艦の姫さらい再び / 古代戦艦には向かない交渉

「レイン、私にはまったく理解できなかったのだけれど、どういう結果になったの?」


セルディカ王家との会談に参加したのは良いのだが。

私は会談中ひとことも発言しなかったし、レインがしていた会話の内容が、まったく理解できなかったのだ。


ヨナが貴人の政治バトルに疎いことを知っているレインは、子供の質問に答えるような優しさで説明をしてくれる。


「まず、チセによるお姫様の誘拐はなかったことになりました。

ヨナさまと意気投合したお姫様が自発的にイリスヨナに来訪し、そこで留学を希望なされた、というストーリィで合意しました。

よって、犯人であるチセへのお咎めはナシです」


正確には、ヨナさまがお姫様を誘拐したと思い込まれているのですが、誤解を解かずにおきました、とのこと。


「留学って、海洋技術学園?」

「そういうことになります」


幼等部に籍を用意することになった。

イリス様、チセに続く三人目だ。


「ヨナさまからすれば、単にイリス様の同年代のお友達が欲しかっただけでしょうが。

ソフィア姫が真面目に考えてOKを返したのは、向こうにとって無視できない提案だったからです。

ヨナさまは、彼女たちが喉から手が出るほど知りたがっているイリス漁業連合のヒミツを、私たちが直接丁寧に教えて差し上げますよ、と言ったんです。

飲まないはずがありません」


彼女たち、というのはセルディカだけでなく、その後ろにいる大国ストライアのことでもあるのだろう。


「さらに、お姫様が留学なされるということは、お付きの者がゾロゾロとついてくる。間諜を堂々とイリス伯領地に送り込んで、さらに邸宅という活動拠点まで確保できます」


異国のお姫様が暮らす家となれば、有形無形に手出ししずらい建物になる。

大使館みたいなものがひとつ置けるということか。

確かにスパイ活動には役に立つ。


「それともうひとつ、イリス伯との縁談の匂わせをしました。

これも、セルディカの国是である血縁重視から蹴ることがむずかしい。断れば国内の野党勢力から突き上げを喰らいます。

もちろん私たちがこの場で約束するのは、会談のセッティングだけです。確約はしていないし、あとはそちらの努力でどうぞ、という形ですが」

「ほとんど詐欺同然にきこえるけれど」

「娘が親の再婚に反対しない、という言質を取れただけでも、相手にとっては大きな収穫なのですよ」


そういうものらしい。


「レインの言い方で聞くと、相手に都合が良すぎて聞こえるわね。ウラがあると疑われてしまうんじゃないの?」

「もちろん、相手はそう思ってますよ。

というか、今回の事態は、どう繕っても、ウラがあること前提ですから、繕うだけムダではありませんか」

「まあ確かに」

「しかし、どんなに頭をひねっても、ウラなんて見つかりません。

当然です。彼らが思うようなウラなんてないんですから」


もちろん、相手が不安のあまり、ありもしない罠を見つけ出したつもりになってしまう危険はあるが。


「それにセルディカは、罠だと思っても、こちらの提案に食いつくしかありません。

断れないのですよ。なぜならセルディカは大国ストライアの意向で動いているからです。

現場と黒幕で、意思決定にワンクッションあるから、メリットのある提案を不安程度で止められませんよ。

忠誠心を疑われ、判断の責任を追求されますから」


中間管理職の悲哀が感じられる。


「で、最初にエーリカ様に話を通しに行ったけれど、あれはなに?」

「私たちの提案は、大国ストライアへの情報提供、はっきり言って利敵行為そのものです。

当然、このままでは背信行為となります」

「それはまずいわね」


エーリカ様と敵対するのはまずい。


「そこでイリス伯領地からエーリカ様へ『スパイを身中に招き入れますから、お好きに狩ってください』という提案です。

これにより我々は『大国アルセイアのために、自らの領地を罠として差し出す忠義者』となれるわけです」

「なるほど」


仕組みがやっとわかった。


「イリス伯領地で、アンチスパイやスパイ刈りをしていいですよという、イリス様による許諾まで付けての提案です。

伯領地での警察権がどれだけ重いものであるかは、さすがのヨナ様もご理解いただけていると思いますが」


どうだろう。

まあ多分。


イリス伯たちには話を通さず、伯領地の警察権を一部差し出す形になってしまったわけだが。

国家間戦争のタネをもみ消すため、エーリカ様相手に約束してしまったことだから、でゴリ押しする公算なのだろう。


イリス漁業連合をなしくずしで承諾することになった経緯もそうだったが、『エーリカ様と約束した』という事実はイリス伯に対しても強い圧力になる。


心から慕うイリス様の、実の父親を脅迫しているという事実に、思うところがないでもないが。


「特にエーリカ様は、推奨した私たちが裏切り者の疑いをかけられた直後ですから、渡りに船な提案です」


確かに、エーリカ様にとって良い条件だけれど。


「そんな提案、エーリカ様が飲むの?」


エーリカ様はプライドの高いお方だ。

弱みにつけこむような提案をして、応じる人物ではないのだが。


「もちろんエーリカ様は飲まないに決まっています」


やっぱりダメだった。


「これが、レインの限界です。

エーリカ様には敵わないとわかっていて、現世利益で配慮をし、表向きの敬意を払いはしますが。

しかし、どうしても弱みを探してつけこもうとしてしまいますね」


ため息。


「だから、最後のひと押しはヨナさまにお願いします。

エーリカ様をこの世で一番、恐れ敬っているのはヨナさまですから。

大好きなネズミで遊んだら、ネコも満足してくれるでしょう」


つまりは人身御供だった。


レインのこういうところ、本当に私情が排除されていて、容赦がない。

モチベーションの起点は、私への純度が高すぎる好意から来ていて恋する少女なのに、思いビトを他の女に弄ばれることも、他の女と戯れることも組み込んだプランを立てて、実施できてしまう。


「せめて会場はホームグラウンドにしました。イリスヨナの船内です。

イリス様が目を覚ます前にお済ませください。どうかおふたりで、存分にお楽しみいただきますよう」


とはいえ、レインが用意した結論は、完璧に私の要望通り。

困難な状況の中にあって、イリス様を守り、チセが起こした王族の誘拐騒動を見事に納めてみせている。


であれば、私もレインの良い仕事ぶりに応えて、身を削るのに否はなかった。

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