姫釣り古代戦艦 / 政治はレインに頼るとして...(またそれか、と古代戦艦イリスヨナは反省するのだった)
いま、イリス様がお目覚めになった。
こっちを放り出して駆けつけたいところだが、さすがにマナーが悪いだろうと思って我慢。
艦内放送で少し会話を交わし、とりあえずはソフィア姫にご挨拶をすることに決まる。
目覚めたばかりのところを申し訳ないが、仕方ない。
とりあえず部屋のみんなに知らせておく。
「そろそろイリス様がいらっしゃいますよ」
レミリアさんがノックして部屋に入る。
「イリス様がお目覚めになりました。これからこちらにご挨拶にいらっしゃいます」
「ありがとう」
ソフィア姫がすごい顔をしてこちらを見る。
空中を揺れていたタコ足もギュッと鳴って急停止。
意図がわからない私に、レインが教えてくれた。
「ヨナさま、魔力を使わず『遠見』したみたいになってます。警戒されて当然かと」
え、それは悪いことをしたかも。
謝っておく。
後ろでレインがため息。
まもなくイリス様がやってきて、ソフィア姫と必要な挨拶の儀礼を交わす。
滞りなく役割を果たすと、イリス様は一言。
「ヨナに任せます」
イリス様からの『それでいい?』と珍しく確認する目線に、私は当然、お任せくださいと返す。
誘拐した姫様の処遇、どうすればいいのかなんて、まったくわからないけれど。
方針だけは決めるにしても、レインと実現性を揉んで実施は丸投げ、とするしかなさそう。
副長を見るソフィア姫を見て、それからチセ、イリス様と同じ背丈のソフィア姫を見て。
ちょっと思ったことがあったので、まずは言うだけ言ってみることにした。
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「あの、ソフィア姫、ウチに留学しませんか?」
「は?」
「チセとイリス様に同年代の学友がいたらいいなって思っていたのです。ふたりの友達になってくれたら嬉しいのですが」
唐突な提案に、しかしお姫様の視線はチラチラと別のところを見ていて。
「海洋技術学園は海に関するあらゆることを学ぶ学校です。
操船技術を学ぶことが多いから、イリスヨナに乗船する機会がありますし、イリスヨナの船員と関わることも多いでしょう」
と、ミエミエの餌を出してみたりして。
とりあえず言ってみただけの提案を、しかしソフィア姫は予想外に真剣な表情で受け止める。
しばらく思案して。
「お主たちの提案を飲もう」
状況がNoを言わせないにしても、不承不承という雰囲気はなく。
いくらなんでもチョロすぎないか。
別にいいけれど。
まあ、すべてはこの拉致騒ぎを解決してからの話になる。
騒ぎというか、まあ本当に誘拐なのだが。
と、レインの脚に身体を撫で上げられる。
「誘拐犯じゃない、んですよね?」
レインのじっとりとした目に、はいと答えるのが心なしつらい。
「で、レイン。なんとかならない?」
「なんとかして欲しいですか」
「ええ」
どこまでカードを切ってよいか、どこまでリスクを犯してよいか、という含意があったが。
「イリス様に害が及ばない範囲で」
「ふつう、この状況でそれは前提ラインではなくて、守れるかも怪しい最終防衛ラインなんですけれどね」
そう言ってレインは、数秒天井を見て考えてから。
「仕方がありませんね。なんとかしましょう」
「いいの?」
「今回に限って使える手があります」
そう言ってレインは立ち上がり。
「では行きましょう。まずはイリス様から伯領地の警察権委譲の許可を頂いて、次にエーリカ様に手回し。そしてセルディカ王家です」