VS巨大人造人間3 / 大鯨狩り / 陸に引きずり上げられる古代戦艦
敵の巨人兵器を1騎撃破。
掌砲長が拳を握って叫ぶ。
が、直後に報告。
「岸から1体が跳躍してきます!」
衝撃。
あの巨体で飛んで跳ねるなんて。
なんてインチキ。
一瞬、飾りの仮面と、存在しない視線が交わされて。
ふりかぶられる巨大な拳が、艦橋の第2発令所へ向かって振り下ろされる。
イリス様以外の全員が、接地を失う。
「ヨナさま、大丈夫ですか」
「レイン、ありがとう」
レインが8本の脚で床と天井を踏みしめて、両腕で私を抱きかかえている。
見上げると、ひしゃげた第2発令所の天板。
『第2発令所を放棄! 観測員は総員退避!』
第2発令所はいちばん目立つ艦橋の真上にあるから攻撃対象にされているが、いずれはこの第一発令所に気づかれる。
このまま何もしなければすぐに次が来る。
『12番発射管開け。信管無調停、散布ゼロ秒』
次の瞬間、衝撃とともに丸窓の視界が消える。
ごががががっ、という連続音とともに、衝撃と噴煙が発令所周辺を包み込む。
イリスヨナ前部甲板が爆発したようでもあった。
視界を奪って一瞬気をそらせれば、わずかでも時間が稼げる。
「もう1体に組み付かれました」
スクリューはすでに空転ギリギリの最大出力。
2騎の巨人に組み付かれて、攻撃するには近づきすぎた。
が、何もしなければどのみちおしまいだ。
「掌砲長、3番4番の調停よろしく。撃った魚雷が、戻ってくるようにね」
「まったくもってイカレてやがる!」
「失敗したら米潜水艦の後に続くことになる。自沈ってことになるのかしら」
しかも自分で戻ってくるように調停して沈んだら、間抜けもここに極まれりだ。
レミュウが艦内電話に怒鳴る。
『ヨナ、右スクリューが破損した!』
破損があったのは感覚でわかる。
船体損傷に痛みは感じないが、各種センサの計測値が主観に統合されることで生まれるのは、言いようのない不快な違和感。
『機関は?』
『通常運転中で異常なし』
『出力は現状のまま最大で維持します』
わずかでも水をかく機会があれば、のがすわけにいかない。
期待は薄いが。
「このままでは、陸に引きずりあげられます」
二体の巨兵に前後で抱きかかえられて、荷揚げされるマグロのように、イリスヨナは接岸させられる。
船尾から乱暴に押し上げられて、船底が川岸の土を掘り返す。
『掌砲長! 前部魚雷発射管、どれでもいい。時限信管5秒、準備できたら圧搾空気の圧力最大で即時に射出!』
「まかせろ!」
発射した魚雷が接地してこちら側に跳ねたら、蹴り返されたら、と心配する余裕はない。
後部魚雷発射管は、巨兵に押さえつけられて旋回機構を動作できない。
「発射!」
魚雷は、足元で起こった衝撃に体勢を崩すが、それだけだった。
内部のダメージはわからないが、外見には装甲が汚れた程度で傷もなく、動きもそれほど変化ない。
地上で魚雷を使っても、巨大な装甲相手には効果は薄い。
装甲を身にまとった巨兵のそばで爆発が起こるだけでは、時間稼ぎにもならなかった。
状況を打開する方法を、何も考えつかない。
このまま、何もできなければ。
古代戦艦イリスヨナは破壊され、イリス様を轢き殺されてしまう。