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VS巨大人造人間2 / 迫る巨兵たち

全身甲冑の巨大な兵士。

視界の脇にある遺跡臨時王都の地上部300mが、比較して巨人の身長の高さを認識させる。


丸窓から双眼鏡で見ている副長から報告。


「推定全高は100mを超えています。距離およそ2000」

「こちらでも捉えているわ」


掌砲長が潜望鏡を覗きながら敵を観察する。


「目視による推定だが、装甲厚は120mmはあるぞ。薄い関節部でもたぶん30mm」


現実感を喪失した巨大な黒い影が、そろって一歩を踏み出す。


「巨人3体が移動を開始」

「歩いた!」


それはもちろん歩くのだろうが、あんな巨大なヒト型物体が動くこと自体、常識を疑う。


続けて2歩3歩と、歩く、歩く、歩く。

夢遊病のような、ふわふわと現実のない歩みの足並みなのに、奇妙に揃っていて。

足元の雑居建物群を危うげなく踏み倒しながら、歩調は乱れず。


「あれが吸血鬼の操る巨人兵器ってわけ」


ファンタジィでいえば吸血鬼には『眷属』がいるもので、吸血鬼に準ずる異能を持っていることが多いが。

私のいた世界はそもそも吸血鬼が存在しなかったし、あんなに巨大な『眷属』なんて、フィクションでもきいたことがない。


「あの黒い巨人たちは、何なの? 魔術人形?」

「魔術師のゴーレムではありません」


遠くの巨大な影を見上げて、レインが答える。


「吸血鬼の所有する人型攻城兵器です。ホムンクルスとでもいいますか」

「あの巨人が、人造人間だってこと?

あんなに大きいヒト種がありえるの?」


この世界にいる『巨人族』は確かに大柄で筋肉質だが、2メートルを超えることはなかったはず。


「現存する巨人族とはまったく別物の、今は失われた古い種族です」


レインによると、今より巨大だった古代の巨人族の体組織を素材として、人工血液の応用で培養を行ったものが巨人兵器。

原始の巨人は生命力がとても強く、そこに血と生命の扱いに長けた吸血鬼の能力を組み合わせることで建造された。


頭部がないのは、吸血鬼の能力で操っているため脳が不要だから、とのことだ。

構成物質はおおむねヒトと同じ生体素材だということがわかっているのみで、詳細は機密。


巨大エビのときは巨大外骨格のありえなさを浮遊リングが説明していたが、巨人の頭上には巨大重量を懸架している何かは見つけられない。

巨人本体が異常に剛力かつ、軽いのだろうと想像するしかない。


「ともかく、巨人はそれほど早くも固くも重くもありませんが、魔術によらずに、あの巨体を支える強度と動かす筋力があります」


レーダの反応は巨大な装甲の金属に阻まれている。

しかし甲冑の動きは生き物らしかった。

中身は肉が詰まっているというのだから、恐れ入る。


副長が報告。


「増速しました。接触まで推定60秒」


心なし前かがみになった甲冑が、小走りをはじめる。


一瞬、肋骨の溝が開いて、ちらりと見える鰓が酸素を吸う。

顔がないから口もないのだ。


「地上に引きずりあげられたら打つ手がないわ」


イリスヨナは増速しつつ逃げるが、しょせんはスクリュー2本の推進。

すでに速度にのった巨体のほうが早い。


「追い抜かれた!」

「逆進しますか?」

「ダメね。速度が死んだタイミングで組み付かれる」


考える。


勝利または問題解決までの道筋はまだ見えない。

が、ともかく、最初の1体は撃破することができる。


「掌砲長、魚雷調停よろしく。前部発射管を4発装填、直射で接触起爆」


巨人の1体が、イリスヨナを捕まえるために河の中へ。

河は巨人の腰まで深さがある。

予想通り、水中では巨人の足が遅い。


『前部1番2番、発射管注水』


そして、相手が水中なら魚雷が使える。

魚雷は水中でこそ威力を発揮する兵器だ。


そもそも地上兵器は貫通力や破片による殺傷が主であり、爆発の衝撃力は空中ではかなりが失われてしまう。

注射器に空気と水を入れて押し込む実験は、日本では小学生の科学の実験にある。

魚雷は周囲の水によって衝撃を余さず伝えることで、標的を破壊する。


狙うのは、甲冑に守られた内側の駆動部。

装甲のわずかな隙間の向こうにある肉。


『撃て!』


魚雷が真っ直ぐな航跡を描く。


水中起爆の衝撃。

一瞬遅れて巨体が浮き上がる。


水飛沫が紫色に濁ってゆく。

上半身は浮き上がった装甲の隙間から血を吹き、千切れそうな状態のボロボロの下半身。


巨人はそのまま、重力に引かれて水中に没する。


「レイン、攻撃の効果のほどは?」

「吸血鬼の超兵器とはいえ、さすがにアレではもう動けないです。この場での戦闘復帰はないでしょう」


大破判定で良いらしい。


『敵、巨人の1体を撃破』

「よっしゃあ!」


掌砲長が拳を握って叫ぶ。

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