VS巨大人造人間1 / 巨人、大地に立つ
チセが、王城から姫様を誘拐して船に戻ってきた。
そう報告を受けて、慌てて古代戦艦イリスヨナに戻ってきたところなのだけれど、それどころではなくなってしまった。
吸血鬼ヴァーツラフからの臨検要求。
状況把握のために遅れてきたレインが、発令所に飛び込んでくる。
ヒトの数倍の速度で駆けてきた太い8本の蜘蛛脚が、私のそばで綺麗に整列する。
「ヨナさま、何やってるんですか。早く逃げましょう」
「レインが言うなら」
ためらうことなく機関を始動する。
『総員、第一種戦闘配置。このまま緊急出港します』
私はこの世界に生まれたばかりで、状況判断ができるほど社会情勢に詳しくない。
それに、政治担当のレインが言うなら信じるだけ。
無許可の出港があとで問題になることくらいはわかる。
勝手に出港するのは逃亡と思われても仕方ない状況だが、それにしてもちょっと悠長だったか、と思う。
「イリスヨナへの臨検を要求されてる。臨検、受け入れるという選択肢はないの?」
「ありえませんね」
レインが即答した。
私は、やましいところはないのだし、臨検くらいは受けてもよいのではないかと考えていた。
古代戦艦として、そう気軽に乗船を許すなというところはあるかもしれないが。
「証拠をでっちあげられます。
というか相手は、最初から臨検なんてする気はありません。時間稼ぎです。
イリスヨナを破壊してしまえば、無罪を証明する証拠も証言者もぜんぶ消えてなくなります」
「それは確かに」
「後のことは政治の問題ですから、証拠の有無なんてうやむやで構わないんですよ」
「そんなにマズい状況なの」
イリス様さえ逃がすことができるならば、古代戦艦イリスヨナの破壊は、むしろ望むべき結末でさえある。
そういう期待を込めた、私の無言の視線に、レインが首を横にふる。
だめか。
耳元でレインがささやく。
「イリス様は、ヨナさまを召喚した特別な巫女です。
ヨナさまが生まれた理由がわからない以上、ほかの古代戦艦と組み合わせれば、また使えるかもしれません。
可能性が残っているかぎり、吸血鬼が放っておきはしませんよ。
たちまち謀殺されます。
現状でイリスヨナを失うことは、イリス様の死と同義です」
レインが姿勢を戻して、畳みかける。
「隣国基地に配備されていた予備含む巨人兵器3機すべての同時投入、ヴァーツラフ卿は本気です。
古代戦艦イリスヨナを破壊して、ヨナさまを殺す気ですよ」
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大陸鉄道の、2路線を専有した、巨大な特殊車両。
被覆が剥がされ、三角の支台がジャッキアップされる。
乗っているのは巨大なヒトの足。
王都の夜を投光器が切り裂く。
イリスヨナの集音マイクが、足元で働く工作兵たちの掛け声を拾い、暗視カメラが巨大な陰影を捉える。
巨人兵器が自ら立ち上がった。
全身を覆う、首から上のない巨大な甲冑が3騎、悠然と立っている。
足は地面に向かって太く、反対に上半身は冗談のように小さく、猫背に細腕がだらりと垂れ下がっていた。
胸のあたり、みぞおちにかかるまでの巨大な仮面。
なんだあれ、まるで。
「巨大、ロボット?」




