艦長室と高級ベッド / 海防艦択捉寮で暮らそう6
「艦長室、どっちが使いますか」
じりっとした視線の応酬が一瞬あってから。
「先輩に譲ってあげる」
「わ、ありがとうございます!」
言いながら奥のベッドにダイブするスイ。
それにしても艦長室をあっさり譲るなんて、フーカも丸くなったのか、あるいは私の意向に配慮しているのか。
「フーカは隣の下士官室を使ってちょうだい」
艦長以下、士官相当職員までは個室。
船員は二段ベッドの大部屋になっている。
ただし抽選と事情を優先して船員用の個室もある。
客室はなし。
「やっぱり、副長が艦長の隣の部屋で寝るの? こういうとこ、本当に冗長性ないのね」
「択捉が想定してるような海獣が、バイタルパートをピンポイント攻撃はしないわよ。それと運用的に、艦長と副長は同じ時間に寝ることはあまりないでしょう」
「まあそれもそうね」
ほかに想定される驚異としては、この世界では魔法とか古代戦艦とかがあるが、明らかにオーバーパワーで圧倒的な攻撃優位。
一発もらったら、択捉ていどでは冗長もなにもない。
スイが別のところに話題をやる。
「2交代ですか」
「ほんとうは3交代にしたいけれどね」
そもそも、択捉の初期運用は日帰りを想定しているので、平常時に艦内で寝る必要はない。
あくまで部屋自体が冗長な非常用という想定だ。
「このベッドが非常用ですか。すっごくもったいないです」
地元漁師の娘なスイには、艦長室の組み付けベッドでも十分豪華な部類らしい。
まあ確かに、私が知っている市販ベッドよりもモノが良いような?
「ヨナさんが肌に触れるものにはしっかり気を遣えと言ってくれたので、士官のベッドはすべて貴人家御用達のメーカーで揃えました」
「えっ」
本当に高級ベッドだった。
「お高いのでは?」
「同じものを数揃えるだけですから。小さくて軽い簡素なものですし」
いやお高いのだろう。
択捉のコンポーネントは、できるだけ既成品で揃えようとしたが、それでも新造の一点モノは多い。
発令所の航法装置など、特注品中ではブランドのオーダベッドは安い方、ということだろう。
もう買ってしまったものだし、まあいいか。
『ヨナ』が細かいところに口出ししはじめたら収拾がつかなくなる。
「それに実際、船員が使うベッドが良いモノであるに越したことはないしね」
「ヨナ満足そう」
「はい」
覗き込むイリス様にご機嫌で答える。
「寝心地最高ですよー」
スイがゴロゴロとする。
「寮のベッドより良いです。わたし、きょうからここに住みます!」
「ええ、それはもう、よろしく」