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海軍といえばカレーらしいので / 海防艦択捉寮で暮らそう5

ご飯が炊けた連絡が届いて、整備中の択捉の厨房から鍋が到着。

トーエが本日のレシピを解説する。


「ヨナさんが再現を望んでいた『カレー』は、北のスパイスソースに近いですね。香辛料をたくさん入れてあって、食べると身体が温まります」

「私の世界では暑い国の料理だったわ」


以前そんな話をしたとき、フーカがツッコみを入れていた。


「なんで暑い国でさらに身体を温める料理を食べるのよ。冷たいもの食べればいいじゃない」


それは確かに。


きいたことがある話の『暑いときは身体に悪い冷たいものより、むしろ熱いものを摂取するほうが良い』なんて、いかにも忍耐を好む日本人がでっちあげそうな理屈で、私は信じていない。


きっと本当の理由が何かあるのだろうが、世界には謎が多い。

艦船のレーダーマストが、シロウトには用途不明なアンテナ群で賑やかなのと同じだ。


「スパイスソースは薄手のクレープ生地と食べる料理で、イリス伯領地のあたりでも、民族料理を扱うカフェなどで食べることができます」


ガパオライスやガレットと同じ扱いということらしい。

そういえば、ドライキーマカレーを扱う喫茶店は、東京にも結構あった気がする。


トーエは自分で味見をしてみせてから、私にひとさじ差し出す。


「いかがでしょう?」

「おいしい。問題ないわ。さすがトーエ」


トーエの調合は参考になる料理があるとはいえ手探りのはず。

でも東京で食べられるやつよりおいしいのではないか。


私最近、トーエになんでも任せすぎで、問題がある。


それにしても。

私は鍋を覗き込む。

日は暮れて周囲には焚き火の明かり。

鍋の中の様子は伺えず、想像するしかない。

スパイスの良い香り。


「地獄の底のような料理だわ」


----


これもまた、あの縁起が良いとはいえない負け軍隊こと大日本帝国海軍の伝統というやつでは、という葛藤はあるものの。

カレーの美味しさに罪はない。


たぶん。


『艦船に択捉とかつけてる悪趣味がいまさら何を言っても遅い』といつもの諦めをして。


カレーはお皿一枚で配膳も簡単に終わり。

イリス伯領地周辺では食前に神にも命にも祈らないそうだけれど。

イリス様の食卓では最近、両手合わせと略式の号令があるようになった。


「それでは」


両手を合わせて、そっけない小さな声。

周囲は両手を合わせるだけだが、私だけはいつもの癖で言葉が出る。


「では、いただきます」

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