艦隊決戦ボードゲーマーズ / 実戦経験なきことが
私とフーカによるテストプレイは、すでに10戦を数えて。
さっきから『考えろ』『脳みそ入ってないんじゃないか』『無様ね』しか言われていない。
海防艦による3対3の遭遇戦。
その中の一戦は、たとえばこんな感じ。
両翼を広げた陣形のフーカに対して、私は左艦へ集中して数の優位を作ろうとしたものの。
フーカはこちらに舵を切らせて船足を鈍らせ、動きの自由がなくなったところへ魚雷を交差で投射。
さきに一隻を失って、あとは優位を保ったまま轢き潰されてしまった。
「弾切れになったからって敵艦に体当たりするのはやめなさい」
「はい」
体当たりの判定はルールにあって、ダイスロールによる増減値はあるが、当たりに行ったほうにも当然ダメージがある。
「体当たりで足を止めて、もう一隻で仕留めるという作戦は悪くないけれど、失敗して味方に魚雷が命中したのは笑えないわね」
そのうえ、魚雷を撃ったもう一隻も、照準を定めるために無理な進路をとって、そこを敵艦に食われてしまった。
「というか、日頃あれだけ人命尊重を謳っておいて、戦い方といった捨て身もいいところじゃない」
「返す言葉もございません」
もっともな指摘に、こちらとしては『ううっ』と唸るしかない。
なにしろ私の頭が、フーカの戦場支配に追いつけない。
食い下がるには綺麗な戦い方をしていられない。
「まあ、古代戦艦イリスヨナの実戦記録からして、それほど良くはないのだろうなとは思っていたけれど、これほどとはね」
ヨナが目覚めてから、古代戦艦イリスヨナは運用と戦闘の記録を残すようになった。
それまで船の運用までいいかげんに行われていたということなのだけれど。
おおらかさというか、イリスヨナの妖精は時間軸に興味関心がなく、掌砲長や機関長は面倒くさがって指摘せずにいたという。
確かにあまり詳細なことを残しても誰も読みはしないので、運用記録は何もない日は1行程度の航海日誌だ。
イリスヨナの戦闘状況については、そのまま残すと問題になりそうな戦いが多いため、ヨナが書いたメモを綴じまとめた手帳を艦長室に置いている。
こちらは備忘録と、艦長候補に読んでもらう目的で、スイはこれから読むことになる。
フーカはもう読んでおり、ついでに私と直接ヒアリングで、戦闘中の判断タイミングまで詳細を把握している。
「実戦については勝てたからいいものの、教育課程であんな答案を出してきたらゼロ点をつけるわ」
けちょんけちょんだ。
実戦経験の優位を傘にきるとか、勝利の実績で反論するとか、そういう警戒はフーカにはないのだろうか。
「あんたはそんなことでいちいち下らない文句をつけてくるような奴じゃないわよ」
と、変な信頼みたいなものを断言した上で。
「そんなアホなことを言うやつ、説教するに決まってるじゃない。
確かに実戦をフィードバックすることは大事よ。
でも、訓練は次の実戦で勝つためにやるの。
そして、訓練で次の戦いで負けるようなコトをしてたら、前の実戦で勝ったなんて事実には何の意味もないんだから」