吸血鬼と戦争はしません(したくないですお願いですから平和に艦船つくらせて) / 札束で殴るおしごと / 掌砲長のふるなじみ1
「ヨナおまえ、吸血鬼と戦争するんだって?」
掌砲長が言う。
私は全力で否定。
「しない、しないわ。戦争はしません」
「というか、争いにならないために、グランツ家の事務屋さんに来てもらうのよ。掌砲長のツテを頼って」
「グランツはイリス漁業連合に賭けてるんだ。別に娘の私を通さなくても大丈夫だぞ」
そう言う掌砲長はあからさまに面倒臭げで、関わり合いになりたくないオーラ全開だった。
掌砲長はさっきまで、古代戦艦イリスヨナで垂直発射管の調査とメンテナンスを行っていて。
グランツから来た事務方と、対面する約束の時間になったから、私が呼びに来た。
掌砲長がホスト役になる会合で、なぜ私が呼びにきているのかはちょっとわからないけれど。
「どういう噂になっているかは知らないが、盛り上がってるみたいだぞ。海軍閥でなくても、吸血鬼に虐げられた氏族はひとつやふたつじゃないからな」
「吸血鬼差別なんじゃないのそれ」
降りかかる火の粉は払うが、興味のないイザコザにリソースを割きたくはない。
イリス漁業連合が旗振り役をさせられる展開は全力でお断りしたい。
イリス漁業連合の究極の目的は、艦船を作ることと、イリス様の自由を手に入れることなのだから。
「というか吸血鬼のこと、まさかもう噂になってるなんてね」
一応事実は伏せているのだけれど。
「伏せてる、隠してるだって? あからさまな対吸血鬼戦の陣地設営を開始しておいて、何を言っているんだか」
「だって、襲撃の危険があるなら、職員や作業員を危険なままにはしておけないでしょう」
面倒ないらない犠牲を出したいわけではない。
すでにイリス家の近衛や麾下の警備会社には、レインによる教会指導のもとで、対吸血鬼戦を想定した準備が始まっている。
イリス家には近衛がいたのだけれど、イリス漁業連合が行う通商の馬車まで警護してもらうには人手が足りない。
なので地元の暴力が得意な顔役を抱き込んで、警備会社みたいなものをやってもらっている。
日本でやったら暴力団排除条例あたりで大変なことになりそうだが、そこは灰色だったのを、イリス様の足元のクリーンアップを兼ねて整理させてもらった。
これも、イリス家では手が回っていなかったところを、グランツ家の金とコネが入って解決した形だ。
「でも情報規制はするんだな」
別にとがめる様子はなく、掌砲長は不思議そうな顔をしながら、頭の上の作業ゴーグルを撫でる。
「ヨナ、あんたの良心というか、善悪の基準ってよくわからんよな」