漁船のコンカラ爺
「コンカラと申します。漁船に乗っておりました」
骨ばった顔の、細身ながら体格の良い、初老の男性。
イリス伯邸でいま行われているこの顔合わせは、ハンママが彼の付き添いで、ミッキがエスコート。
技術者集団である『海外旅行教会』から、ぜひオブザーバとして迎えたいと紹介されたのが彼だった。
漁船団における実質の提督補佐である副長までのぼり詰めた人物で、数年前に長年の相棒であった艦長が病死したため、後追いのように船を降りたのだという。
つまり彼は、複数艦の指揮がとれ、漁業にも詳しいという、この世界で稀有な人材だ。
艦長候補のスイとフーカに教官としてつけるのに、彼以上はいないと言っていい。
「海軍にも顔が利くので、面倒が起こった際に、折衝をお願いすることもあります」
「それはハンママもそう言っていたわね」
「海軍出身で話が通じる、数少ない相手なのよ。技師たちのあいだでも有名よ」
ハンママにまで言われる海軍の悪評というのはどういうものなのだろう。
それは置いておいて。
『海外旅行協会』のみんなからここまで評判の良い人物なら問題ないだろう。
もちろん漁業経験者かつ指揮経験者というのも大きい。
マニュアル作成が必須かつ急務であるイリス漁業連合に、絶対に欲しい。
コンカラ氏に向き直る。
「それで、コンカラさん。まだ立ち上げ前の組織で申し訳ないのだけれど、イリス漁業連合に力を貸していただけないかしら?」
「もちろんです」
彼もここまで来ておいて断りの返事もないだろうとは思っていたものの、きちんと良い返事をもらえたことで、たしかに安堵はしたのだった。
「艦長が亡くなって、もう船とは縁が切れたものと思っておりましたが。
これについては、海軍出身者だったからかもしれません。
ヒトが再び海洋に進出することは、私と艦長の夢でした。
なので、お恥ずかしながら、いてもたってもいられず」
ハンママが応じる。
「アンサズ艦長がご存命であればよかったわ」
「ええ。ですがそれを言うなら、ミッキ君のお祖父様も機会をずっと待っておられた」
「そうですね」
こういうとき、ミッキは『私が意思を継ぎます』みたいな慰み事は言わない。
「生きていれば、参加できます」
「確かに」
と、事実を話すミッキの言葉に、なにかの哲学を見つけた様子で、コンカラ氏はうなずいた。




