機関室への入室に難のあるものたち / 座敷わらしのチセ1
「娘はチセというのか。我様の国土に許可なく踏み込むのはまずい」
「まずいって、例の結界?」
「そうだな、わかりやすく言うと、結界が壊れてしまうのだ」
そういえばフーカの時もそんなことを言っていたっけ。
それにしても、語感と言うか、艦船の機関室に結界ってなんかイメージ的にミスマッチだ。
「現代魔術で言う結界とは意味が違うものだがな。便宜的にそう呼んでおくのがわかりやすい」
「それで、チセに機関室見学は無理?」
「無理ではない。少し待て」
フーカのときはNGで終了だったけれど。
そう言ってレミュウは機関室に引っ込み、しばらくして両手に何かを持って出てきた。
針金を曲げて作った、手のひらサイズの小さな槍のようなものと、鍵のようなもの。
急場で間に合わせに作ったのだろうが、さすが機関長は手先が器用だ。
「いかにも大げさで現代的でないから、本当はあまりやりたくはないのだがな。
その娘は言葉は問題ないか? 自ら名乗ることはできるな?」
「ええ。会話は問題なく」
「それが本当ならとんでもないコトだな」
そう言うとレミュウは、右手左手に槍と鍵を持ってチセに向き合う。
「我様は古王レミュエル・ジエンドセブン・ガリバーである。そなたの名前をお聞かせ願いたい」
「チセ・アルバーロ・アルバーロ」
「チセ・アルバーロ・アルバーロ殿に問う。貴殿は我が王国の土を踏むことを望むか」
チセは少し悩んでから答える。
「望みます」
レミュウの口上は、恥ずかしがっていたわりに、どうに入っており重みがあった。
「チセ・アルバーロ・アルバーロ殿に問う。貴殿が我が王国の土を踏む理由は何か。
もし戦いを望むなら槍を取れ。我様は全霊をもって侵犯者と戦う。
もし平和を望むなら鍵を取れ。我様は全祖に誓ってそなたを歓迎する」
それきり言葉は途切れて、チセはまた少しのあいだ鍵を見つめてから、そちらを手にとった。
レミュウが大業に頷く。
「我が国はチセ・アルバーロ・アルバーロの入国を許可する。歓迎するぞ」