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万能戦艦イリスヨナ / 愛しのイリス様のためなら古代戦艦だって総て滅ぼすことができる【百合】 / 愛しい我が巫女姫のために艦隊作るよ  作者: MNukazawa
デザイナ・トーエの一日 / 人類の海洋再進出と吸血鬼の影 / VS巨大イカ空中決戦
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自分らしく、後輩らしく / 艦長候補生たちは漁網を引く2

大声を張り上げて、巨人族や鬼の混血も混じって力仕事をしている集団に、飛び込む。

ぎょろりとした目で見られて、あたしはなんとも思わないが、スイはわかりやすくブルブルと震えだす。


「あんたたち、魔力がある種族なのに筋力強化もできてないじゃない。魔力保持者なら網はこうやって引くのよ」


スイの後ろに割り込んで、掛け声のタイミングで足に魔力を込める。

全身がひとつのテコのように動き、これまでにないチカラで網が陸へ引き上げられる。


「すごい、すごいですフーカ!」


スイが目を見開いてこちらを見る。

その驚きの表情に自尊心を満足させつつ、言葉は冷たく言い放つ。


「仕事中でしょ、集中しなさい!」


圧倒的な実力を身につけ、見せつけることで、君臨する。


「もっと足に力を入れなさい! 腕力で引けるはずがない。もっと体重をかけるのよ」


身体を動かすのに慣れた者は無意識にしている綱引きの姿勢を言語化し、実際にやってみせる。


「魔力があっても使えないなら無いのと同じよ。無能力者でも姿勢と体重を使えるヒトのほうがずっと網引きの役に立つわ!」


実際は魔力で筋力を強化しているので、フーカに限っていえば、体勢は関係ない。

しかし大きな態度で目耳を集めた少女が、言ったとおりの仕草を大げさにやってみせ、態度以上の結果を見せつければ、無視はされない。


それから先輩に活を入れる。


「スイ、あんた足元はいいけれど腰が座ってないわよ。こうするの」

「ひゃっ」


言葉では持ち上げてみせるが、スイの姿勢はまったくなっていない。

スイの腰の後ろから手を回して、姿勢を矯正しながら、周囲に聞こえる大きな声でスイに指導する。


「掛け声が小さい! でも大きければいいわけでもないわ、ちょど良い声量で腹から息を吐けば、チカラが入ってラクに引けるのよ」


これで、周囲の巨漢を含めてみんなが、自分の姿勢と声量を意識しながら網を引く。

フーカが魔力で引いた分もあって、網の引き上げが他より早くなる。


自分たちが周囲よりも優秀となれば、ヒトはやる気を出す。

周囲は嫉妬しながら、上手くやるやり方を盗んで学ぶ。


現場の生産性を上げる目的ならば、後日きちんと新しいやり方が定着しているか確認する必要はあるけれど。


フーカは自分の目的を果たし、最初の賭けに勝ったことを確信する。


「ほらスイ、あんたも『候補生』なら、きちんと周囲にやり方を教えて回りなさいよ」

「いえそんな私は」

「仕方ないわね」


仕事しながら見てなさいよ、と言って、私は同じ網のちがう場所に割り込んで網を引いて見せる。


「あなたは体躯がいいからもっと砂場に足を食い込ませて、膝も使いなさい。ほら、これでこの班の誰より引けるようになったじゃない」


こういう時、ただ言って回るだけではダメで、口だけ出して仕事をしないというレッテルを貼られてしまう。

やってみせろと言葉でハッパをかけつつ、スイがマネをしても上手くはいかないのだ。


----


早めに網を引き上げて他を手伝い、魚の振り分けと加工作業へ移動中に、声をかけられる。

筋骨隆々の若い大男。


「なああんた、魔力保持者なんだろう? 筋力強化が使えるみたいだが、もしよかったら、訓練の仕方を教えてくれないか」

「あなた鬼系? あなたたちって、親筋から種族に合った魔力教育の方法を受け継ぐものじゃないの?」

「それは上流階級や、本に載るような名のある集落の話さ。

田舎じゃきちんとした修行法を知っている年上は少ないし、知っていても若者にはそう簡単には教えてくれない。

特に、集落を飛び出すような生意気なやつにはな」


魔力の訓練は、集落の中では年長の求心力と権力の源のひとつでもあるという。

それはフーカが触れる機会のない世界の、知らない話だった。


「わたしの知っているやり方でよければ、いいわよ?」


それから口調を改める。


「ウチの従業員になってもらえるなら、社員教育は先輩の努めだと、ヨナ様にも言われています」

「あんたの舎弟ってことか?」

「そこまで深い仲になれとは言われていません。地上勤務者は直属の部下にはならないでしょうし」


話していると、周囲に似たような境遇の者たちが集まってくる。

出稼ぎの大工仕事に飽きた大男たちや、避難民の集落で仕事を探していた頭からツノの生えた少女たち。


彼らは種族的に多くが魔力保持者で、それゆえに属する集落では魔力の訓練がひとつのステータスになっている。

みな、集落のはみ出し者として教育から外されたり、避難民になって修行どころでなくなっていたりという事情があるそうだ。

それならまあ、部族構造に横からちょっかい出して面倒なことになるリスクは低いか、と判断。


「ヨナ様がダメと言わなければ、いいわよ」

「ありがとう。助かる」


周囲からそれぞれの感謝の言葉をかけられる。


----


それに答えながら、フーカは意識の端でスイの様子を追いかける。

スイは少し離れたところで、年上たちに囲まれて可愛がられていた。


「スイちゃん、イリス様のところで働いているんでしょう? それなのに漁の手伝いまでして偉いわねぇ」

「お手伝いもお仕事のうちなんです。おばさん、くすぐったい」


顔見知りと思わしきおばちゃんに頭を撫でられながら、出稼ぎの男性に話しかけられる。


「あんたの後輩、すごいな」

「はい、そうなんです! フーカはすごい娘なんです」

「あんな後輩がいたらプレッシャーが大変なんじゃないか?」

「いえ。まあ確かに、たまにちょっと、フーカは当たりが強いですが」

「やっぱり」

「でもいい子なんですよ。自慢の後輩です」

「あなたの方がいい子って感じだわ」

「そうですか? えへへ、ありがとうございます」


フーカは、スイのそんな様子を見て、あちらも大丈夫そうだと一息。


やり方はひとつじゃない。

ヨナの言っていたことは正しい。

実力で敬意を勝ち取ること、恩を売って忠を受けること、恐怖で統率すること、親しみを持ってもらうこと。


スイはうまくやっていけそうだ。


フーカ自身も『能力はあるが怖い後輩』として、人当たりがよく明るい先輩をうまく引き立てることができたようで。

きょうもきちんと後輩らしく振る舞うことができた、とひとり納得した。

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