デザイナ トーエの一日 / エーリカ様の洗礼
スイとフーカを送り出した裏方、幕間でレインがヨナさんと雑談をしている。
「平民の立身出世譚としてよくある導入に『お前、平民のくせに貴人である俺に歯向かうなんて面白い奴だな』っていうのがあるんですが。
あれ別に、身分を弁えない跳ねっ返りが気に入られた、ということでないんですよね。
だって魔力の素質がない平民は、貴人と言葉を交わして失礼を働く前に失神しますから。
現実であれは『おまえ魔力保持者かもしれないな、ウチで兵隊やれ』っていうだけの話で」
平民があこがれる立身譚。
現実は、なんともロマンと色気がない。
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「あら、きいていた以上に素敵じゃない」
エーリカ様は貴人なので、肌が出る服装に抵抗感がない。
スイとフーカがファッションモデルになっている。
フーカは言うまでもなく。
スイも着飾れば十分に見れる女の子。
思いっきり目を閉じて顔を下へ向けているけれど。
「わたしの着れる分はないのかしら?」
枕もなく単刀直入なエーリカ様に、ヨナさんが恐れをしらない答えを返す。
「この服は、イリス漁業連合の制服になる服ですから」
イリス様の麾下の服ということになる。
エーリカ様に着せるには文脈が違う。
「スイとフーカです。ふたりとも艦船の艦長候補です」
「艦長と言うからには、巫女の血筋かと思ったのだけれど、そっちのスイは魔力も持ってないみたいね?」
不思議そうなエーリカ様の表情。
「私たちの作る艦船は、古代戦艦ではありませんから。巫女は不要です」
「へえ、不要ねえ?」
関心するようなそうでないような、エーリカ様の視線はフーカへ。
エーリカ様の明らかに意味のある視線に、ヨナさんは言葉で答えずたまにする曖昧な表情を浮かべる。
エーリカ様とフーカの目が合う。
トーエも出身は貴人の血筋なので、エーリカ様が視線に乗せた有形無形のプレッシャが読み取れる。
無形のほうは、エーリカ様の魔力が乗った視線は、トーエ程度の貴人ならたじろぐほど。
有形は言うに及ばず。
美形のエーリカ様は童女であるというディスアドバンテージを跳ねのける瞳の切れ味。
ヨナさんが惚れ込むのも納得の恐ろしさ。
「フーカ、あなたは魔力保持者なのよね。なにか舞って見せてもらえる?」
『あたしが?』
というフーカの言葉が聞こえたような気がした。
無言のまま言葉のかわりに、フーカはスカートを揺らして魔力で炎弾を作り出す。
『舞ってみせろ』というのは貴人が格下の魔力保持者を試す言い回し。
尊大とはいえ、エーリカ様が口にするなら格が足りないということはない。
エーリカ様と同類の、相手を刺すかたちをした瞳。
指先の小さな炎弾が、妖精のようにフーカの周りを浮遊する。
フーカはエーリカ様に見せることにしたのは、制御の上手さ。
魔力で作った攻撃を放つこともそれなりに高等技能だけれど、フーカは視線の届かない背中まで火を一周くるりとまわす。
そうしながら、フーカ自身も本当に踊りを踊ってみせる。
これも魔法を操る力を示すけれど。
「良い娘を見つけたわね」
「? ありがとうございます」
ヨナさんは意図を汲みきれていないようだけれど、エーリカ様は純然と褒めている。
フーカは魔力をひけらかしているだけではない。
エーリカ様の意図を汲み、運動することで、エーリカ様が知りたがっているセーラー服の運動性能を示している。
こういうところ、ヨナさんはどうにも疎い。
スカートが可憐に舞い、下着が見える限界の運動量を見せつけ。
フーカの制御は魔力だけでなく肉体まで。
「いかがでしょうか」
エーリカ様は飾らずに答えた。
「ちょっと生意気なのが玉にキズかしら?」
瞬間、笑顔と共に衝撃波。
そう思うほどの魔力で圧倒されて、フーカは平然とした様子を作って見せ。
ふふん、と鼻が鳴りそうな。
「それは失礼いたしました」