デザイナ トーエの一日 / 造船技師ミッキ・クロウド・エヴナの朝
時間がくると目覚ましが鳴ってチセが起きる。
チセの朝の準備を済ませ。トーエも着替えて用意を整えて家を出る。
行き先は隣のミッキの部屋。
トーエたちが暮らすコンドミィはよくある隣り合わせの集合住宅で、ヨナはこれを『寮』あるいは『長屋』と呼んでいる。
ヨナが知る住居としては、急造の仮設住宅っぽさもありつつ、アパートにかなり近い。
この世界の建築技術の高さと新築であることも手伝って、住み心地はよい。
合鍵をつかってミッキの部屋に。
ミッキはすでに起きて顔を洗い、資料を読み始めていた。
資料を見ているミッキをそのまま、肌のケアなどをしつつ、言葉を交わす。
「朝ごはんは食べた?」
「食べました」
メニューを聞き出す。
昨日ヨナさんに持たされたパン。
まともなものを食べたようなので安堵する。
ミッキは若いのもあってお腹がちゃんと空くので、仕事に熱中するあまり倒れるまで食事を忘れるということはない。
だが技術者一族エヴナ家の血縁の常として、おざなりになりがちではあるので、聞き出してチェックする必要はあった。
チェックしてダメだった日は、隣の部屋からリンゴを持ってきて剥くなどする。
エヴナ家の血筋をひく人間としては、1日3食欠かさないといったいわゆる『生活力』があるトーエのほうが珍しくさえある。
「昨日の夜もイリスヨナで仕事していたの?」
「はい」
ここのところミッキは、ヨナと深夜作業をしている日が多い。
「最近多いわよね。なんとかならない?」
「船体の強度設計にイリスヨナが必要なんです」
「なんだかわからないけれど、すごいのねイリスヨナ」
「はい。すごく便利です」
国宝の古代戦艦を『便利』あつかいだが、ふたりとも疑問に思いもしない。
ヨナさんとミッキは、なんなら毎晩のように深夜のイリスヨナに入り浸っている。
よく眠ることも仕事のうち。よい仕事は心身の健康から。
ミッキもそれはよく理解しているのだが、昼はイリスヨナは漁に出ており、ミッキも現場指揮や研究開発の打ち合わせがある。
「せめて、行き帰りに夜道を歩くのはなんとかしてほしいかな」
「夜道はイリス家から護衛がついていますから」
とは言ったものの。
どちらかというと、ミッキはイリスヨナの空いた客室に泊まればいい。実際そうする日も多い。
ミッキはトーエに朝顔を見せるために、戻ってきているのだった。
それは完全にトーエのためであり、直接要求したわけでないけれど、突き詰めればトーエのわがまま。
だからちょっと申し訳なく思いつつ。
「今度からは、私が朝会いにいくようにするから」
そろそろ手続きが終わり、トーエとチセにイリスヨナへの乗船許可がおりる頃合いだった。




