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万能戦艦イリスヨナ / 愛しのイリス様のためなら古代戦艦だって総て滅ぼすことができる【百合】 / 愛しい我が巫女姫のために艦隊作るよ  作者: MNukazawa
デザイナ・トーエの一日 / 人類の海洋再進出と吸血鬼の影 / VS巨大イカ空中決戦
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桜の花で飾らないで / イリス漁業連合のロゴマークを決めよう

『世界に、富士山ほど美しい山は数あれど、桜のように美しい花は他になし』


なんて、謙遜を混ぜてそれらしく着飾っただけで直球なナショナリズムだけれど。

この世界には『桜』はないらしい。


「日本で花といえば桜だったのよ。だから、大日本帝国海軍も桜にちなむデザインや命名がされることが多くてね」


フーカが冷静にツッコむ。


「戦闘艦なのに花の意匠で飾るの、かわいらしすぎない? ヨナの世界では戦艦って男性が多く乗るんじゃなかったっけ?」


なるほど確かに、と指摘されてから気づく私。

なんとなく前提条件みたいになっていて、疑問にも思わなかった。


「あー、なんというか、国の象徴のひとつでもあったのよね。

かわいいワンポイントとかじゃなくて、荘厳なデザインの紋章とかに用いるの」


みんなの脳内では戦艦の艦橋に花冠が乗っている姿が連想されたのかもしれない。


「ヨナさま、桜ってどんな花なんですか」

「春に咲く桃色の花。切れ込みの入った5枚の小さな花弁があって、満開の花が木の全体を覆うのよ。

入学など人生の節目が開花時期に重なるから、多くの日本人にとって特別な花になってる。

散り様が潔い、というのが特に昔の日本人の美観に響いたそうで、由緒ある式典の意匠にも多く見られてるかな」


今でも美術品や日用品のワンポイントに使われる。女の子の名前に『桜』とつけることも多い。


トーエが興味を示して、私がイメージを話しながらイラストにしていく。

私が描けばいいのだけれど、ヨナは手先が不器用なだけでなく絵もヘタなのだった。


「確かにディティールによって、かわいくも格式高くもできる、いいデザインの花ですね」


書き上げたトーエが興味深そうにデッサンを見ている。


「では漁業連合のシンボルは桜をベースにしましょう」

「えっ」


思いがけない話になって、私はうろたえる。

トーエには、この前の制服デザイン以外にも、コーポレートカラーやシンボルなどのデザインもお願いしていた。


「ロゴマークは重要ですよ。組織の象徴のひとつですから。ヒトは多かれ少なかれ組織に人生を託し、時に命を捧げます」


確かに桜の花はキレイで好きだけれど。


「いやでも桜はダメ。やめよう」

「どうしてダメなんですか?」

「えーと、そのね」


めちゃくちゃ説明しづらい。


散り際の美しさを褒め称えるという美観から、最終的にそれを国民に強いた結果の惨状が、頭をよぎる。

そういう国があり、軍隊があって。

私は、そういう国のそういう軍隊が所有し運用して自国兵士を死に追いやった、そういう兵器だった艦船を愛している。


私の悪趣味はともかくとしても。


散り際の美しさを褒め称えられてきた花。

正直、あまりに縁起が悪い。


「まあ、今さらもここに極まれりなんだけれど」


それを言うなら、惨敗を喫した大日本帝国海軍の艦船を、知らない世界でわざわざコピペで再現し、名前までそこから採っておいて、今さらではある。


「別に桜にこだわる理由はないでしょう?」

「ないですけど、ないでもないんですよ。『この世界でまだ誰も知らない花』が使えるというのは、デザイン作成担当としてはありがたいんです」

「どういうこと?」


この後のトーエの説明によると、思いがけず重要な問題だった。


所属を示す家門・社章・隊章のたぐいを一意に保つこと。

これは、この大陸を2つに分割している2つの大国、大国エルセイアと大国ストライアをまたがって守られているのだという。

有名ドコロの王族・貴族・財閥などが使っているため、使ってはいけない、勝手に使うと大変マズイ意匠というのがある。

この世界の花、鳥、葉、槍、雷、剣の特定の組み合わせや切りとり、矢の束ね方と本数、剣を天に向ける方向、世界樹の模式図など。


特に戦場では、敵味方の識別にも関わるため重要な約束事となっている。

これらのルールを破ると、嘘の身分を騙ったことになる。

商標などとして法律で保護されているわけではないが、社会秩序を無視する者として鼻つまみにされるし、由緒ある血族や古い組織を敵にまわすことになる。

大国アルセイア・大国ストライアのどちらでも通用する共通認識であり、ある意味では法よりも厳しいルールだ。


不文律で縛る空気というのは、いちおうの文明人としては、ヤクザに感じるところもあるけれど。

とはいえ、商標権や海賊版対策など、文明的に解釈することもできる。

赤十字は世界中の戦場で、国際法と人権を守る特別なマークになっている。

そういったことから、意匠のオリジナリティとアイデンティティを守る、というルールには賛同できるのだった。


「重複の確認も大変なんです。

もちろん、最終的に偶然のデザインかぶりや類似デザインがないかのチェックはするんですけど。

それでも、最初から他になさそうな意匠が候補にあると、カブるリスクが少なくなって、仕事がやりやすいんです」

「そういうことなら、仕方ないわね」


トーエには初期艦『択捉』について、してもらわなければならない仕事が山ほどある。

省力できる仕事はすべて短く済ませるべきだ。


「ベースデザインは桜の花びらにします。

花びらの数と、他に組み合わせられる意匠で差別化しましょう。

桜の花びらがオリジナルですから、配置やその他の要素は人気がある意匠を使っても大丈夫です。

たとえばイリス家と縁のある意匠であるとか」

トーエは少し考えてから。

「例えばそうですね、ヨナさん、月とかお好きですか?」


こうして、『桜の花びらと三日月』というイリス漁業連合のロゴマークが生まれたのだった。

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