巫女姫フーカの秘密 / 魔力保持者と髪飾り
大声でツメられながら、至近距離でフーカの顔を見ることになったスイが、口を開けてぼうっとした。
「あ」
「何? 顔に何かついてる? それとも見惚れてるのかしら」
フーカは確かに美少女なので自信過剰というわけではないのだが、それにしたって自尊心に満ちた言い様だった。
レインが私の耳元に口を寄せて小さな声で説明してくれる。
「いやいや、あんな直近で魔力の放出を受けたら、一般人のスイは虚脱しますから」
「そういうものなの?」
「この前ちょっと説明しましたけど、貴人の魔力にアテられたら、魔力に慣れていない一般市民は顔も見れません。素質のないスイならなおさらです」
そういえば。貴人がひごろ垂れ流ししている魔力を抑えれば、それだけで雰囲気がまったく違う。それだけでフーカはかなり身分を隠せる、みたいな話をレインがしてくれた覚えがある。
「フーカ、まだ魔力抑制が完璧じゃないですね。奥歯をもう一本破壊してやろうかな。今度は親知らずじゃない歯を」
「やめてあげて。魔力修行もできるだけ穏便な方法にしてあげて」
レインはフーカの出自を隠蔽するときに、フーカの親知らずを引き抜いた。
麻酔はなかった。顔の輪郭を変えるのと、魔力制御の修行のためと言っていたが、本音と効果の程はヨナにはなんともわからない。
「えっと」
突発の魔力オーラ(?)にアテられて、ちょっと正気が戻りきっていない様子のスイは、ぽーっとした表情でフーカの顔を眺めて、視線をそらした先で目をとめて。
左右で対になってる、赤い石の髪飾り。
「髪飾り、綺麗ですね」
「ふえっ!?」
今度は何を動揺したのか、フーカの頭上で火花が踊った。
短い発火の音とともに、左の髪飾りをとめるリボンが弾けた。
衝撃で、意識が戻ったあとも若干焦点ハズレ気味だったスイが正気に戻る。
「ああっ! なんだかわかりませんがすみません。大丈夫ですか? せっかくお似合いの髪飾りが」
「いや、あなたは悪くないわ。本当に」
切れ落ちたリボンを、スイが両手でキャッチする。
トーエが横から覗き込む。
「髪飾り、魔道具だったのね。長く大事に仕舞いこまれていたみたい。髪留めのゴムが経年劣化で切れただけみたいだから、なおすのは簡単よ」
髪飾りは、フーカが旅の途中で買ったという、赤い魔石の魔術具だった。
修道女であるため詳しいレインによると、それなりに数の出ている品で力自体は大したことはないが、それなりに高価だという。
トーエは貴人向け魔術アクセサリの専門家だから、使われている赤い宝石の価値は見抜いているだろう。
わかったうえで、トーエはあえて話題にしない。
「ではスイになおさせてください。トーエさん、教えてもらってもいいですか?」
「ええ。いいわよ」
「ちょっと、別にいいわよ、あたしが自分でするから」
トーエが一瞬、観察する目をフーカに向けてから、ふっと表情を和らげて。
「やり方、わかります?」
うっと言って返事に詰まるフーカ。
トーエに頭を下げてから、スイの方に向き直り。
「仕方がないからやらせてあげる。あたしの大事な髪飾り、めったなことをしたら許さないんだからね」
「はいっ。お任せください」
やっぱり偉そうな態度のフーカと、若干緊張気味のスイ。
微笑ましげにやりとりを見守るトーエ。
そんなやり取りを通じて、メンバ間の新しい力関係が見えてきた気がした。