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万能戦艦イリスヨナ

 海面に着水した艦砲の衝撃が、全身を揺らす。

 ゆっくりとまぶたが上がる。

 部屋は広いが閉所で暗かった。



 第二艦橋第一発令所。

 数名の船員が、それぞれの仕事をこなしていた。2人の掌砲が潜水艇についているようなアクリル丸窓とペリスコープを、それぞれ覗き込んでいる。操舵がいない。聴音が装着したヘッドホンを両手で押さえて耳を澄ましている。

 視界が赤暗い。けれど周囲の様子はわかる。


「私の声が聞こえますか?」


 斜め上の声の方を見る。

 光沢のない上白紙のような髪。14歳くらいの容姿の少女が見下ろしていた。縦に割ったばかりの宝石の原石のような緑色の目が、私の瞳の奥を見つめている。

 指揮所中央の椅子に座っていた。


「問いかけに反応あり。こんにちわ。あなたのお名前は?」

『連合王立付属艦艇DDD...イリスヨナ』

「意識を確認。自らのことをイリスヨナと認識。標準言語による会話が成立しています」

 イリスヨナって何だ。

 私の名前?


『船長、オーダーを』


 それは私の声だった。多分。

 船長と呼ばれた少女が答える。

「あなたはただここに座っていてくれれば大丈夫。後は私たちで全てさせて頂きます」優しい声。視線が外れて、一転して冷静な声「艦の状態は?」


『第二戦速最大。舵ようそろ。ジオイドゼロ。発射管すべて問題なし。第三艦橋使用不能。インデックスに不可視領域。同期率0.2%』


 また私の声がした。喉が震える。

「ゆっくりと深呼吸をして。大きく息を吸ってみて」了解。「吐いて。意識して深呼吸を続けて。今の速度で、今の量を」

 突然、視界が広がる。見えているのは、今いるはずのブリッジからの風景ではなかった。本艦を中心とした周辺戦闘海域状況が、上空からの視点で再現される。

 艦橋から意識が遠のく。

 その時から、時間感覚が無くなった。


 声だけが聞こえる。

『2時の方向に型式不明の艦砲を装備した艦艇。規模は本艦と同程度』『不明艦が発砲。発射間隔は25秒。弾数3。12秒後に着水。推定距離は200。不明艦を敵艦と識別』

「次は命中するかしら」「発射管に魚雷装填」『後部発射管自動装填開始』


「前部発射管も装填開始しました。副長、ここで魚雷を使うのですか。それも7本も」

「言い訳は後からなんとでもできる。今はこの窮地を脱しなければならない」



「調定はできる?」私への言葉。『できません』調定って何だろう。



「雷撃長、調定よろしく。撃破狙いでいい。任せる」

「後部旋回魚雷発射管の制御もらいます。後部3本を直射、前部4本は聴音追尾にします」

「結構」


『後部発射管魚雷装填よし。制御を第二艦橋へ。前部2,3番の装填を確認。全魚雷調停済み』『前部魚雷発射管の装填完了』「発射管開け」『発射管注水完了』「発射」「発射しました。続いて前部」

 3本の直線と4本の曲線が海中に立体的な軌道を描く。


 今気づいたが、艦橋の船員はすべて船長と同じ14歳くらいの少女だった。というか差異はあるものの、基本の容姿まで同一人物のように似通っている。

 雷撃長だけが容姿も年齢も違う。少し年上の、それでも16歳くらいか?

 悪い夢みたい。でも真剣な表情をして、愛らしい顔立ちの女の子たちだな。


 雷撃長が言う。

「次弾装填はいいんですか?」

「もう撃たない。相手は当然回避する。この攻撃で無力化も引き離すこともできずに、さらに攻撃されたら、反転して全速で逃げる」


 敵艦は直射する魚雷へ向けて爆雷を投射して、それから旋回に入った。旋回しながら発砲。これは当然のように当たらず、本船から1200mも離れた水面に落ちた。

 遅すぎる敵艦の右旋回。爆雷投下点はてんで的はずれ。

 魚雷3本のうちの1本が船体に吸い込まれる。


『1本命中。船体後部。エンジン音異常』『機関部、完全に沈黙』『魚雷、3本命中』

「魚雷7本は対処できなかったんでしょうね」

 ドジめ、という小さな声が雷撃長の口から漏れた。他人を罵る口調ではなかった。

「聴音より報告します。船体軋み音増大。多分竜骨の自壊音です」

 敵艦は周囲の海面と共に燃え上がり、2つに折れながら垂直に立ち、そして沈んでいった。


「戦闘配置解除。第二警戒へ」

 少女の声が、私を通って、全艦へ伝わる。

 私の意識は沈んでいく。

つづく


====

<Iris*Yonah in the ark>

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本作に登場する架空艦『古代戦艦イリスヨナ』を立体化! 筆者自身により手ずからデザインされた船体モデルを、デイジィ・ベルより『古代戦艦イリスヨナ』設定検証用模型として発売中です。
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