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スノーウィオウルズ  作者: 凉菜琉騎
第一章 異能力《アナテマ》の開花と絶望
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第二話 協力関係

 ようやく対話に応じて、胸をなで下ろした豊は紗瑠と共にファミレスに来ていた。飲み物を注文してからしばらく、女子と一緒にファミレスへ来た経験が皆無な豊は緊張していた。お互いテーブルを凝視し、さっきまで生死を分ける戦いをしていた二人がすっかり大人しくなっている。

 対話を持ちかけたのは豊であるため、口を開こうとした時、第三者から声を掛けられる。


「こちらご注文の品です。ごゆっくりどうぞ」


 話すタイミングを逃してしまい、ウェイトレスが注文の品をそれぞれに置いて、それに会釈する豊。ウェイトレスは去り際、チラリと紗瑠へ視線を向けたあと去って行った。そして、同じバイト仲間に「あの子、めっちゃ可愛くない? モデルやってたりするのかな?」という声が聞こえてきた。それに豊は心の中で頷いた。

 紗瑠は男女問わず認める美少女。それが余計に豊を緊張させた。

 しかし、自分から対話したいと申し出たのに、無言でいるのは失礼だろう。注文した飲み物を手にし、喉を潤してから再び口を開いた。


「あ、あの、この異能力・・・・・・アナテマだっけ? これは一体なんなんだ?」


「・・・・・・ふぇ? あ、ごめんなさい」


 突如声を掛けられて、変な声を上げてしまったため頬を赤くする紗瑠もまた緊張していた。目の前の飲み物を手にして、喉を潤すと、さっきの事は無かったように冷静な声で言う。


「私もそれに関してはよくわかっていないの。突然右目に激痛が起きて、それでアナテマが使えるようになっていたの」


 右目の激痛から異能力に開花、それは豊が今日体験した事と一致している。


「ということは右目に突然痛みが起こることでアナテマが使えるようになる・・・・・・? となると異能力を持つ者は共通して、右目によくわからない模様と発動時、色彩に発光するって事か」


 紗瑠との戦いの中、危機的状態にも関わらず、豊は紗瑠が異能力アナテマを発動する様子を観察していた。そして得た情報が、異能力アナテマが発動するタイミングには必ず、右目に幾何学模様と色彩に発光する事が分かった。

 ただ他の異能力アナテマ使いが同様の現象が起こるのか、不明である。少なからず、身体のどこかで何かしらの反応があると予想はしていた。


「暁烏さんは他にもアナテマを使える人と会ったことはあるの?」


「何人か知ってるけど・・・・・・。豊さんは本当に何も知らないの?」


「ああ、俺は本当にーー・・・・・・・・・・・え?」


「?」


 ごく自然と紗瑠の口から下の名前で呼ばれた事に、豊は驚愕した。彼女いない歴=年齢、真面に女子と会話した事も皆無な豊。下の名前で呼ばれる事はあり得ないと思っていた。

 ちょっと嬉しい気持ちはあるが、同時に疑問もある。


 ーーなぜ初対面で、さっきまで殺気を向けられた相手に親しげに呼ばれたのか。


「あ、いや・・・・・・名前・・・・・・う、うん、別にいいんけど」


「もしかしてまだ早かったのかな? 私も初めての事だから、異性の方とどう接したらいいのか分からなくって・・・・・・」


 戸惑う紗瑠の頬は朱に染め、チラチラと豊と目の前のコップへ視線を行き来する。そんな恋する乙女な反応に、豊は疑問符を浮かべて当惑していた。

 紗瑠を説得するために、未だに豊が何を言葉にしていたのか、死に物狂いだったため記憶になかった。


「まあ、普通に接してくれればいいんじゃないかな・・・・・・?」


 かくいう豊も異性とどう接したらいいのか分からなかった。


「えっと、話を脱線して悪いが、俺がアナテマに目覚めたのはさっきの事で、全然状況が呑み込めてないんだ。ワケのわからんメッセージが来て、いきなり殺し合いをしろとか意味不明な事書かれてたし」


「そのメッセージだけど、私の方は豊さんが私の事を騙して、アナテマ使いを殺す酷い人間って送られてきたわね」


「は? なんだそれは・・・・・・。そのメッセージ見せてくれないか?」


「残念ながらそのメッセージはしばらくすると、自動的に削除されるらしいのよ」


「削除される?」


 豊はスマホを取り出して、先ほど送信されたメッセージを探すが、どこにもメッセージが残ってなかった。

 紗瑠の言うとおり、何かしらの方法で勝手に削除されるようになっている。


「一体誰がこんな事を・・・・・・。なぜ俺がこんなワケのわからん事に巻き込まれなきゃならないんだよ」


「・・・・・・豊さんも私と同じだったのね。ごめんなさい、豊さんを間違って殺してしまうところだったわね」


「はは・・・・・・」


 殺してしまう事に謝罪をするなんて、おかしいと思った豊は乾いた笑いを上げた。これが冗談じゃなく、本気で殺されかけていたから謝罪で済ませる話ではない。だけど、紗瑠の方も命の危険が脅かされていた。豊と紗瑠は完全に悪とはいえない。もし悪者がいるとしたら、殺し合いを煽動する人物。

 豊はそのメッセージの送り主に怒りを覚えた。


「取りあえず・・・・・・暁烏さんが良かったら協力関係を結びたいと思ってる」


「あ・・・・・・はい。私も初めて、異性の方に情熱的な言葉を向けられて・・・・・・嬉しかった、かな。ただ、まだ私達お互いのことを知らないから、将来の事を考えるのは豊さんの全てを知ってからでもいい?」


「・・・・・・うん? まあこれからの事も考える必要もあると思うし、お互い知ってることを情報交換しなきゃならんよな・・・・・・?」


 豊と紗瑠の会話が微妙に噛み合っていないが、それはお互い知る由もなかった。

 これで協力関係を結ぶことはでき、最悪な事は回避できた。安堵した豊は久しぶりに長く喋った事で、口の中が乾いていた。コップを手に飲み物を飲み、紗瑠も同様に喉の渇きを潤した。

 まず豊が気になっていたのは紗瑠以外の異能力アナテマ使いについて。その事を聞いてみた所。


「他の異能力アナテマ使い・・・・・・」


 紗瑠は気になる相手を脳裏に浮かべ、苦虫をかみ潰したような顔をした。


「えっと、何かマズかったのか?」


「いえ・・・・・・話します。私が知ってる中で特に厄介な、というより私にとって不愉快な相手ですが、鏡のアナテマを使う人物を知ってます」


「鏡?」


「ええ。私が知ってるのは、その鏡の能力で一部の能力を反射する事が可能で、他にも自分の姿を錯覚させたりと、厄介な能力ですよ」


「それが鏡の能力か。そんな人に会ったら俺終わるな・・・・・・」


「安心してください。私が豊さんに近づかせませんし、守りますので」


「え? ああ、それは心強いけど・・・・・・」


 紗瑠の柔和な笑みと慈愛に満ちた眼差しを向けられ、豊は戸惑いを見せた。

 ぼっち歴が多くても空気を読むことは長けており、女子と会話する機会が皆無でも、感情の機微に僅かながら違和感は覚える。これ以上考える余地無く、紗瑠は言葉を続ける。


「でもあの人は男には興味がないので、大丈夫だと思いますよ」


 それは所謂、同性愛者って事だろうか。聞かずとも察した豊は、自分よりも紗瑠の方が危険ではないかと思い至る。

 協力関係を結ぶ以上、持ちつ持たれつの関係だと思う豊。先ほど紗瑠が守る宣言を口にしたように、豊も紗瑠に何かあれば守るのが道理であろう。

 そして、少し緊張した面持ちで豊は口にする。


「お、俺もま、・・・・・・。協力関係を結ぶんだから、な、何かあったら言ってくれれば助けるよ」


 途中まで出かかった言葉が続かず、急に恥ずかしくなった豊はへたれて無難な言葉で伝えた。


「ありがとうございます」


 さっきの話で豊は気になっていた事を口にする。


「アナテマ使い同士で戦う事はよくあることなのか?」


「ええ、珍しくないわね。むしろ私達に送られてくるメッセージ、私達はそれを(エックス)と呼んでいるわ。その(エックス)がアナテマ使い同士で争わせようと煽動してくるのよ。だからお互い命を狙われていると疑心暗鬼に陥る。周囲に助けを求める事も警察に頼る事もできない。自分の身は自分で守るしかできない。その力は私達にある。だから・・・・・・自衛のために私は殺す事を躊躇ないわ」


 先ほどまで可愛らしい笑みや恥じらう姿を見せていた紗瑠。それはどこにでもいる女の子だった。しかし、今の紗瑠は酷薄な笑みを浮かべ、その瞳はゾッとするほど冷酷な目をしていた。守るためとはいえ、紗瑠は何人もアナテマ使いを殺している。

 その事に豊は目の前の少女に恐怖した。


 ーー本当に信用していいのか。協力関係を結んで関わっていいのか。


 そんな事を脳裏に過ぎって、豊は判断に迷いが生じた。


「・・・・・・」


 豊に斟酌した紗瑠は悲しげな顔を浮かべた。それも一瞬の事、次には苦笑して告げた。


「そうですよね・・・・・・。普通はそういう反応をするんですよね。この異常な世界にいたせいで忘れてました。私も舞い上がってしまってバカみたいです。ごめんなさい。私のような人が近くにいると怖いですよね・・・・・・、協力関係の話はなかったことにしましょうか。もちろん、これ以上私は豊さんを襲うことはしませんし、関わったりはしません」


 一方的な言葉を告げて、紗瑠は直ぐに立ち上がって、その場を去ろうとする。

 一瞬でも見せた悲しそうな顔に、豊は紗瑠を疑ってしまった事に自分を叱咤した。

 ワケのわからない事に巻き込まれ、(エックス)に殺し合いを煽動され、誰も助けを求められずに自分の身を守る手段として、手を染めざるを得ない。そんな状況に追い込んだ(エックス)がそもそもの原因である。言わば二人は被害者。

 豊は去り行く紗瑠の手首を掴んだ。


「え?」


「暁烏さんの事を疑って悪い。俺も暁烏さんと同じ境遇になっていたかもしれないのに・・・・・・、ごめん。俺は暁烏さんの事を信じるよ。だから協力関係を結びたい」


「いいのですか? 私はもう何人も・・・・・・。普通なら怖がられても仕方ない事をしているのですよ?」


「それは全部(エックス)が仕組んだ事だろ? 俺もこの先同じ事をしてしまうかもしれない。だから気にしないよ。それに信用できない相手なら普通は俺の対話に応じてくれなかっただろうし」


 一瞬でも疑った豊だが、改めて会話を振り返って、紗瑠が信用できると確信を持つことができる。


「豊さん・・・・・・。はい、ありがとうございます。やっぱり、豊さんは私のーー運命の人なんですね」


「え?」


 紗瑠が最後の方、何か呟いていたが、豊の耳には届いてなかった。聞き返そうとするも、紗瑠は微笑み浮かべて席に座った。豊も同じく席に座ると、紗瑠は言葉を紡いだ。


「実はですね、豊さんの他にも私に仲間が一人いるんです」


「仲間が?」


「はい。豊さんとこれからの事を考えるためにも紹介するつもりなんですが・・・・・・、萌依ちゃんは警戒心が強く、特に男性に対して恐怖を感じるほどなんです。豊さんなら問題ないと思いますが・・・・・・」


「無理強いはしなくていいよ。俺もまだこの状況に把握できてないし、今後どうすればいいのか分からないし」


「ふふ、ありがとうございます。私達の事も考えないといけませんよね」


「? そうだな」


 紗瑠が口にした事と頬を朱に染めた事に、疑問符を浮かべた豊だが特に気にせず返事をした。

 一先ず、紗瑠との協力関係を結べただけでも大きな成果を得た。飲み物を飲み干して、豊は疲労が一気に押し寄せてきた。取りあえず、話は一旦終了し、これからの事は後で考えようと思った豊は、一刻も早くベッドの上で休みたいと思っていた。

 会計しようと思い立ち上がろうとした瞬間、豊の手首が掴まれる。

 ドキッとした豊は紗瑠へ視線を向けると、真剣な顔で見つめられていた。


「まだ言い忘れていたことがありました」


「なんだ・・・・・・?」


「最近耳にした事ですが、今この渋谷ではアナテマハンターと呼ばれる人物がいるそうです。どんなアナテマを使うか不明ですが、気をつけてください」


「アナテマハンター・・・・・・? 会いたくはないな」


 問答無用でアナテマ使いを襲いかかってくるアナテマハンター。最近になってから出現し、名を挙げていると噂される謎の人物。そんな殺し合いを目的とした相手には対話は不可能だろう。できれば会いたくないと強く切望する豊である。万が一ということもあるため、豊は自分のアナテマについて、どこまで扱えるか把握しようと思った。


「それじゃあ、話はこれで終わりでいいか?」


「この後、用事があるんでしょうか?」


「いや、特にないけど?」


「それでしたらもっとお互いの事を知るためにもお話ししませんか?」


「あ、ああ。別に良いけど」


 豊の返答に嬉しそうな顔で紗瑠は言葉を紡ぎ始めた。


「それでしたら豊さんの誕生日とか、血液型とか、趣味とかお聞きしたいのですがーー。あ、まずは私からですよね。誕生日は12月3日、血液型はA型、霧葉女学園の一年の15歳です。趣味はお菓子作りや読書です。それと容姿でよく聞かれるんですが、私はハーフなんです。色んな男に声を掛けられることはありますが、まだ男の方とお付き合いした事がなくって・・・・・・ですが、少女漫画で恋愛ものをよく読みますので知識はあると思います。最初はプラトニックなお付き合いをしてから、色々と経験できたらなーって・・・・・・ふふ。将来の事もゆっくり話し合いたいし、いずれは同棲とか・・・・・・? その前に豊さんのご両親にご挨拶する必要がありますよね。それからそれから豊さんは子供何人欲しいですか? 私は男の子と女の子の二人がいいかなーー」


「・・・・・・あの? な、何の話を・・・・・・?」


 紗瑠の突然のマシンガントークに目が点になる豊。途中から気になる単語がチラホラと耳にするが、疑問を口にする隙無く、紗瑠のマシンガントークは止むことは無かった。

 この後、紗瑠の質問攻めやマシンガントークは一時間弱も続いていた。女子とのトークに最初は嬉しい思いで、舞い上がっていたが、帰る頃には豊は疲労が顔に現れていた。

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