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獣の太陽  作者: garashi
18/20

一言さんお断り♡ 3

「いただきます!!!」


 俺が答える前に、ビャクが机に飛びついて肉を喰らい始める。

 それを見てはぁと溜息をつきながら轟天と互いを見合って、俺達も席についてご馳走になった。口いっぱいに肉を頬張るビャクは、忘れずに強めにぐりぐりしておいた。


 一緒に食事をしながら、色々とゲンさんに教えてもらった。

 彼はかつては鴉に属し人間を忌み嫌っていたが、リサちゃんを育て始めてからは穏健派の様な考えに変わり鴉から抜けたということ。リサちゃんにはすでに両親の件を伝えているということ。ここいらの森は不帰の森と呼ばれており、とても複雑な地形をしているということ。そして、最近はその不帰の森に新人類の賊が出没するということ。

 その賊達は物取りというよりかは、鴉から離れた持たざる者の集落を襲って食料を強奪しているとのことらしい。その時に殺しも辞さない物騒な連中とのことだ。最近はそいつらのおかげで食料の調達にもなかなか行けずに苦労しているとゲンさんは困った様子で教えてくれた。


 また、こちらの目的である鴉のナビエという能力持ちについても知っているらしく、彼は鴉の中でも特別な立ち位置にいるとのことだ。どうやら、その能力の希少性から鴉の頭領に気に入られており、人間に対して友好的な行動を取っても不問にされているらしい。ほとんどの幹部連中が街の中央に位置する鴉の拠点部分に居を構えているのに関わらず、彼だけは街の外れに暮らしているそうだ。


 鴉の拠点についても教えてくれた。どうやら、街全体が鴉の拠点というわけではなく、鴉の構成員が拠点周辺に家を建てて住むようになり、それがどんどん大きくなって今は大きな街の様になっているらしい。ゲンさんが鴉にいた時ですら結構な規模の街だったらしく、今はさらに大きくなっているだろうとこのとだ。


 これは僥倖だと思った。勝手な想像だが、話を聞く限り区画整理を行ったり、事前に策定した都市計画通りの近代的な構成にしているといったことはないだろう。乱雑に建物が入り乱れている街であれば、侵入・潜伏は容易いと考えたのだ。


 翌日にはすぐさま出発したいと思ったが、会話の中に出てきた賊というのが気にかかる。俺達も襲われるかもしれない。何よりゲンさんとリサちゃんが困っているのだ。彼等には色々と情報を提供してくれただけでなく、一宿一飯の恩義がある。恩返しと言っちゃあ大げさだが、その賊達を殲滅することにした。


「ふぁ~あ……」


 俺達が話し込んでいると、リサちゃんが眠そうな顔で欠伸をした。もう夜も遅いのだろう、子供は寝る時間だ。


「わたしもねむいぞ」


 見ればビャクもうとうととしている。こいつもリサちゃんほどではないがまだ子供なのだ。眠くて当たり前だろう。というか、こいつは何歳なんだ?


「リサ、もう遅いから寝なさい」


 ゲンさんに促され、彼女はふらふらと奥の部屋に歩いていく。


「わたしもねる。どこでねたらいいんだ」


「リサと同じベッドで寝るといい。リサ、案内しておあげ」


「わかったわ……ビャクさん、こっちよ、ふぁ……」


 眠そうな目をこすりながら、リサちゃんがビャクの手を引いて奥の部屋へと消えていった。ビャクの奴、大人しく寝てくれればいいのだが。


「ありがとうございます」


 ゲンさんに礼を言う。今日は野宿を覚悟していたところだったのでとても助かった。


「なに、気にするな。あの子の話し相手になってくれただけでなく、盗賊どもをなんとかしてくれるとなれば礼を言うのはこっちのほうじゃよ」


 俺達は明日の朝、ここを出て盗賊のねぐらを襲うことになっている。俺達の申し出にゲンさんは最初は驚いて止めるように言ってきたものの轟天が能力持ちだと話したらぽかんとした後に、じゃあ大丈夫じゃろ、と言って食事に戻ったのには笑ってしまった。その盗賊達は皆持たざる者らしい。であれば彼の言う通り轟天の敵ではないだろう。


「しかし、お嬢ちゃんの様な能力持ちは久しぶりに見たよ。皆ワシらの様な持たざる者には高圧的じゃったからのぅ」


 ゲンさんが白湯をすすりながら言う。


「持たざる者は鴉でも雑兵扱いだとか。能力持ちでなければ鴉の中で良い扱いを受ける事ができない」


「よく知っておるな。おぬしの言う通り、まともに衣食住が約束されるのは能力持ちの幹部達と一部の連中くらいのものじゃ」


「一部の者?」


「ああ。能力持ちでなくとも、幹部連中の身の回りの世話をする召使に雇用されれば、ある程度の生活は保障されるんじゃ」


 まるで貴族みたいだと思ってしまう。世界が衰退しているというのに、なんとも呑気なもんだ。


「明日おぬしらが相対する賊どもも、元は鴉の構成員なんじゃよ。末端として危険な任に従事し命からがら帰還するも、再び危険な仕事に向かわねばならない……。そんな鴉に嫌気が差して抜けていった連中じゃ」


「……」


 いつ終わるかもしれない危険な任に向かわなければならず、疲弊していく。あの日、タラップに上がって船に乗り込み、懐かしき我が祖国を離れてからを思い出す。来る日も来る日も戦闘・移動・警戒・戦闘・移動・戦闘・戦闘・戦闘……。南方戦線ほど過酷では無かったといえども、俺の心をすり減らしていくのには十分だった。ゲンさんの話を聞いて少しだけ鴉の持たざる者達に同情する。


 俺は隣に座っている轟天の方を見た。彼女は湯呑が熱いのか、ふぅふぅと息を吹きかけているがなかなか飲むのに苦戦している。過酷な環境の中で、俺が人としていられたのもこいつのおかげだろう。こいつはいつでも俺の隣にいてくれた。何があろうと俺を裏切ることはなかった。

 俺の視線に気が付いたのか、轟天が俺を見返す。そしてにこっと微笑んだ。その笑顔を見て、俺の心に暖かいものが満ちていくのを感じる。こいつが相棒で本当に良かった。


「おぬしらは本当に通じ合っとるのぅ」


 そんな俺達の様子を見ながらゲンさんが笑いながら言う。


「どうか、リサに可能性を見せてあげて欲しい」


「可能性?」


「新人類と人間の共存の可能性じゃ」


 ゲンさんは、かつて人間を憎んでいたと言っていた。そんな彼をここまで変えたのは、本当にあのリサちゃんだけなのだろうか。


「わたしは信じています」


 轟天がはっきりと言い放つ。


「この世界でも、きっと人と新人類は共に生きることができます。軍曹と轟天の様に」


 彼女の顔には、己の信条に対する確固たる自信が溢れていた。 





 一方、ここは寝室。

 轟天がとてもいい台詞を決めているとき、


「うごご、は、はらがぴー……」


 食い意地が張ったせいで、ビャクは腹痛でうなされていた……。

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