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獣の太陽  作者: garashi
15/20

Soldier and dog girl meet ? 3

 俺と轟天は注意深く馬車に近寄る。轟天曰くあの馬車の中に人間がいるとのことだ。すると、その荷台に布を掛けられた四角い箱の様なものが乗せられている。


「あの中にいます」


 轟天がその四角い物を指さす。中に人間がいるということは、檻か何かなのだろうか。


「布を取ってみよう」


「はい、轟天が行きます。軍曹は下がっていてください」


 そう言って轟天は荷台に飛び乗り布に手をかけると、一気に布を引っ張る。布を剥がされた中の物体が姿を現す。それは思った通り四角い檻だった。


「……寝ています」


「へ?」


 なんと檻のなかの人間は寝ているようだ。さっきあんなでかい音がしたのだが……。

 俺も荷台に乗って檻に近づいてみる。中にはフードを被った小柄な人が一人、大きな背嚢を枕にして丸まって横になっている。お腹のあたりが上下に動いており本当に寝ているようだ。


「どうしましょうか」


「うーん、頭が見えないが人間なんだよな?」


「はい。新人類はわずかに獣臭さも感じるのですが、この人には獣臭さはありません」


「檻に入れられているってことは、さっきの鴉共に捕まった人間ということかな」


「かもしれません。人間を攫ったりもしているのですね……」


 轟天が悲しそうに言う。昨日の婆さんとの話を気にしているのだろうか。


「あっ……」


 轟天の頭を撫でてやる。


「鴉の拠点にいるナビエって奴は人間に対して友好的らしい。それにあのポポ君やピコラちゃん達も俺に良くしてくれた。新人類が皆、人間と仲が悪いわけでもないさ」


「軍曹……ありがとうございます」


「ムニャムニャ……」


 むにゃむにゃ?


「ウゥ~ン……」


 檻の中の人がもぞもぞと動き出す。起きたようだ。


「ファ~ア……ンお?」


 上半身だけ起こして伸びをした後、俺と轟天を見て首を傾げる。フードの中に見える顔を見て息を呑んだ。その顔はとても綺麗なのだ。ふわりとした銀色の髪を後ろで一本の三つ編みにまとめており、しっかりとした睫毛に覆われぱちくりとした黒い大きな瞳がこちらを見つめている。何というか中性的な魅力を備えており、女性だったら美少女で男性だったら美少年と言えるだろう。下半身に穿いているのが黒い細身の長ズボンというのも一層中性的な魅力を引き出している。昔、一度だけ知り合いに連れられて東京の劇団を見に行ったことがあるが、そこで見た少女歌劇に出ていた美少女よりも綺麗かもしれん。


 俺が見とれていると、その謎の美少女か美少年か分からない綺麗な人が口を開く。


「……なんだおまえら」


 何か予想してたしゃべり方と若干違う気がするぞ……とりあえず色々と確認してみなければ。


「貴方は人間ですか?」


「そうだ」


 轟天の言った通りだ。人間かどうか判断できるのは何かと役に立つかもしれんな。


「どうして檻の中に?」


「からすのれんちゅうにつかまったのだ」


「どうして鴉に捕まったのですか?」


「そんなもんしらん! わたしがうつくしいからだろう!」


 何だこいつ……。


「もしかして、おまえたちがいほうじんか?」


 檻の中の美しい人に質問される。


「異邦人?」


「からすどもが、そういっていたのをきいたのだ! ころしのたいしょうのにんげんのことだと!」


 鴉が殺したがっている人間の異邦人……まぁ俺のことだろう。


「……恐らく私の事でしょう。昨日、襲われました」


「やはりそうか! ではおまえはにんげんだ! ぼけっとしてないで、はやくわたしをここからだせ!」


「捕まってた割には偉そうだな……おっと、失礼、今檻を開けるのでお待ちを。轟天、頼む」


「は、はい」


 轟天が檻の鍵部分を掴む。


「……はぁ!」


 轟天が力を入れた瞬間に鍵がバキンと音を立てて壊れ、檻の扉がぎぃと音を立てて開く。


「おおっ! すごいちからだ!」


 そう言って美少女?が大きな背嚢を持って檻から出ると、轟天に礼を言う。


「ありがとう。たすかったぞ!」


「い、いえ……お気になさらず」


 轟天も何だか押され気味だ。そんな轟天にさらに残念な美少女?がまくし立てる。


「おまえはけものつきだろう。なんでにんげんといっしょにいるんだ!?」


「獣憑き?」


「おまえのしゅぞくだ。おまえらは、しんじんるいとおおげさにじしょうしているだろ!」


 人間からは新人類のことを獣憑きと呼んでいるのか。なるほど、獣に憑かれたというのは言い得て妙だな。


「轟天は軍曹の相棒です! お守りするために一緒に行動しているのです!」


 それを聞いた美少年?が俺を見てケラケラ笑いながら言い放つ。


「なんだ、おまえはえらそうにしているのに、こんないたいけなしょうじょにごえいしてもらっているのか! なさけないおとこだ!」


 こ、この餓鬼! 少し気にしている所をついてきやがった……! 第一、偉そうなのはお前だろっ!


「ぐ、軍曹を馬鹿にしないでください!」


「ばかにしているのではない。わたしのしょうじきなおもいをくちにしたまでだ」


「く、口にしないでください!」


「はぁ……で、お前は何者なんだ?」


 丁寧に相手するのが何だかあほらしくなってしまった。


「わたしか? わたしのなまえは、ビャクだ! どうめいで、けものつきのけんきゅうをしている!」


 同盟。昨日婆さんが言っていた、人間側の組織だ。にしても、こんながきんちょが研究者とは。人間側は深刻な人材不足なのかね。


「げんちちょうさをしていたら、からすどもにつかまってしまったのだ! まったく、なんとしつれいなやつらだ!」


 ビャクが憤慨する。こいつを同盟の研究者と知っていたのかは知らんが、鴉側は人間を見つけては捕獲しているのかもしれんな。捕獲してどうするつもりだったのかは知らないが、まぁあまり碌な事ではないのだろう。


「獣憑きの調査……具体的に何を調査していたんだ?」


「やつらののうりょくについてだ」


「能力? そうか、確か人間には能力持ちは生まれないのか」


「そうだ。やつらだけ、みょうちくりんなのうりょくをつかうことができる! ゆるせん!」


 ビャクがまた憤慨するも、見た目は美少女?なのでまったく迫力が無い。


「能力持ちについて解明して、鴉の能力持ちに対抗しようということか」


「さいしゅうてきには、われわれにんげんものうりょくがつかえるようになることを、もくてきとしているのだ!」


「人間にも能力が使える可能性があるのか?」


「わからん!」


 なんじゃそりゃ。


「そこのけものつき!」


 ビャクが轟天をびしっと指差す。轟天が少しびくっとする。


「おまえはのうりょくもちだろう? いったいどんなのうりょくなんだ?」


「何故こいつが能力持ちだと判断できる?」


「さきほど、おりをすでではかいしただろう! のうりょくもちはふつうのけものつきよりも、しんたいのうりょくがとてもたかいのだ!」


 そうなのか。成程、確かに轟天が倒した奴もたいした身体能力だった。不思議な力だけでなく身体能力も高いとなると、まさに進化した生物だなと思う。


「あ、あの、轟天は……」


「確かにこいつは能力持ちだが、どんな能力かはおいそれと話すわけにはいかない」


「けちやろうめ!」


 三度、迫力の無いぷんすかを披露する。


「それよりも、お前はこれからどうするんだ?」


 話を逸らす。能力をしつこく訊かれても答えることはできない。


「もちろん、ちょうさをぞっこうする」


「他の仲間はどうなったんだ?」


「さいしょからひとりだ」


「一人でうろついてたのか。危険じゃないのか?」


「しかたがない。わたしはここうのてんさいなのだ」


「一緒に来てくれる奴がいなかったのか……」


「うるさい!」


「軍曹、この方の同行を提案します。お一人だと、また捕まる危険性が大であります」


 憤慨しているビャクを見ながら、轟天が俺に話しかける。この怪しい人間のがきんちょを心配しているようだ。


「う~ん、それはそうなんだろうけど……」


 俺達のやり取りを聞いて、ビャクが目を輝かせる。


「なに!? いいのか!?」


「まだ決めてねぇよ」


「わたしもどうこうさせろ!」


「うるせぇ!」


「駄目でしょうか……」


 おずおずと轟天がこちらを見る。

 これは予想だが、轟天は自分が人間の仲間であるということを無意識にも示そうとしているのかもしれない。だからビャクを助けようと同行を提案したのだろう。俺としても、人間のこいつをこのまま放りだすのは正直気が引ける。

 しかし、俺達がこれから向かうのは鴉の拠点だ。人間のこいつにとってあまりにも危険なのではなかろうか。こちらとしても足を引っ張られてはたまったもんじゃあない。


「俺たちは鴉の拠点の街に向かっている。人間のビャクには危険な場所だ」


「そ、それは……」


「おまえら、あそこにいくのか!?」


 ビャクが興奮気味で食いつく。嫌な予感がするぞ。


「そ、そうだが……」


「いちどいってみたかったのだ! ぜひわたしもつれていけ!」


「えぇ……」


「からすどものきょてんへのせんにゅうは、どうめいのひがんなのだ」


「しかしなぁ……」


「それに、わたしはげんちちょうさをしてきたから、ちりにとてもくわしいのだ! わたしがいれば、さいたんきょりですすむことがかのうになるぞ!」


 確かに婆さんからおおまかな地理は聞いたが、正直どこまで正確なのかわからない。この世界の文明度合いでは仕方がないのかもしれんが。

 ……まぁ、何とかなるだろう。人間の同行者が増えるのは何かと危険が孕むだろうがほっぽり出すのもいかがなものか。それに轟天が俺に頼んできたのだ。轟天の頼みを無下に却下したくはない。


「まぁ、道案内もいた方が俺達としてもありがたいか」


「では、軍曹」


「ああ。よろしくな、ビャク」


「よろしく。ちゃんとわたしをまもるのだぞ!」


 本当に偉そうだな。


「そういえば、おまえたちのなまえはなんだ?」


「ああ、こいつは轟天だ。そして俺が……」


「軍曹は軍曹です」


 また轟天に遮られる。何で名前言わせてくれないのぉ。


「轟天に、軍曹だな。軍曹は、じこしょうかいまで轟天にしてもらっているのか! なさけないやつめ!」


「ねぇ、俺泣いていい?」


「さぁ、軍曹、ビャクさん! 行きましょう!」


「おう!」


「聞けよっ!」 


 予想外の同行者が増えてしまったが……この先大丈夫なのだろうか。


「軍曹、感謝するであります」


 轟天がそそくさと俺に耳打ちする。


「気にすんな。誰かを助けたいと思うことは大事なことだ。轟天は優しいんだな」


 そう言って頭を撫でてやる。轟天は目を細めて気持ちよさそうにしている。


「しかし、もしこいつが裏切ったり、鴉の密偵だったりした場合はどうするつもりだったんだ?」


 少し意地悪な質問をする。今後の事を考えると、轟天にも情を押さえて行動しないといけない場面が出てくるだろう。そうなった時、轟天の優しさは少し弱点になるかもしれない。


 轟天は俺の質問に対して少し考えた後、笑顔で答える。


「確かにその場合はとても残念です。でも大丈夫であります! もし軍曹に危害を加える存在であれば、責任を持って轟天が殺しますから!」


 ……こいつにその心配はなさそうだ。

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