第45話 王女の決意
《セリア様、会議が終わったとのことです。今、アリスとそちらに向かっているので、少々お待ちください》
「あー、了解」
タイミングよく脳内に響いて来た声に、もう楽しい時間が終わるのかと残念に思った。
……けど、メリハリは大事だ。こっちのわがままで王様を待たせる訳にはいかないし、当初の目的はアガレール王国との協力。私の大切な配下達の生活も掛かっているので、決して無駄には出来ない。
まぁ、それが成立するかは王様の下した決定に左右されるんだけどね。
「……? どうしました?」
「いえ、知り合いがこっちに迎えに来てくれるそうなので、案内は必要なくなりました。すいません、折角のご厚意を無駄にして」
「セリアさんが謝ることではありませんわ。それなら、迎えが到着するまで、またお話でも──」
「ああ、ごめんなさい。もう来ます」
「……え?」
私達のいる花畑に一直線に向かって来る二つの気配。
姫様が頭にハテナを浮かべている間も、それは凄まじい速度で距離を縮めてくる。
そして────
「セリア様、お待たせいたしました。会議が終わり、国王の準備が整ったとのことで迎えに上がりました」
レインとアリス。二人が颯爽と花畑に現れ、私の前に跪いた。
「……ご主人様、そちらの方は?」
アリスの視線が、いまだ呆然としている姫様へと注がれる。
ちなみにレインは私のことしか見ていなかったようで、アリスが言って初めてその存在に気がついたようだ。……もっと視野を広く持てと言いたいけど、レインのことだから仕方ない。
「ああ、この国の第二王女様だよ。暇だったから、お話し相手をしてもらっていたんだ。……それで? 王様はどこに?」
「はい、王座の間にてご主人様を待つ。とのことです」
「……セリア様を待たせた挙句、こっちに来いとは……その無礼をいかがいたしましょう?」
その言葉にアリスもうんうんと頷いていた。
何でうちの子はこんなにも沸点が低いのでしょう? それだけ私を大切にしてくれている証明なんだろうけど、もう少し抑えてくれるとありがたいんだよなぁ。
「別に何もしないから。というか、ここに姫様いるのに物騒なこと言わないの」
「ハッ、申し訳ありません」
「……あ、あの、セリアさん? この方達はいったい……?」
「姫様、ごめんなさい。実は今日来たのはお父さんの付き添いではなかったんです。用があったのは私自身。ようやく王様の用意が出来たようなので、話をしに言ってきます。……また会う時が来たら、その時はもっとお話ししましょうね。──二人とも、行くよ」
「「はっ……」」
私は二人を連れて花畑を出て玉座の間に向かう。
今思えば、千里眼を使って場内を見渡せば迷子にならなくて済んだんじゃね? ……ま、まぁ、こうやって姫様と出会うことが出来たんだから、結果オーライってことにしておこう。
「ま、待ってください!」
「……ん?」
後ろを振り向くと、姫様が私達を追いかけて来ていた。
え、まさか道を間違っていました? って、そんな訳ないか。冗談は置いておいて、いったいどうしたのだろう?
「どうか、その席に私も同行させていただけませんか!?」
…………なーにを言っておるのだ、この娘は。
「ごめんなさい、これからすることは遊びではないのです。ですから──」
「そんなことは重々承知しています。ですが、私もこの国の責任者の一人です。セリアさん……いえ、セリア様は何か大きなことを成し遂げようとしているのですよね? ならば、私はその行く末を見守りたいのです!」
「なんでそれを…………ああ、あなたの能力ですか……」
疑問になって調べたところ、姫様の能力は人の思考を読み取る、というものだった。
私の魔眼のように全てが読める訳ではないようだけれど、断片的なものならば可能らしい。
ははっ、親子揃ってとんでもない能力ですこと。
「……ご主人様、その人の能力は危険です。いつ、私たちの目的が暴かれるかわかりません。今のうちに口封じしておいた方がよろしいかと……」
それを二人に話すと一気に警戒の目で姫様を見始めた。
アリスが姫様に聞こえないように耳元で呟く。同じようなことをレインも思っていたのか、同意を示すように頷いてきた。
……二人が言っていることは最もだ。思考を読み取るのは、心の内を暴かれるのも同じ。私たちがこの国を乗っ取ろうとしていることを、いつ悟られてしまうかわからない。そして王様にその真相を告げられた時には、これまで順調に進んでいたことが全て台無しになってしまう。
「……随分と急な話ですが、後から王様に聞けばいいのでは? わざわざシエラ様が同行する必要はないでしょう」
「……いえ、どうせ父は何も教えてくれません。まだお前が背負うには早すぎると言い、全てを隠されてしまいます」
「ですが、あなたは第二王女。そこまで深く考える必要はないのではないのですか?」
その問いに、姫様は首を振った。
「第一王女、私の姉は病で倒れ伏しています。兄たちは政治のことには無関心で、毎日好き勝手に剣の練習をしています。……そのため、私がなんとかするしかないのです。だから、今の内に国がどうなろうとしているのかを知りたいのです」
だから姫様の勉強はいつも忙しいのか。……にしても国を支えるべきの兄達が政治放ったらかしで剣の練習か。頼りの姉は病に侵されて、姫様は政治問題を何一つ教えてもらえない。
……なんか、望んでいないのに、この国の問題を知ってしまった気がする。
全ては親バカな王様が悪いんだろうな。子供の好きなようにさせた結果、兄達は何もしなくなった。娘に負担をかけさせないようにした結果、こうして姫様は余計に悩むことになっている。
「……王様の許可は自分で取ってくださいね」
それだけ言って私は再度、歩き出す。
そうなることを予想していたのか、それとも私の判断に全て委ねていたのか。レインとアリスは何事もなかったように、私の後を追従した。
暫しの間、呆けた顔をしていた姫様は、ハッと我に返って同じように後を追いかけて来る。
その表情は、どこか嬉しそうに見えた。
「……ふふっ、やはりご主人様は優しいですね」
「恥ずかしいからやめて。……別に、姫様の目が本気だったから、チャンスを与えただけだよ」
きっとアリスは私に優しい笑顔を向けていることだろう。それを見ると無性に恥ずかしくなるので、絶対にそっちを向かないように気をつけよう。そう思って反対側のレインを見たら、何か考え込んでいるような難しい表情をしていた。
「レイン? どうかした?」
「……我は時々わからなくなります。人はどうして、こうも難題に立ち向かおうとするのか。……なぜ楽な道を選ばないのか、と。…………人というのは愚かなのでしょうか?」
「うーん、難しいなぁ……でも、レインならきっとわかってくれる日が来ると信じているよ。まだわからないなら、これから学んで行けばいいさ。時間はたっぷりとあるんだからね」
レインの疑問は様々な答えがあるだろう。どれが正解で、どれが間違いなのか。それはその人によって変わってくる。だからレインが納得できる答えを、私が用意してあげることはできない。
「そう、ですね……申し訳ありません。大切な話し合いの前に、くだらない疑問でした」
「そんなことはないよ。……でも、そうだね。今は目の前の問題に集中することにしようか」
数分後には全てが決まる。
だから、何が起きても柔軟に対応出来るように今は落ち着きたい。
…………ああ、私、これが終わったらゆっくり休むんだ。




