第3話 能力使えちゃった
私はすぐに自分で包帯を頭に巻き付け、ベッドに戻った。理由は黄金色に変化した私の瞳。
黄金色の眼を持った者は過去に一人。それは今、私が読んでいる本の主役である『魔眼の魔女』だ。
──いやいや、見た目が同じになっただけで、魔女の能力が私に移ったわけないでしょ。
という軽い現実逃避をしながら、私が知っている魔女の力を試してみた。
まず一つ。どんな遠くのものでも見通してしまう力、『千里眼』。
結果から言うと出来てしまった。そしてめっちゃ楽しかった。千里眼で色々な場所を見ているだけで半日経っていた。
この能力は本人が動かなくても、眼だけは動いているような感覚になり、壁だろうが地面だろうが関係なしに突き抜けて見えてしまう。
だから頭を包帯グルグル巻きにされていても問題なく見える。これで暇つぶしに本を読めるので、とてもありがたい。
男子なら歓喜しているだろう。私も性別が違かったら、これでお風呂場覗き放題じゃねぇか! とワッショイワッショイしているところだった。
しかもこれ名前の通り結構遠くまで見ることが出来るので、迷子になったら大助かりでもある。
……とまぁ、魔女の能力使えちゃった訳なんだけど。
私に千里眼という能力が追加されただけなのかもしれない。たまたま魔女が持っていたのと能力の一部が被っていただけかもしれない。だって、視界も良くなっていたからね。それも千里眼のおかげなのかもって思えるからね。
そのようにまだ信じていない私。
次は視力に関係ない能力を試してみる。
やるのは『石化』。効果はいたってシンプル。見たものを何でも石化させてしまう恐ろしい能力。
とりあえず今読んでいる魔女の本を石化させてみる。
「──ぬお!?」
いきなり首が重くなって、ガクンッと前のめりになってしまう。
……そうだった。千里眼に慣れて普通に景色が見えていたから忘れていたけど、私ってば包帯グルグルになっていたんだった。石化は自分の眼で見たものしか石にできないらしい。
視界もいつの間にか真っ暗になっていて、何も見えない。どうやら能力を同時に使うことは出来ないみたいだ。千里眼で遠くの敵を石化させるとか強そうだと思ったんだけど、無理みたいだ。
……というか重いんですけど。ずっと前のめりで、主に背中とふくらはぎがめっちゃ辛いんですけど。
解除は出来ないものかと思って念じてみる。
「うごぁ!?」
頭を上にあげようと力一杯重力に対抗していた私は、いきなり軽くなった包帯に不意をつかれて、勢いよく起き上がる形になってしまい、後ろの壁にゴンッ! と思い切り後頭部を激突させた。
「っ〜〜──!」
軽くなるなら軽くなるって事前に言えよ、こんちくしょう。
物でも本気出せば声ぐらい出せんだろ……。
なんか能力は凄いんだけど、良いことないなぁ。使いこなすには時間かかる……っていうかこの状況に意外と順応しちゃっている私に驚きだよ。
いつまでも魔眼を手に入れたからって困惑していても意味ないから、切り替えた方が良いんだけどね。
さて、他の能力も使えるようにしなきゃ────
「セリア、入るわよ…………」
──ん? なぜにお母さんが?
こっそりと千里眼を使って見えるようにしておく。勿論、お母さんは私が何も見えてないと思っているので、視線は下を向いたまま、未だ盲目について悩んでいそうな雰囲気を出す。
静かに入ってくるお母さん、と何故か村の医者も付き添いで来ていた。これは予想外で嫌な予感がしてしまう。
医者が来た。
なんのために? もちろん私の目を診察するために。
ということは『魔眼』を手に入れたというのがバレる。それはダメだ。
「今日はお医者さんが来てくれたのよ」
「…………そうなんだ」
知ってるよ! 医者のせいで内心焦りまくりだよ。
もうしらばっくれて私の瞳は最初から黄金色でしたよ? と言ってしまうか。
……お母さんからのツッコミが凄そうだね!
「それじゃあ私は下で待っていますので、お茶でも用意しておきますね」
「ああ、すぐに終わると思うのでお構いなく」
え、お母さん下行っちゃうの? って、本当に出て行ってしまった。
……あぁ、そうか。娘の目が潰れている光景とか直視したくなかったのだろう。
実際にお母さんは下で何かを祈っていた。
「どれ、包帯を外すから目を瞑っていてくれ。急に光が入ってきたら刺激が強いだろうからな」
医者が頭に触れてゆっくりと包帯が解かれる。
「うん。目立った外傷はなし……ではゆっくりと目を開けてくれ」
ここで普通に目を開けたら、驚かれて絶対に親にバラされる。
しかも村は広くないので、私の能力はすぐに広まるだろう。
マズイ。非常にマズイ。
──ってことで強行手段を取らせてもらう。
医者に言われた通り、目を開ける。
ちなみに関係ないだろうけど、千里眼を発動しながら目を開けると、二つの視界が映るからめちゃくちゃ気持ち悪い。速攻で切る。これにも慣れなきゃいけない。
……さて、目の前には驚愕の表情を浮かべている医者の姿が。
医者はこっちをガン見、ということは目と眼が合っている。
「これ、は……」
「どうしたんですか? ──私の目は普通ですよね?」
「…………うむ。親譲りの綺麗な碧色の瞳をしているな」
「よろしい。お母さんにも問題なかったと、そう伝えてください。そのまま貴方は帰って。……っと、それと、王都の医者に診てもらう予約もキャンセルしておいてくださいね」
「わかった……」
活力がないアンデッドのような動きで部屋を出ていく医者。動きは心配だったが、後は私の命令通りにやってくれることだろう。
「ぶっつけ本番勝負だったけど、上手くいったな」
私が医者に対して行ったのは『洗脳』。
医者が私の瞳を碧色と認識するように判断を誤魔化し、私の命令もしっかりとこなせるようにさせた。
千里眼で下の様子を見ると、元気がない医者がお母さんに説明をし、お茶の誘いも無視して、次の命令を実行するために家を出ていくところだった。
……うーん、怪しまれないよういつも通りの動きをするように。って命令も出した方がよかったかな。
あれでは私の心配より、医者の心配をしちゃうでしょ。
お母さんも医者の様子に首を傾げているし、次から人を操る時は、細かく指示した方がが良いかもしれないな。
──っと、お母さんがこっちに来る。
慌ててうつ伏せの状態になって、今から寝ようとしていましたアピールをする。うつ伏せになれば眼を見られる心配もないし、親も鬱状態の娘が寝ようとしているのを邪魔しないだろう。
「セリア、お医者さんがさっき出ていったけど、本当に目治ったの?」
「……う、うん。むしろ前よりも視力良くなった感じするよ。心配かけちゃってごめんなさい」
こんなこと言っているがうつ伏せだ。めちゃくちゃ音が篭もる。
側から見れば全く誠意がないように見える。
「治ったのなら何も問題ないわ。お部屋……随分と散らかっちゃっているわね。掃除しましょうか?」
お母さんの優しさが辛いです。
膨らみのないお胸がチクチクします。
「だ、大丈夫! 後で私がやっとく。今は寝かせて……」
「……わかったわ。夜にはお父さんも帰ってくるから、久しぶりに親子揃って夕食にしましょうね。今日はセリアの大好きなお肉料理よ!」
お母さんは気合が入っているのか、腕をブンブンしていた。そんなに私の目が治って嬉しいのか。
──って肉料理!?
「うん、わかった。楽しみにしてるね! じゃあおやすみなさい」
「ええ、おやすみ……」
肉料理。肉料理肉料理肉料理。
まっじか! 間違いなく今夜の肉料理は豪華になるじゃん、絶対に美味しいじゃん、食べない訳にはいかないじゃん! 私は肉には目がないんだよ。めちゃくちゃ大好きなんだよ!
「どうやって眼隠そうかな」
肉料理を堪能するため、私はいつもより頭をフル回転させて策を練り始めた。