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第33話 敵の監視

 …………コホンッ、気を取り直して、私たちは様々な画面を見ていた。


 すでに調査隊が中に入って三十分が経過している。

 その間、三十名ほどが死亡。二十名が道を引き返して脱落していった。

 残りは約百名。どれも同じような場面ばかりで、少し期待していた激戦とは程遠いものとなっていた。


「……思ったより面白くないね」

「そりゃあそうだろう。相手さんは慎重に動いているんだ。セリア様が期待していた映像は、ボス戦じゃなけりゃ見られないだろうよ」

「暇じゃから妾が遊びに行っても良いか?」

「ダメに決まっているだろう。マトイ様が行ったら、あの程度の奴らは敵にすらならない」

「むう……じゃが、こうして何もせずに見ているのも、いささか飽きてきたぞ」


 そう言ってお菓子の袋を開けて、次々と口に運んでいく。


 ……あんなにテーブルの上に山ほどあったお菓子が、今は半分以下になっていた。


 原因は私とマトイ、そしてレインだった。

 何もせずにしていると、無意識にお菓子を口に運んでしまうもので、結局手が止まらずにこうして異様な早さで消費していた。


「ご主人様、今食べ過ぎると、夕食に沢山食べられないですよ」

「大丈夫大丈夫、お菓子くらい少ししか満たされないから」

「……私は、その少しだろうと、ご主人様により多くの物を食べてもらいたいです」

「よし、もうお菓子は食べない。マトイ、後は全部あげるよ」

「…………清々しいほどの切り替わりっぷりじゃのぉ」


 私が押し付けた袋を受け取りながら、ジト目で見てくるマトイ。

 だって仕方ないじゃないか。あんなに寂しそうに言われたら、これ以上食べようとは思えないよ。


「見事に胃袋を掴んでおるな、アリスとやら」

「……常にご主人様に喜んでもらえるよう、努力しているだけです」

「アリスは料理ができて本当に羨ましいぞ。……なぜ、我はどうやってもできないのだ」

「レイン様は一度、自重というものを覚えたほうがよろしいかと」


 ……え、アリスがそこまで言うほどダメなの? そりゃあ、いつもいつも調理場が爆散しているけど。


「だ、だって仕方ないのだ。あんなにか弱い火でゆっくりと煮ていたら、もっと強い火を入れたくなるだろう!?」

「……いや、コンロが出せる最大火力なのですが」

「そりゃあ最強のドラゴンとコンロの火を比べたら、弱く感じるだろうねぇ」


 レインの攻撃は、私の村を簡単に吹き飛ばすほど凶悪なものだ。

 だからって我慢できなくて火力を足すってのはダメだけどね。ドラゴンの火力に耐えられる料理って何だ。むしろ、それが最強なんじゃないのか? 到底人間には食べられないだろうな。


「それでも料理に直接ブレスを吐くのはやめていただきたいです。あれ、予備動作なくて反応するのに苦労するんですよ」

「うひゃあ、いちいちブレス吐くのはないわ。レイン、流石にないわ」

「──二度も言わないでください!」


 バラされて恥ずかしいのだろう。レインは顔を真っ赤にして、暴露したアリスの頬を抓っている。でも、ちゃんと手加減しているのか、アリスの頬は千切れていない。


「よく竜族のブレスを受けて、調理室とやらは原型を留めておるな。それが妾にとっては驚きじゃ」

「ああ、調理室だけ私の剣と同じくらいの性能に作っているからね。さすがに手加減したブレスでも壊せないんでしょ」


 それでも必ず半壊はしているから、レインの底力は侮れない。


「うわ、技術の無駄遣いじゃな」

「私もそう思うよ。でも、一番凄いのは近距離で爆撃を食らっても平然としているアリスだよ」

「あれも大変なんです。私の全魔力を放出して、レイン様のブレスと相打ちしています。……私の全力でやっと…………本当に、レイン様の力が恐ろしいです」

「うぐっ、アリスにそんな危険なことをさせていたのか…………本当にすまん。これからは調理室ではブレスを禁止しよう」


 やったね、レインがまた一つ学習したよ。


「お主ら、互いに甘やかしすぎじゃ」

「えー? そうかな?」

「そうなのじゃ。妾なんて────」

「いや、マトイ様も変わらないだろ。むしろ、ここよりも酷いぞ。五百年も生きているのに、やっていることは子供と変わらないしな。この前なんて、欲しい物をクレハに頼んだのに買ってもらえなくて、その場で泣き喚いていたな」


 何か自慢げに言おうとしていたところを、横からグレンが真実を打ち明けてしまう。

 マトイは胸を張ったまま固まり、三人分のジト目が突き刺さる。


「な、なな…………」


 そして小刻みに震えだしたので、私は危険をいち早く察知して場を離れる。アリスも同意見だったのか、私と同じ場所に避難してきた。レインは何で私達が離れていくのかわからず、目を白黒させていた。


「何でそれを言うのじゃ貴様はぁああああ!」

「──どわぁああああ!?」

「うおっ、びっくりした……ってどうしたグレン!?」


 マトイの神速の踏み込みからの、全身のバネを利用したアッパーがグレンの腹に直撃して、何度目かの空飛ぶグレンを見ることになった。振動は離れていた私達のところにまでやってきた。……あれ死んでないよね? ほんと、災難な男だな。


 こっちを見ていたレインは横で何が起こったのかわからず、弾けるような音と、弧を描いて遠くに落ちていくグレンに驚いていたけど、あの衝撃を至近距離で受けておきながら驚いた程度で済ますなんて…………レイン、恐ろしい子。


「と、とにかく、甘やかしてばかりでは成長せぬぞ! ほら、わかったら調査隊とやらの動向を見舞ってやろうではないか。今後の方針にも繋がるのだからな!」

「あ、逃げたな」

「うるさいぞセリア! 消し炭にするからな!?」

「……へいへい、消し炭は嫌なので、言われた通りにいたしますよ」


 マトイが必死なのはわかった。それに免じて、目の端に光る何かが見えるのは、黙っておくことにしよう。


「グレンは……あ〜、そのうち目を覚ますでしょ」


 酷い言い様だと思う?

 もう、いちいち心配しているもの面倒になってきたんだよ。それに、鬼族は意外とタフだから、こんな程度では死なないと思う。特にグレンはやられ慣れているだろうしね。


 ……と茶番を繰り広げているうちに、冒険者の先頭集団が第一のボス戦前まで辿り着いていた。


「いよいよ、シバの初陣ですね」


 アリスが緊張したように言う。


 風狼族の狼……といちいち言うもの面倒なので、名前は『シバ』にした。

 私達はペットのような扱いをしていて、特にアリスに懐いていたからなのか、アリスも我が子が戦場に出る時のような顔つきでシバの様子を見ている。


 シバも扉越しに敵の接近に気づいたのか、丸く包まって寝ていた身体を起き上がらせ、戦闘態勢に入っている。やる気は十分。やっと見応えのある戦いが始まりそうで、私はワクワクが止まらなかった。

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