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第29話 本格的な準備

なぜか第12話になっていました。

……どうして?私は何を考えていたのだろう???

「それで、何の用だったの?」


 私は場が落ち着いた頃、グレンに氷の入った袋を押し当てながら、何の用事でここに来たのかを訪ねた。

 グレンの顔は赤く腫れていて、見ていて可哀想だった。完全に巻き込まれた形だったけど、最後の「白」の発言がやばかったな。


 ちなみに、こんな惨状を招いた犯人は、アリスに連れられて新しい服を着替えに行った。

 なぜすでに新しい服があるのかというと、先程までの服はアリスの遊び心で試しに着せていたらしい。


『まさかここまで大事になるとは思っていませんでした』


 というのが黒幕の言葉だ。


「ああ、魔物達の武器が足りなくてな。新たに核から作り出せないかという相談に来たんだ」


 グレンは鬼族の総長だったらしく、皆を纏めるのが上手かった。なので、彼には魔物の指揮を任せていた。


「ああ、それくらいならお安い御用だよ。後で必要分を紙に書いて渡してくれるかな?」

「わかった。それと、シキから連絡だ。部隊の編成が終わったから、後で確認に来て欲しいそうだ」


 シキは背に大剣を背負っていた脳筋っぽい女性のことだ。

 意外なことに武将としての才があるらしく、魔物の部隊編成と部隊長を任せた。


「うん、了解と伝えておいて。それは明日あたりにでも……ああ、いや、すぐに向かうよ。その後に武器も作るから、それまでに紙に書き写しといてくれる?」

「そんなに急がなくても問題はないが、何かあったのか?」

「……実はね、スイレンの報告からわかったんだけど、今日、冒険者ギルドが正式に、迷宮調査の志願者を集めだしたらしい。調査についての説明もしていたみたいで、ここに来るのは遅く見積もっても三日後になりそうなんだ」

「そうか……王国の騎士団の方はどうなっているんだ?」

「そっちはすでに準備が出来ているらしい。どれも、かなりの実力を持っているみたいだよ。……こっちも本気で迎え入れる準備をしないとね」


 こちらはこちらで、あり得ないほどの戦力を持っている。全てを攻略させるつもりはないけど、難易度が跳ね上がらないように、今も頑張って調整中だ。

 ちなみに鬼族のみんなにもここを攻略してもらった。彼らがどの程度戦えるのかの確認と、難易度の感想をもらうためだ。


 ──結果はボスラッシュの途中で降参。


 随分と統率の取れた動きで順調に攻略されていったから、まさかレインのところまで行かれるかと心配になったけど、やっぱり迷宮ボスクラスの魔物が連続して出てくるのは、歴戦の戦士達でも心が折れたらしい。

 攻略階層はアリスと変わらない結果となったけど、これでアリスがどれだけ強いかの確認もできた。鬼族五人が苦労して攻略したのを、彼女は一人で攻略したのだ。五人は私の魔眼で支配と進化をしていないってのも大きいんだろうけど、それでも異常な強さなのは変わりない。


 ……おっと、話が逸れた。


「なるほどな。……了解した。すぐに戻って必要分を記したものを持ってくる。ついでにシキに連絡もしておこう」

「頼んだよ。──そうだ。魔物達の訓練の方はどうなってる?」

「そっちについても問題なしだ。ウンキョウの訓練は厳しいが、確実に実力は上がってきている」

「そう、それならよかった」


 いくら進化して強くなっても、正しい戦い方を知らないままでは、勝てるものも勝てなくなってしまう。


 ウンキョウは紹介していない最後の一人で、スイレンと同じく、レインのことを最後まで警戒していた武人風の女性だ。

 前線を引いた身と言っていたけれど、彼女は鬼族の中で一番の剣の腕を持っている。そのため戦い方を教えるのも上手だった。


 でも彼女の訓練は厳しすぎて、進化済みの魔物しかついて行けないのが少し問題だったけれど、スパルタなだけあってしっかりと身に付く訓練をしてくれているらしい。というか私もウンキョウに教わりたいけど、それを話したらアリスが不機嫌になってしまった。


 小さい声で「私がいるじゃないですか……」と言われた時は萌えた。


 鼻血? 垂らすレベルを越えて噴き出したよ。


「それじゃあ、俺はもう行く。セリア様も無理はしないようにな」

「はいはい、心配してくれてありがとね」


 グレンが部屋を出て行く。


「さて、私も動きますかね……」


 身支度を整えてからリビングで休んでいたレインを連れて、シキのいる階層まで移動する。

 そこにはシキが大剣を振り回している姿が見えた。奥では五人一組で纏められた部隊が、それぞれ訓練に勤しんでいた。


「あ、セリア様! ご足労いただき、ありがとうございます!」


 シキは大剣を振るのを止め、私の元に駆け寄ってくる。


「レイン様もお疲れ様です! また今度、ご指導の方お願いします」

「ああ、いつでも構わないぞ」


 シキはレインの荒々しくも美しい戦い方に感銘を受けたのか、こうして何度か指導してもらっていた。

 やっぱり、類は友を呼ぶんだなぁ。


「お前達、集合!」


 号令でばらけていた魔物達が集まってくる。

 シキに指導を任せているのは、進化をしていない魔物だ。


「魔物達についてはどうかな?

「はい。……本人達の前でいうのは気が引けますが、彼らは弱いです。そのため、集団で戦うことを重点において訓練しています。その後、人並みに戦う術を身に付けてもらおうと考えていますが、どうでしょうか?」

「うん、シキに任せるよ。でも、ここの魔物たちは下の階層で働いてもらう予定だから、そこまで根気詰めなくていいよ。ある程度、戦いの知識を学ばせるくらいにして、後はシキの好きなように使って。──っと、それで今日は編成が終わったという報告があったから来たんだけど……」


 …………うん、わからん。


 だって、魔物の相性なんてわからないし、ましてやそれを指揮したことなんて一度もない。


「……大丈夫なんじゃないかな? 後は実戦でどうなるのかを確認してからだね」

「はい! それで、侵入者が来るのはいつぐらいになりそうなのですか?」

「スイレンの報告から考えて、遅くて三日後、早くて二日後かな」

「随分と早いですね。でも、スイレンが調べたことなら確実でしょう。──わかりました。それまでに十分に戦えるようにしておきます」


 昔から仲間だっただけあって、信頼も厚いんだな。

 そして、ちゃんとそれに対応しようと頑張ってくれている。こうして色々と動けるようになったから、鬼族のみんなが来てくれたのは幸運だったかもしれない。


「くれぐれも無理はさせないようにね」

「ハッ! 了解しました! よしお前達、訓練を再開するぞ!」


 きびきびと指導しているシキの後ろ姿を見送って、私とレインはグレンのいる階層に移動した。


「お、随分と早かったな」


 グレンはちょうどこっちに向かおうとしていたのか、一枚の紙を持って建物から出て来るところだった。まだ時間が掛かると思っていたけど、意外と書くのが早かったな。入れ違いにならなくてよかった。


「うん、ぶっちゃけると、編成のことなんてわからないから、全部丸投げして来た」

「ははっ、セリア様らしいな。わからないことはなんでも聞いてくれ、そのために俺達がいるんだからな」

「お言葉に甘えて何度も頼らせてもらうよ──っと、どうしたの?」


 不意に裾を引っ張られたので見てみると、不安そうにレインがこちらを見ていた。その瞳は今にも泣いてしまいそうだった。本当にどうしたんだ?


「……あの、セリア様? 我は、我は何かお役に立てることがあるのでしょうか……? セリア様のお役に立てない我は、いらない子と思われていないでしょうか?」


 …………なんだ、そんなことか。


 確かに鬼族が来てから、レインの仕事はほとんどなくなった。

 でも、レインには一番大切な仕事が一つだけ残っている。


「お前の仕事は、私からずっと離れないで寄り添うことだよ。そう約束したじゃん。……忘れちゃった?」


 レインは私にとって、一番の従者だ。

 私が辛い時に、どこにも行かないで寄り添ってくれた。何者にも代え難くて、絶対にいなきゃならない、大切な存在なんだ。

 いらない子なんて本人だろうと言わせたくないし、他人にも絶対に言わせない。


「──っ、いえ! 我はセリア様にいつまでも寄り添い、御身をお守りするのが役目です! そして──大好きです! この気持ちはアリスにも負けません!」

「あはは、こんな大胆に告白されちゃうと照れるなぁ…………けど、力一杯抱きしめるのは止めて。私、死んじゃう……」


 私の体が現在進行形でヤバい音を立てています。グレンさん、助けてください。


「……あー、レインさん? 惚気(のろけ)は二人きりの時にやった方が良いと思うぞ」

「ぬ、そうか? うむ、それもそうだな。助言に感謝するぞ」


 パッ、と体が離れる。本気で死ぬかと思った。


 …………あれ? これって命の危機が延長になっただけじゃね?

 ま、まあ、今を生きていれば良いじゃない。人生ポジティブに生きよう。……うん。

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