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第28話 新たな仲間と

  新しい仲間が加わった。


 それは良い。戦力が増えることは、喜ばしいことだ。

 けど、そのことで一つ、問題が生じた。


 ──どうやって扱えば良いんだぁあああ!


 魔王、狐人のマトイからお手伝いさんとして請け負ったのは良いんだけど、いまいち彼らとの距離感が掴めていない。


「──ご主人様」


 そうやって悩んでいる間に、アリスの声が自室の外から聞こえて来た。


「開いているから入っていいよー」

「……失礼します」

「し、失礼いたします」


 いつもはアリスの声しかしないというのに、今日はその後に続く声がした。

 目を向けると、アリスの陰に隠れるようにして、薄桃色の髪が揺れていた。


「クレハの着せか──コホンッ、服の仕度が終わりました」

「アリスさん!? 今、着せ替えって言いかけましたか!? やっぱり楽しんでいたのですね!」

「うるさいですよ、クレハ。ご主人様の前なのですから、静かにしてください」

「も、申し訳ありません!」

「あはは、良いよ、別に気にしてないから。それで、どんな感じになったの?」

「ほら、そろそろ恥ずかしがっていないで、新たな服をご主人様に披露してください」

「うう……わかりました……」


 隠れている子は観念したのか、おずおずと私に姿を見せる。

 この子は新しく仲間に加わった鬼族、唯一マトイと契りを交わしている巫女さんだ。

 名前はクレハ。容姿に負けぬ可愛らしい名前で、危うく私の理性が暴走してしまうところだったのを覚えている。


「ど、どうでしょう、か……?」


 ここに初めて訪れた時は、着ているだけで肩が凝りそうな巫女服だったのに、今は軽装となった巫女服(と言えるのかわからないほどの薄着)を着ていた。

 恥ずかしそうに身をよじる度、ヘソがチラチラと見え隠れして、短くなったスカートを顔を真っ赤にして抑えている姿は…………とてもそそるものがある。

 なんかこう、本能がクレハを押し倒さなければ、と囁いているような気がする。


「うう……セリア様の視線がいやらしいです……」

「そ、そそ、そんなことないですよ?」

「ご主人様、鼻から赤いものが垂れております」


 アリスが鏡を私に向けてくれた。そこには鼻血を垂らしている変態の姿が──って誰が変態じゃい!


「気のせいだよ。……それにしても、随分と大胆な服になったね」

「セリア様の好みのものと、家事全般をする上で動きやすいものの両方を考慮した結果、このような形になりました」


 ……そう、クレハは家事全般を手伝ってくれることになった。


 意外だったのが、アリスがクレハのことを気に入ったことだ。あれほど新しい使用人を雇うことに反対していたのに、すんなりと迎え入れた。


 相変わらず私の身の回りの世話を自分以外にさせるつもりがないらしいけど、クレハはそれ以外のこと、レインと鬼族の世話、他の階層の掃除を任された。掃除は数が多いので、アリスと分担だ。


 アリスとしても、仕事が増えるのは厳しかったのかもしれない。それを抜いても、単純にクレハの腕を認めたのだろう。

 クレハは元々マトイの身の回りの世話をしていたらしく、家事の腕はアリスほどじゃないけど、相当良い。

 その腕を素直に認めたからこそ、アリスは補佐として雇うことを受け入れてくれたのだろう。……まあ、仲良くなってくれるなら、それ以上に嬉しいことはない。


「失礼する、セリアさ──」


 そんな時、私の部屋に一人の鬼族が入ってきた。


「げっ、スイレンさん……」


 必要なこと以外は話そうとしない、基本無口な少女。名はスイレン。

 『忍び(しのび)』という職業? らしく、隠密や情報収集に長けている。アリスが「キャラが被ってる……」と悔しそうにスイレンを睨み、ちょっとした決闘騒ぎになったのは割愛するけれど、かなりの実力者だ。

 今はレインの代わりに外の情報を集めてもらう仕事を任せているんだけど……そうか、ちょうど報告の時間だったな。


 クレハからしたら、最悪なタイミングだろう。


「…………お前にそんな趣味があったとはな。邪魔をした」

「待って! 待ってくださいスイレンさぁあああん!!」


 さすが忍び、転移を使った様子はないのに一瞬で姿を消した。

 あれカッコいいな。絶対にできないだろうけど。


 スイレンが去った足元には、一つに纏められた書類が落ちていた。

 拾って、パラパラと捲る。

 それは報告書だった。冒険者ギルドと王国騎士団の動きが事細かに書かれている。まるで全てを見てきたかのように、機密情報まで載っていた。こんなことまで調べるなんて、忍すげぇ。


「うう、スイレンに見られてしまいました……」

「ま、まぁ、彼女なら無駄に言いふらすこともないだろうし、被害は少ない方だと思うよ」

「ええ、どうせこれからはそれで生活するのですから、知られるのが早くなっただけです。気にすることはありませんよ」

「私が気にするんです! もうお嫁にいけません……」

「大丈夫です。ご主人様が貰ってくれます」

「……うーん、それなら安心です」

「ちょっとぉ!? クレハも納得しないでいただけますか!?」

「い、今、お嫁がなんとかって聞こえたのだが! 我も候補に──」

「なんでレインもくるんだよぉおおお!」


 お前は下の階層で見回りをしているはずだろ!

 なんて地獄耳なんだ。うちの従者怖いわ!


「盛り上がっているところすまん、ちょっといい、か……」


 またタイミング悪く私の部屋に再びの来客。グレンだ。

 彼は申し訳なさそうに入ってきてぐるりと私たちの様子を伺い、視線がクレハで止まった。勿論、クレハも時が止まったかのように動けなくなっていた。


 グレンは何か言おうと必死に考え────


「に、似合っている、ぞ……」

「無理して褒めなくていいですよ、もう!」

「うぐっ!」


 クレハに腹パンされるのであった。

 その細い体のどこからそんな力が出ているのか、グレンがくの字になって少し宙に浮き、ガクリと地面に倒れる。


「お、お前、いきなり腹パンは──」


 グレンが文句を言いたげに顔を上げ、また硬直した。

 目の前にはクレハ(ミニスカ姿)が立っている。それに対してグレンは横になった状態で顔だけを上げている。


 ……もう、これ以上言わなくてもわかっただろう。


「…………白」

「──っ、いやぁああああああああああ!!!!」


 首まで真っ赤にしたクレハは、悲痛に叫びながらグレンの顔を思い切り蹴飛ばした。

 弧を描いて飛んでいく哀れな鬼族の若大将を見て、私、レイン、アリスの三人は無意識に合掌していた。



 足を振り上げた時、私の目に純白の布生地が見えたことは、しばらく黙っておこう。

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