第15話 マイホーム改装
丸一日、核に記されていた説明書的な物を読んだおかげで、迷宮の仕組みは大体理解出来た。
まず、迷宮の改装や魔物の増幅は、核に貯蔵した魔力を使って行う。
一番最初に何をしたかといえば、それは当然二七層の排除。
後は大まかに階層の改装をした。
1層から5層は雑魚を沢山配置。
6層から15層は雑魚の他に強めの魔物も配置して、罠も数ヶ所に設置した。
16層は生活区として、迷宮の魔物が住む用の場所を作った。ついでに冒険者に殺られても、そこから復活出来るように復活ポイントを作った。これで新しい魔物をいちいち生み出す必要が無くなったわけだ。
生活に関しても迷宮の魔物はたとえ雑魚であろうと知識は備わっているので、問題なく共存出来るだろう。
勿論、部外者は生活区に入れないように設定したので、うっかり入られるようなことはない。
もし何かの手違いで入っちゃっても、警報が鳴って知らせるようになっている。それが鳴れば迷宮を自由に行き来できる私とレインのどちらかが、すぐに駆けつけるようになっている。
本当の16層から19層は、雑魚がいなくなる代わりに強い敵しか出なくなる。ここからが冒険者にとっての正念場だ。
20層はボス部屋。ここは核から作った上位の魔物『ノーライフキング』と、同じ不死系で中位の魔物を二体配置。
ここら辺はそこそこ強い冒険者なら、普通に来られるだろう。
それでは最高難易度の名に恥じる結果となってしまうので、全ての魔物に私の支配をかけてレインと同じように進化させてある。
そしたら雑魚でもめちゃくちゃ強くなったけど…………まぁ大丈夫でしょ。
21層は安らぎポイント。
宿のような場所を作って、中に入ると徐々に傷が癒えていく仕掛けも置いておいた。もちろんベッド完備だ。
更に体力が回復するポーション、魔力が回復するポーションを販売している。
優しいと思うかもしれないけれど、これは次からの試練の準備をするためでもある。
全回復して宿の出口に向かう冒険者達の前に『この先はボスラッシュだから頑張ってね♡』という看板を設置。
冒険者は絶望する。私はそれを見て笑ってやるんだ。
予告の通り22層から29層はボスラッシュ。
20層の『ノーライフキング』と同じかそれ以上の魔物を一体ずつ設置。
30層は再び安らぎの場。
ここは前回の休憩ポイントと同じなのだが、売店にはポーションの他に『死んだら入り口まで戻る護符』と『肉体強化ポーション』を商品として新たに追加。
ちゃんと『毒は入っていませんよー』という看板も立てておく。
──なんでここまで親切にするかって?
だって、次は絶対に勝てない相手が出てくるから。
そう、私の従者──レインちゃんです。
これは「我も戦いたいです!」というレインからのお願いだからしょうがなく、本当にしょうがなくだけど配置してあげた。
レインは本気でやりたいと言っていたので、ちゃんと迷宮を進んできた歴戦の冒険者であろうと、数秒で細切れになってしまう可能性が多いにある。
それでは流石に冒険者が可哀想。ということで『死んだら入り口まで戻る護符』を販売して再度挑戦の機会を与える。
そして、レインが少しでも満足出来る戦いになるように『肉体強化ポーション』だ。
私ったらめっちゃ優しい。
絶対にあり得ないだろうけど、レインが本当の本当にヤバいと感じたら、何時でも真の姿になって戦えるようにと思って作った場所は──空。
本来の姿になっても充分動けるなら、空しかないだろうってなったんだけど、まさか私の貯蔵魔力の半分を持ってかれるとは思わなかった。
よく考えてみればそれもそうだ。
レインが、しかも本来の姿が充分に動ける広さ。
それに、人間が立っていられるように足場を作って、ついでに端に寄りすぎて落ちないための壁も作った。
間違いなく迷宮で一番凝っている場所はここだ。だって各層に行く時も魔法陣で転送はするけれど、空に転送するのは迷宮で初めてのことだろうからね。
もし、レインを倒すギリギリまで追い詰めた奴がいたなら、次は私がいる『玉座の間』の扉前に転送させる仕組みになっている。
レインの戦う空の次に広い場所で、一番奥には私の座る王座が置かれている。
最後は私と勝ち抜いてきた者の戦い。入ってきた瞬間に敵も私のことを見るし、私も入ってきた敵の目を見るから、私の勝ちは確定なんだけどね。
ちなみに『死んだら入り口まで戻る護符』はここで効果は消える。残念ながらレインとの戦闘でしか効果を発揮しない。
ちゃんと『玉座の間』に入る前に『全ての効果はここで消えます。護符はそこの箱に入れてください』と書いてある看板を立てておく。
戦闘メインの場所はこんなところで、後は私とレインの部屋、それと台所、外の景色を楽しめる露天風呂、まだ本はあまり置いてないけれど私専用の図書館、核の保管場所…………っとまぁそんなところか。
なんで迷宮の作りをそんなに凝っているのか。迷宮の奥でゆっくりと住みたいだけなら、一層だけに強敵を配置すれば良いじゃないか。と思うかもしれないけど、迷宮というものはそんな簡単にいかない。
迷宮の維持には大量の魔力が必要となる。
それは私が供給したり、冒険者の死体から奪ったりと方法は沢山ある。
どれほどの魔力が必要なのか? という基準は迷宮の質によるらしく、私の迷宮は最上級の質を誇っているため、消費魔力量が馬鹿にならない。
何度も言うけど関係あるのは質なので、一層だけ作っても、百層まで作っても必要な魔力は変わらない。
到底、私一人で補える量ではないため、冒険者が寄り付きやすいように迷宮を作る必要があった。
だから、そこそこ良い物が入っている宝箱もそこら中に配置してある。
その程度、迷宮を維持するための消費に比べたら誤差の範囲だ。
とりあえず、前の迷宮主が魔力を沢山貯めていてくれたおかげで、なんとか改装用の魔力は足りた。
だけど一気に魔力を使うと脱力感が凄くて、私は自分のベッドでしばらくゴロゴロしている。
「セリア様。夕食の準備が出来ました……」
扉を軽くノックしてレインが部屋に入ってくる。扉が壊れてないってことは頑張って軽くノックしたのだろう。
デコピンで壁をぶっ壊すくらいだ。ちょっと……いやかなり心配していたのは秘密だ。
というか夕食って言った?
レインって家事出来たのか。少しビックリするけど、初めてのレインの手作り料理にワクワクする。
「……んぁーい。すぐ行くー」
疲れきった体を叱咤して台所に向かう。
近づく度に肉が焼けた良い匂いがして、お腹の空腹感が激しく主張しやがる。元竜族らしい肉料理かと納得して、早く食べたいと自然に足が速くなる。
「おまたせー、美味しそうな匂いの料理はここか…………な?」
──おかしいな。
料理を並べる用に作ったテーブルには想像していた肉料理じゃなくて、いや、肉ではあるんだけど……どこから取ってきたのかわからない牛の丸焼きが…………。
私の『魔眼』がおかしくなったのかと思って目を擦る。しかし、テーブルの上に乗っているのは丸焼きにされた牛。ザ・ウシ。
「おい、レイン……これはなんだい?」
「ふふんっ、今日は新宅祝いということで、頑張って取ってきました! セリア様でも安心して食べられるように、しっかりと中まで焼いた──牛です!」
「お、おう…………」
…………笑顔が眩しい。
この子のことだから、しっかりと私のことを考えて人間がよく食べる牛を狩ってきたんだろう。
頑張ったのはわかる。わかるのよ。
だけどね……これだけは、本当にこれだけは言わせて欲しいんだ。
「せめて捌いてくれませんかねぇ!」




