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第13話 冒険者との別れ

 ナイトランドの戦闘はチームワークがしっかりしていて、沢山の魔物を相手にしていても危ないところはなかった。


 マイクが遠距離魔法で魔物の不意をつき、困惑している魔物にシンバとダイアンが突っ込み、統率を掻き乱す。

 二人は戦士のスキル『ウォークライ』を発動していて、周囲に被害は出ていない。

 ウォークライは魔物の敵視を自分に向かせるスキルだ。私にはただ叫んでいるようにしか見えないけど、効果はしっかりと出ているようで、魔物たちは他のメンバーが見えていないように、一直線に戦士二人に向かって走り出す。

 時々、群れから外れた魔物は、アンリの精確な弓術で撃ち抜かれ、誰かが傷ついたらノーラが即座に回復魔法で癒やす。


 後は各々が状況を見て最善の行動をしている。

 これが出来るのは、長年パーティー組んできた証なのだろう。私達のようなチート並の強さを持っていなくても、ちゃんとした実力でBランクまで進んで来た人達なのだと納得出来た。


「人間は弱くて愚かですが、『心からの信頼』というものだけは美しい。そう思います」


「私も上辺だけの信頼じゃなくて、こういう信頼が欲しかったなぁ……」


 私がいた村にも、同じ年頃の子はいた。

 だけど、私はそういう子達と交流をしていなかった。前はしていたんだけど、気づけば自分で子供のグループから遠ざかっていた。

 確かに友達と呼べる存在はいたけど、ある日、私のことを裏で悪く言っているのを知ってしまい、今までと同じように会話出来なくなってしまった。「あいつ、皆から可愛いとか偉いとか言われて、調子に乗っているんじゃない?」とか「色目使っていてウザい」とか聞いた時は、女って怖いと本気で思った。


「……我は本心でセリア様に尽くそうと思っています」


 私が昔のことを思い出しているのを察したのか、そんなことを言ってくる。従者に気遣われる主人とか面目ないな。

 だけど、その言葉はとても嬉しくて、いつものように頭を撫でてしまう。


「ありがとう。私もレインを信じているからね」


 予想外のところで主従の絆の深さを確認出来たところで、ナイトランドが魔物を全滅させて戻ってくる。

 今は商人達が魔物の解体をしている。ちゃんと話し合って、売値が同じになるように分配しているので、喧嘩にはならないだろう。


「ふぃー、予想よりも魔物が多くて手こずったな」


「そのわりには危なげなかったように見えましたよ?」


「まだまだこんなもんじゃAランクになれないのよ。もっと技術を磨いていかないとね」


 これなら充分Aランクになれると思ったのだけど、想像していたよりもAランクというのは凄いらしい。一度この目で見ておきたいな。


 ──敵になる可能性も充分あるから、ね。


「だが、先程の連携は我でも良かったと思うぞ。機会があればすぐにでも上に行けるだろう。最も、セリア様には敵わないがな」


 そんなことを言うけど、私なんて敵の目を見なきゃ何も出来ない小娘だ。もし、支配していない状態のレインが目を瞑って攻撃してきたなら、私は何も出来ずに倒されるだろう。

 そのくらい条件がわかりやすい能力なのだ。しかも魔眼は知名度が全世界共通と言っていいほど高い。私が魔眼を所持しているとわかれば、すぐに対処されてしまう。

 ナイトランドの皆はレインの褒め言葉に顔を見合わせて安心したように笑う。


「閃光のレインさんに言われたら行ける気がしてきたな」


「そのためには全員のスキルアップを目指さなきゃね」


 シンバとアンリはそう言いながら苦笑し、それに釣られて他も微笑みを浮かべた。




          ◆◇◆




 レインも出来る限り話そうと努力してくれたおかげで、王都までの旅は楽しい時間となった。


 時にはナイトランドの皆が目指している夢や、冒険中の面白い話とかを聞いたり、マイクが持ってきた遊戯で遊んだり、休憩中に女同士で近くの泉に行って水遊びもした。


 ……その時はレインのおっきな(スイカ)と私の(絶壁)を見比べて悲しみのどん底に落ち、アンリとノーラが必死にフォローにならないフォローをするというハプニングがあったが、とてもいい思い出になったと言える。


 これで私の魔眼がなかったら、何も隠すことなく、全て曝け出して楽しむことが出来たのだろうか。

 やっぱり隠し事をすると心が暗くなってしまう。

 だからって魔眼のことを言うつもりはない。その甘い気持ちのせいで先代(魔女)は死んでいったのだから。


 一週間という長いようで短かった旅も、王都に着いて終わりを迎える。

 見事、冒険者として被害を出さずに王都まで着いたということで、ギルドのほうから報酬ボーナスが出るらしい。

 気前の良い商人で良かった。


 ──そして、別れの時となった。


「とても楽しかったです。ナイトランドの皆様と出会えて本当に良かったと思います」


「我も中々に充実した時間を過ごせた。感謝する」


 私とレインは軽い会釈をして馬車を降りる。


「待ってくれ!」


 そこでシンバから待ったの声。

 なんか言い残したことでもあるのかと振り返る。

 そこには先程まで別れを惜しんでいた顔ではなく、真剣な顔をしたナイトランドのメンバーがいた。


「……俺たちのパーティーに入らないか?」


 ここで勧誘が来てしまった。


 当然、無理だ。

 一緒にいる時間が増えるほど、魔眼を隠すのもどこかでボロが出て大変なことになる。

 冒険者は人間の敵を倒す仕事。それは魔物であったり盗賊であったり、魔眼の持ち主も含まれる。


「ごめんなさい。私たちは貴方たちのパーティーには入れません」


「……確かに強さでは俺たちが完全に足手まといになる。だが、俺たちはもっと強くなって君たちに負けないくらい────」


「そういうことではありません」


 頑張って言葉を並べようとするシンバを遮って否定する。


「私たちはこれからやらなければならないことがあります。……それは貴方達の正義とは正反対のこと。理解されなくても、それは私たちが安全に生きるための手段。だから無理なのです」


「我は貴様等を気に入っている。だからこそ関わってほしくない」


「これは助言です。貴方たちはすぐにAランクに上がれるでしょう。だからって無理して危険な依頼を受けず、仲間を想いやって行動してください。旅、本当に楽しかったですよ? それでは……」


 私はこれから迷宮を『支配』して人類の敵になる。……いや、魔眼を持った時点で人類の敵だから今更か。


 ──私は、魔眼の持ち主となった。


 それだけのことで、無条件に人類の敵になったんだ。

 油断をしたら危険なのは、私だ。


 だから私は、遠慮しない。

 邪魔者がいるなら、容赦はしない。

 使えるものは使う。

 レインは大切にする。

 信用するのは、私の仲間だけだ。

 でも、人の心だけは忘れたくない。


 ……それをしてしまったら、本当の意味で人類の敵になってしまうから。




 沢山の人と関わってしまったら、大事な時に人を殺すことを戸惑ってしまうだろう。

 思い出は「楽しかったな」程度で済ませておくのが、丁度いい。


 去り際に商人たちに私たちの報酬はナイトランドに渡してくれと伝えて、迷宮に入る許可を貰うために冒険者ギルドに向かう。


 許可を貰うのは簡単だ。

 自分達のプレートを見せて許可証を貰うだけ。


 普通なら迷宮は強い魔物が沢山出るので、二人だけでは許可が出ないのだが、王都にまで『閃滅』の名は出回っているらしく、問題ないだろうという結論になったらしい。

 受付のギルド職員にプレートの名前を見られて「セリアさんとレインさん…………まさか、あの『閃滅』ですか!?」と大声で言われた時は恥ずかしすぎて死ぬかと思った。

 何より冒険者たちの視線が痛いほど刺さって、レインも冒険者登録した時と違う視線に身じろぎしていた。


 ……とまあ、そんなこんなで迷宮の入り口まで来たのだが、流石は王都にある最高難易度の迷宮。入り口からヤバい雰囲気が漂って、入るのを躊躇うくらいだ。


 だけど、こっちにはチート級の『魔眼』と、同じくチート級のレヴィアタンがいる。

 迷宮の魔物如きに負けることなんてありえない。

 というかレインだけで充分でしょ。私いらないでしょ。という気持ちしか浮かんでこない。


 久しぶりに瞼を開ける。

 やっと本気を出せると思うと気持ちが昂ぶる。


 これが第一歩だ。


「さて、マイホームを盗りに行こうか」

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