第12話 馬車の旅
王都に行く馬車は団体だった。
商人の馬車が三台に、旅行客を運ぶための馬車が四台。冒険者は護衛として一台丸々借りて乗ることが出来る。
「おーい、俺達も王都行きに乗せてくれー」
人も集まってきて、そろそろ出発しようかと商人達が話していた時に、新しい冒険者パーティーがやって来た。
見たところ五人パーティーで、男が三人の女が二人というバランスのとれた組み合わせ。街で何度か見かけたことはあるけど、接したことはないので、どの程度の強さなのかはわからない。
頭以外は全身鎧とか、持っている武器が光っている魔法の武器であったりとか、そこそこ質の良い装備を身に付けているのを見るに、同じBランクだろう。
商人は護衛が増えるなら大歓迎だと喜んでいたけれど、私としてはのんびりとした優雅な旅を楽しめなくなったので、とても残念だ。
レインも私と二人きりの時間がなくなったと言っていて、この場でバレないように冒険者パーティーを消すかと提案してきた。
流石に止めたよ。
「失礼するぞ、っと、なんだお嬢さんたちも冒険者なのか?」
リーダーっぽい男が入ってきたので、すぐさま人前用の良キャラに切り替えて雰囲気も優しい感じにする。
「ええ、最近登録したばかりの新人ですが、王都までよろしくお願いします」
「おう! 新人ってことは戦いにも慣れてないよな……敵襲の時は俺たちに任せなっ!」
「それは頼もしいです。ですが、私達も一応冒険者なので、足を引っ張らない程度に頑張りますね」
リーダーは気前の良い人なのだろう。
屈託のない笑顔で周りを元気付けるタイプか……私の演じるキャラを自覚なしでやってる感じだな。
話している間に他のメンバー達もぞろぞろと冒険者用の馬車に入ってくる。
最後に軽装の女性が入ってきて私達を見たと思ったら、驚いたように声をあげる。
「貴女たちってもしかして……『閃滅』!?」
せんめつ? 何だそのある意味痛い名前は。
なんか私たちを指差しているけど、もしかしなくても私達のことなの? そんなの名乗った覚えはないんだけど。
レインを見ると、自分も知らないというように首を横に振っていた。
「なぁアンリ、その『閃滅』っていうのは何だ?」
リーダーの男は軽装の女性に問いかける。
「私たちも『閃滅』などと名乗った記憶は無いのですが……」
「冒険者ってね、目立つ奴がいると二つ名を付けたがるのよ」
……なるほど、暇人め。
「目に止まらない速度で依頼を達成してしまう『閃光のレイン』」
「我にそんな名が?」
「謎の超遠距離魔法で敵の姿さえ消してしまう『滅殺のセリア』」
「言いづらい二つ名ですねー。それで二つが合さって『閃滅』と? そんなに凄いことやった覚えはないんですけど……レイン、またやらかした?」
こういう場合は大抵レインのミスが広まったのが原因だろう。
「我はいつも通り依頼をやっていただけです!」
そのいつも通りが怖いんだよなぁ。
「…………セリアさん、だっけ?」
…………ん、私?
「Bランク昇格試験の時って何した?」
「何って、指定の魔物を討伐しろって言われたので、その通りに討伐しただけですが?」
あの時は近辺で縄張りを広げている魔物がいるので、それを討伐することが出来たら昇格すると言われた。
だから、私はいつも通り魔物の全魔力を吸収して終わらせただけなんだけど、それの何が悪い。
「試験を一歩も動かずに達成なんて目立つに決まっているじゃない!」
興奮しているのか肩で息をしている軽装の女性。
──なるほど。
私が犯人だったというわけだ。
……まじか。
「まあまあ、落ち着けって。馬車も出発したところだし、自己紹介でもしてこのお嬢さん達のことを知っていこうじゃないか」
そんなことで始まった自己紹介。
あちらさんから先に自己紹介してもらうことにした。
「俺はパーティー『ナイトランド』のリーダーをしているシンバ・ラグドルだ。剣と盾で近距離戦を担当している。よろしくな」
「俺はダイアン・ブレッドだ。主に盾役をやっている。タフさだけは自慢なのでどんどん頼ってくれて構わない。よろしく」
「俺はマイク。遠距離からの魔法攻撃が得意だ。……あんたの超遠距離魔法には敵わないがな。とりあえず王都までよろしく頼むよ」
「さっきはごめんなさい。私はアンリ。得意なのは弓、それから情報収集。貴女達のことは風の噂で知ったの。改めてよろしく」
「私はノーラ・エンタルよ。マイクと同じ魔法を使うけど、私は支援系ね。体力と状態異常の回復は任せて。よろしくね」
…………うん。覚えられるわけない。無理。
パーティーとしては五人なだけあってバランスがいい。ちゃんと各々が役職を完璧にやれれば簡単にAランク冒険者になれるだろう。
「私はセリアと申します。見てわかると思いますが目が見えません。まあ、それでも充分に戦えるので気にせず命令してくださいね」
皆して知っているよ。みたいな顔された。レインだけは拍手してくれた。可愛い奴め。
「……レインだ」
「え、それだけかい?」
「どうやらお前らは我とセリア様のことをよく知っているらしい。ならば必要以上のことは話さなくてもいいだろう?」
相変わらず私以外には厳しいレインちゃん。
まあ、人間のことを下等生物って言っていたくらいだから、ちゃんと会話しているのを見ていると成長は出来ているみたいだね。
一応、フォローしておくか。
「レインは人と接するのが苦手なんです。これでも良い子なので仲良くしてあげてくださいね?」
「我はセリア様がいればそれで良いのです」
うーんこの可愛い奴め。
なでなでしてやる。
「〜〜〜〜♪」
シンバと話している時の不機嫌そうな態度とは打って変わって、私が撫でてやった途端に上機嫌になる。
もっと撫でていたいけどこういう時に限って邪魔者というのは来るものだ。
「…………はぁ、レイン」
「はい、わかっております」
「どうしたん────」
突然変わった私たちの気配にシンバが気になったらしく、質問している途中で警鐘が鳴り響く。
これは最前列にいる商人の馬車に取り付けられているサイレン。その意味は敵襲。反応からして魔物だろうか、それにしては多いけど、集団行動するタイプなのかな。だとしたら、反応の弱さからしてゴブリンだろう。
奴らは単体であれば、新人冒険者の練習台にされるほど弱い。
けど、ゴブリンは集団で行動する。多い時は二十体を超える規模になって、相当厄介な相手になることがあるらしい。
「では、行ってまいります」
「いや、待ってくれ」
馬車から飛び出そうとしているレインにストップがかかる。
シンバが武器を取って他の皆も構えていることから、協力しよう思っているらしい。むしろレインの邪魔だから協力してほしくないからやんわりと断っておくか。
「気配でわかりますが、レインだけで充分倒せる魔物ですし、助太刀は大丈夫ですよ?」
「ここは俺達に任せてほしいんだ」
……おっとそうきたか。
どうするかなー、この五人なら多少の傷程度で済むだろうけど、なんか全部任せているみたいで悪い気がする。
「確かに貴女たちよりは弱いだろうけど、ここは先輩冒険者として顔をたてておきたいのよ」
「うむ。この後も魔物の襲撃は多くなるだろう。今のうちに俺たちがどのような動きをするのか。どの程度の強さがあるのかを、レインさんに判断してほしい。」
断り辛い言葉を述べてくるなあ。
レインは構わないという風に肩をすくめている。本人が許すなら私も文句はない。
「……わかりました。危ないと思ったら私たちも手伝いますが、それでよろしいですか?」
「ああ、構わない」
次々とナイトランドのメンバーが馬車から出ていく。
馬車には私とレインの二人だけ。
「下等生物が……なぜ自ら効率の悪い方へ動くのか理解に苦しみます」
「美女に良いところを見せたいっていうのは、男の性なんだよ」
「…………やっぱり理解出来ません」
うん、それは私も同意だ。でも、気持ちはなんとなくわかる気がする。




