表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/50

第11話 旅の目的

 ギルド職員のお姉さんに教えてもらった『狐の果実亭』は、新人冒険者の懐事情に優しいだけではなく、掃除も隅々まできちんと行き届いていて、ずっとここに泊まっていてもいいんじゃないかと思える宿だった。


「セリア様。目的の冒険者になりましたが、今後もずっと冒険者としてやっていくのですか?」


 夕飯を食べ終わって愛しのベッドの上でゴロゴロしていた時に、風呂からあがったレインが質問してくる。


 ……そういえば細かく言ってなかったな。

 ちょうどいいので話しておこう。絶対に驚かれるだろうけど、それほどのことを私はしようとしているから仕方ない。


「冒険者なんて面倒な仕事続けるわけないじゃん。登録したのは王都に行くためと、少しの間の食料費のためだよ」


 王都に入るための通行料は馬鹿にならないというのを、王都に行くことに憧れていた村人に聞いたことがある。それを無くすために冒険者登録をしたというのも、理由に入っている。


 冒険者はあくまで食い繋ぎのためだ。


「王都……そこに行くのは危険では?」


 王都は当然人が多くいる。その中でも勇者や賢者といった人物もいるだろう。

 少し噂が広まっただけで大変厄介なことになってしまうのはすぐにわかる。


「確かにそうだけど、別にそこで活躍して、金持ちになろうとしている訳じゃない」


 レインと魔眼で繋がっていることで、私にも悪魔の影響が出ている。体は人間のままだけど、睡眠と食事を取る必要がないって本能が理解していた。

 別に食事や睡眠は出来る。むしろ美味しい物を食べられないとか、至福の一時であるベッドでぬくぬくが出来ないとか勿体なさすぎる。


 そんなことになったら死ぬわ(確信)。


 ──っと、話がそれた。

 とりあえず私は沢山の金で美味しい物を食べるとか…………少し思っているけど、そんなことに使うつもりは少ししかない。逆に必要以上に金いらない、かもしれない。


「私が興味を持っているのは()()()()だよ」


「外、ですか?」


「そう。王都の外──()()()()()()()のが私の本当の目的だよ」


「…………はい?」


 意味がわからなくてポカーンとしている顔も可愛い。


「王都の外──()()()()()()()の──」


「いえ、二度も言わなくて大丈夫です。……ですが可能なのですか?」


「それは大丈夫だと思う。迷宮の核を支配すれば……」


 迷宮は世界各地にあって、それは地下に続いている迷宮だったり、塔のように上に伸びている迷宮だったりと種類は沢山ある。

 迷宮の近くに街などが建っている場合もあって、一種の観光場所のような扱いでもある。それは迷宮の魔物は外に出られなくて比較的安全だからという理由だ。


 難易度はバラバラ。実際に入って調査をし、調査員が難易度を決める。

 ちなみに私が支配しようとしている王都の迷宮は最高難易度だ。人類最強と言われる勇者でも全てを攻略するのは困難な厳しさで、日々沢山の冒険者がそこに挑戦している。


 そんな迷宮には核が存在する。人の体で例えるなら心臓の役割をしていて、核が破壊されることで迷宮は崩壊してしまう。普通なら迷宮主が核を守っているので、迷宮主を倒すイコール迷宮突破となる。

 その核を支配するとなると、魔力消費は半端ないことになるだろうけど、一応可能ではあるんじゃね? と私は考えた。


 ……え、なんでそんなこと知っているのかって?


 チッチッチッ、私がどんな能力を持っているのか忘れたんですか?

 魔眼の能力である千里眼は、どんな場所でも見通すことができる。

 それを利用して王都にある一番大きい図書館の中を見ていた時、そこで本を読んでいた賢者っぽいおじさんが、迷宮の本を読んで論文っぽいのを書いていた。

 そこに載っていた情報を盗み見ていたから、私はこうして迷宮の情報をたくさん持っているわけだ。


「なるほど……それでどうするんですか? その後は何をしましょう?」


 フッと軽く笑って自分の髪をブァサッとなびかせる。

 そしてドヤ顔を作り、私の人生計画最後のプランを発表する。


「──何もしない!」


 …………なぜだろう。室内なのにどこからか風が吹いてきた。


 レインの顔が説明出来ないくらい凄いことになってる。何かを言いたげだが、言っていいのかわからない感じで感情がぐちゃぐちゃになっている。


「何も──」


「聞こえているので大丈夫です……」


「あ、はい。すいません」


 なんかすっごく落胆されている気がするんですけど、私の人生計画のどこが悪いというんでしょうか。


「だ、だって無駄に人と接する機会も少なくなるんだよ? 家事全般だって知性がある迷宮の魔物に頼めばやってもらえるし、レインとずっと一緒に暮らせるし……」


「……ずっと、一緒に?」


「うん。レインは私の大切な従者だから……イヤ?」


「イヤじゃないです! 我は生涯をセリア様と共に過ごすと決めた身。さっさと迷宮に行きましょう!」


 突然やる気を見せ始めてくれたけど、私としては受け入れてくれたのが嬉しい。


 やっぱり人と触れる機会が増えてしまうと絶対にどこかで怪しまれる。そしたら、レインにも迷惑をかけちゃうから、誰とも会わない生活を選んだ。

 結局はレインとゆっくり暮らしたいってだけなんだ。恥ずかしいから言わないけど。


「当面は王都行きの馬車が来るまでこの街で冒険者ランクを上げる。それで行こう」


「かしこまりました、セリア様っ!」


「よし、そうと決まれば私は寝る! おやすみー」


「え、もう寝るのですか!?」


 だって疲れたんだもん。キャラを演じて人と話すのって結構疲れるんですよマジで。

 宿は寝る場所だから宿っていうのです。


「スヤァ…………」


 今日という日よ、さようなら。




        ◆◇◆




 次の日から早速、冒険者として働き始めた。


 ランクを上げるためには依頼をこなしていけばいい。私とレインの二人はパーティーとして登録されているので、一人の評価がパーティー全体の評価になる。

 だから私とレインで別々に依頼を受けることにした。これならば二倍のペースで評価が上がっていくことになる。

 普通の冒険者ならパーティーでなければ倒せないような魔物も私たちなら一人で充分。


 受注した依頼内容はプレートに記されて、それを達成したら依頼リストのところに『達成』という文字が浮かび上がる。

 システムがよくわからないけど、依頼が達成出来たかわかりやすいので、これはありがたい。

 しかも、これの最も嬉しいところは依頼達成の証拠がプレートだけでいいっていうところ。魔物の部位を持って帰れば金になるけど、私たちはそんな物いらない。


 さらに嬉しいことは、レインの進化によって私の能力も強化されたことだった。

 そのおかげで魔眼の能力を二つ同時に使えるようになったので、千里眼で対象の魔物を探し出し、他の魔眼の能力で魔物を倒すというのが出来るようになった。

 前にも言ったけど、魔物は魔力で出来た生物だ。魔力を全て吸収してしまえば魔物は消滅。しかも私の魔力ストックが増えて、プレートを受付に見せれば依頼も達成。


 動かずに稼げる仕事とか楽すぎて笑える。

 やっぱり自分の能力を有効活用していかなきゃ損だからね。本当に魔眼を取ってよかったと思う。


 そのせいで受付のお姉さんからは、どうやって依頼を達成しているのか聞かれたが、超遠距離魔法だと誤魔化しておいた。

 普通なら疑われるのだが、冒険者登録の時にレインが建物の一部をパンチだけでぶっ壊してくれたので、私も尋常ではない能力を持っている。と納得してくれたらしい。


 それで次々と達成してくる依頼に、お姉さんは困り顔だ。

 幸いなことにここは大きな街なので、依頼の数も山ほどある。他の冒険者から仕事を取り過ぎだと苦情は受けない。

 むしろサボって酒を飲んでいた先輩冒険者が、新人を見てやる気を出してくれて嬉しいと感謝されてしまった。


 ちなみに、レインは私のようなズルは出来ないので、しっかりと走って現場に向かっている。……なのに、こなしている依頼の数がそんなに大差無いのは何故なのだろう?


 嫌な予感がしたので、依頼から戻ってきたレインに本来の姿に戻ってないかを確認したら、目を逸らされて「そ、ソンナコトシテマセンヨ?」と言われた。


 ……うん、あれは絶対にやってやがる。


 レインのことだから周囲にバレないようにしているんだろうけど、少しお馬鹿さんな場面もちょくちょく見られるので、心配になってくる。


「まあ、バレても誤魔化せばいいか……面倒だけど」


 こうして王都行きの馬車が来るまでに着々と依頼をこなしていた私達は、Cランク冒険者からBランク冒険者になった。

ようやく迷宮という単語が出ましたね……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ