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第8話 名付けをしよう

 レヴィアタンは悪魔。それは理解したんだけど、私は契約した覚えもないし、魔力で現界させ続けている感覚もない。


「セリア様の『支配』で無意識に留められているのでしょう。契約については我が下僕になるというのがそうなのでは?」


 とのことだった。

 なんで進化したかは『魔眼』が影響しているのはわかったけど、詳しくはわからないのでとりあえず保留にしておく。


 落ち着いた私達は行動を始めた。


 最初の目的は近くの街まで行って冒険者登録する。『千里眼』のおかげで街がどこにあるかはわかっている。これなら迷子になる心配はないので安心だ。

 レヴィアタンは勿論のこと、私もお金を持っていない。金がないということは飯にありつけない。空腹は最大の敵って言われているくらい重要なことなので、当面は冒険者で稼ぐのを最優先でやっていく。


「ってかさ、いちいちレヴィアタンって言うの長いよね。……よし、名前付けようか」


「──っ!? 我に名付けしてくれるのですか!?」


 不意に放った言葉に予想よりも大きな反応が返ってくる。尻尾もブンブン振っているくらいの喜びようだ。まるで犬だ。可愛いな。


「やっぱり名前ないと不便じゃん? 今から考えるから待っててね」


「待ちます、いつまでも待ちます!」


 こんなに喜んでくれているんだから、適当な名前を付けられないな。

 レインの髪は綺麗な水色をしている。竜形態の時も全身が水色だったから、それに関係する名前がいいだろうな。


「──レインってのはどう?」


「レイン……素敵な名前です。我は今日から『レイン』と名乗ります!」


 その笑顔は悪魔とは思えないほど可愛くて、もう進化したのって天使なんじゃねぇの?


 ……とにかく、気に入ってくれたようで安心した。


 それから街に向かって歩いていると、レインが何度も自分の名前を繰り返して笑顔になっていた。めちゃくちゃ可愛い。やっぱり悪魔じゃねぇや、天使だわ。


「よし、今日はここら辺で休もう。日も暗くなってきたし、私が疲れたし……」


「セリア様、疲れていらしたなら我がおんぶしましたのに……」


「この年で美女におんぶされるのは恥ずかしいかな」


 曖昧に微笑んで軽く拒否する。


 そして、レインにそこら辺の木を細かく切ってもらうように頼み、私は木の葉を集めて簡易的なベッドを作る。

 レインが集めてくれた木の枝に火をつけて、野宿の準備は終わった。


 地味に初の共同作業だったけど、無事に終わって良かった。

 ご飯はまだ食べなくても平気だから準備しないので、後は寝るだけになった。


「セリア様はゆっくりお休みになってください。火番は我がやりますので」


 悪魔に睡眠は必要ないらしい。

 無理だけはしないように言いつけて、私はレインの言葉に甘える。横になった瞬間、今までの疲れがどっと出てきて、私はすぐに眠りについた。




「…………なにこれ」




 深い眠りから目覚めた時、私の周りには軽装で身を包んだ男女の山が出来ていた。

 その横には満足したようにニコニコしているレインの姿もあった。


「セリア様の寝込みを襲おうと企んだ不埒者共を成敗したのですっ」


 褒めてオーラが凄い。

 確認したところ全員殺さずに気絶させたようだ。こんな人数を私が起きないように相手にして、しかも無力化で抑えるとかレイン凄い。

 頑張ってくれた旨はちゃんと伝わったので、ご褒美として頭を撫でる。


「〜〜♪」


 めちゃくちゃご機嫌になってくれた。

 本当の姿があんな馬鹿デカい竜だと思えないくらいに可愛い。

 いつまでも撫でてあげたいけれど、今は盗賊達をどうするか考えなきゃならない。


「盗賊は多額な金がかけられていますが……」


「無理。街まで持っていくの辛い」


 この人数だから一気に金持ちになるのは確定なんだけど、面倒なので却下する。


 結局、盗賊(女)の持っていたフードを奪い、金になりそうな物と金を根こそぎ奪い取り、気絶したまま放置することになった。

 フードは私の目を隠すのと、レインの角を隠すのに必須アイテムとなる。そう思えば盗賊に夜襲をかけられたのは幸運だったと言える……のかな?

 ついでに全員の残りの魔力を根こそぎ『吸収』しておく。魔物ならこれで消滅するけど、相手は人間なのでしばらくの間一切動けなくなる程度だ。


 この森は魔物が多く生息している。

 武器も何もなく、動けない状態で普通の人が魔物に遭遇したら、まず生き残れないだろう。

 だからって助ける義理はない。私がいた村では良い子キャラを演じていたけど、もう関係ない。


 どうせ全ての敵になったのだ。

 みんなに優しくする義理はないだろう。


 ──邪魔をするなら容赦無く。


 そんな心持ちでいた方が、この先面倒なことにならずに済みそうだ。


「行くよ〜」


 思わぬ収穫を喜ぶのも程々にして、さっさと街を目指す。

 このまま歩いていれば、夜には街に着いて奪った金で宿に泊まれるだろう。


「やはり我が運んだほうがいいのでは?」


 それは竜形態に戻って空を飛んだほうが早く着くということだろう。

 悪魔になったのに竜の姿には戻れるらしい。便利だ。


「……いや、その必要はなさそうだね。走るよレイン」


 私たちの進む道のりに見えた、とあるものを目掛けて走る。


「はいっ!」


 私が見つけた目標に近づくごとに、嫌な臭いが濃くなってくる。

 レインも私の向かう先に何があるのか理解したようで、今は引き締まった顔をしていた。


「──ってぇ!」


 木の蔦に気づかずに足を引っ掛けて盛大に転んでしまう。結構急いで走っていたので勢いを殺せずに、しばらくゴロゴロと地面を転がる。

 まだ通常の目と『千里眼』を同時に使うのに慣れてないのがここで痛手になった。


「セリア様!?」


「私は……もうダメだ。後は、たの、む……ガクッ…………」


「茶番はいらないです!」


「──はい、すいません!」


 凄い形相で怒られちゃった。


「冗談は置いといて、場所はわかっているだろうから先に行っといて。これじゃ()()()()()()


「了解しました!」


 地面を砕く勢いで走っていくレインちゃん。

 張りきりすぎて勢いだけでご主人様を吹き飛ばしているけど……許してやろう。


 転ぶよりも吹き飛ばされたほうが痛かったけど、私は優しいからね。

 めっちゃ後ろに吹っ飛んで木に頭をぶつけたけど、私は優しいからねっ!


「さーて、ゆっくりと行きますか」


 三十分かけて歩いた先には馬車があった。

 周りはいくつものクレーターが出来ていて、魔物だったと思われるものの残骸が散らばっていた。


 馬車の座席には震えて縮こまっている商人。


 馬車の上にはつまらなそうに、しかし行儀良く座っているレイン。

 私を見つけた瞬間に顔を明るくして近寄ってくる。褒めて褒めてオーラが凄い。


「レイン」


「はいっ!」


「やりすぎだっ!」


 レインの頭にチョップをかます。


「──っでぇ!」


 結果。私の手が折れた。

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