9話
他人の家で寝落ちした
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……重い、何かが乗ってるみたいだな。頭を持ち上げて薄く目を開けて見るとタオルの塊がある。あぁ、ヒメかな。タオルで包んだ覚えがないからフラウがやってくれたんだろう。
「助かった。体を冷やしたら万が一があるからな」
タオルの上から撫でる、たぶん背中だろう。撫でる手はそのままに首の力を抜いて視線を天井に向ける。
「起き上がりたくないなぁ。二度寝するか」
目を閉じて深呼吸する。腹の上のヒメも規則正しい呼吸をしているのを感じる。
「落ち着く〜」
「人の家だって分かってる?」
二度寝しようとしていたらフラウが部屋に入ってきた。
「ノックしろよ。寝室だぞ」
目を閉じたまま返事をする。
「もうお昼近いしさっさと起きなよ」
窓を見れば確かに明るい。12時間以上寝ていたらしい。
「全く、ヒメちゃんもクライスから離れようとしないし悶々としてたよ」
「ヒメは俺にしか懐かないんだ」
「生後2日で分かるわけないだろ親バカめ」
なんと言われようがヒメは俺にしか懐かない筈だ。
「どうやらヒメも起きたらしいな」
ヒメがモゾモゾし始めた。タオルの出口を探しているようだ。出てくるまでモゾモゾを楽しむ——
『クゥーン』
ことなくタオルから出してやる。
「お前また大きくなったな。毛も生え揃ってるじゃないか」
昨日の夜から三割増しくらいに大きくなって白銀の綺麗な毛がサラサラだ。
「その子やっぱりクライスの魔力で成長してるんだよ。テイムモンスターが強くなる要因にテイマーの魔力が影響してるんだって」
朝起きてから色々調べたらしい。調べた結果、ヒメは腹を満たす以外に魔力を得る必要があるらしい。だから俺から離れたくなかったのか。
「別に俺に懐いていた訳じゃないのか……」
「ま、まぁ元気だしなよ。クライス以外に育てることは難しいって分かったんだから」
「そ、そうだよな」
たまにはフラウも良いこと言うじゃないか。
「あ、でも魔石与えたら良いのか」
なるほどと呟くフラウ。
「そんな誰が触ったかも分からんやつをヒメに食わせるわけにはいかん!」
ヒメを抱きしめて宣言する。
「誰が触ったかもって……相当やばいやつじゃんクライス」
フラウが蔑んだ目で見てくるが気にしない。ヒメは俺が責任を持って育てるんだ。
「そうだ、オークの依頼の報告に行かないと」
「報告せずに半日も寝てたのかこの親バカは」
その通りだが悪いとは思ってない。大成果だからな。
「と言うわけでギルドに行ってくる。夜は肉料理が食べたい」
「宿だけじゃなくてご飯も集るつもりかこの男は。もう逆に尊敬しちゃうよ」
尊敬しちゃうよとか言いつつ蔑む目をしている。やめろ!いつかヒメが真似するかもしれないだろ。
「飯については金を払う。一食銀貨1枚払う」
「銀貨は貰いすぎだよ!クライスは貴族なの?」
蔑む目が今度は不安そうな目で見てくる。普通なら平民が貴族に馬鹿とか言ったらタダでは済まないだろう。そして確かに俺は貴族待遇だが選民意識なんかは無い。
「俺が貴族様に見えるか?選民意識なんてクソ食らえだ」
フラウがあからさまにホッとした。
「なら良いんだけど……でも料理の出来は期待しないでね」
「最悪丸焼きでも良いぞ」
もう少しマシなの作れるよ!と叫ぶフラウを置いてギルドに向かう。だがなフラウよ、丸焼きも奥が深いんだぞ。