8話
ヒメに殺された
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まさかあんな必殺技あるとは思わなかった。
「今までのどんな攻撃より強力だった」
「今なら嫉妬でクライスを殺せそうだよ」
「お前程度が俺を殺せる訳ないだろ」
「こいつ……」
いつまでもこいつで遊んでいる暇は無いんだった。早く宿を探さないと。でも今からだとすぐに決まらないかもしれない。そうなるとヒメを連れまわすことに……そうだ。、
「……フラウ、もっとヒメといたくないか?」
「は?何当たり前の事聞いてるの?」
(ヒメに)優しい俺が最高の案を提示してやろう。
「この店は自宅も兼ねているんだよな?」
「そうだけど?」
「泊まってやってもいいぞ。少しならヒメの世話をしてもいい」
どうだ変態。
「ムカつくけど魅力的な提案だ。ハッ!?僕に何もしないでよ!」
「調子に乗るなよ絶壁」
「っ!人が気にしてることをぉ!本当ムカつくけど泊まって良いよ!」
ふっ、ヒメの魅力には勝てなかったようだな。悔しそうにペタペタと胸を触っている。
「貧乳とは魔族にしては珍しいな。実は男か?」
「少しはあるよバカ!くそぉ調子にのりやがってぇ……でも実力差があり過ぎるから何も言えない」
魔力は抑えているから分からないと思ったが流石魔族だな。
「じゃあ案内してくれ」
「二階の部屋を使ってくれ。ヒメちゃんは預かるからね」
ヒメを鼻息の荒いフラウに預ける。
「ふへへ、可愛いねぇ」
不安になってきた。ヒメはメスだし大丈夫だよな?
『クゥーン』
言われた通り二階に行こうとしたらヒメが鳴き始めた。寂しい感情を訴えてくる、そういう感じだ。いなくなる前に気付くとか俺の事好き過ぎかよ。
「何だよその目は。今晩は僕が預かるんだから」
『クゥーン』
「ヒメは嫌だって」
「そ、そんなこと……なくはないかも」
フラウの言葉に力が無くなっていく。仕方ないな、(ヒメに)優しい俺が再度提案してやろう。
「よし、俺もお前の部屋で寝る」
「はぁ?」
「俺はベッドでお前は床な」
「ふざけんな!家主は僕だぞ」
「俺は客だぞ」
「クライスみたいな失礼な客泊めなくてもいいんだけど?」
してやったりみたいなドヤ顔をしやがった。こいつも自分の立場を理解していないようだな。
「あ、そーなの。じゃあ宿は別に探すわ。ヒメ返して」
「すみませんでした」
ヒメをカウンターの上にソッと置いてから綺麗に頭を下げてきた。
「素直でよろしい。俺とヒメは寝室に行くから、ヒメに構って欲しいなら早く来るんだな」
「まだ店の締め終わってないんだけど!?」
「早くしないと俺の腕の中でヒメが寝るぞ」
そう言い残してフラウの横を通って奥の廊下を歩く。まずはフラウの寝室を探すが、廊下にも商品らしき荷物が置いてあって邪魔になる。蹴飛ばしたく気持ちを抑えて部屋を探す。
倉庫を2つ発見してからやっと寝室を見つける事ができた。部屋は白を基調としていて意外と清潔感のある可愛らしい趣味をしている。
ヒメを抱えたままベッドの縁に座ってゆっくりと倒れこむ。西の森で走った分の筋肉痛がきてる。
「想像以上に体がなまってるな」
王宮では寝てばかりだったからか魔力で身体強化するのも忘れていた。目を閉じると強烈な睡魔に襲われる。
ちょっと休んで、ヒメと、あそぼう……
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「なんだよあいつ、勝手すぎるよ」
昼前モンスターの幼体を連れてきた男の顔を思い浮かべる。僕をバカにした顔が憎たらしい。
「でもヒメちゃんは可愛いなぁ。鼻血出そう」
でもモンスターだから他の愛玩用の動物より成長は早そうだよね。今でさえ驚異のスピードだけど。
「天使みたいな可愛さはだよね」
普通のキラーウルフのように黒じゃなく雪の様な白銀の毛並みを思い出す。
「突然変異かな?白銀のキラーウルフなんて聞いたことない」
猿型モンスターのコンガの群れの長はシルバーバックとかいって毛が白くなるとかあったよね。それと同じことかな?
「分かんないなぁ、ヒメちゃんも謎だしクライス自身も謎だよ」
魔族でも上位に食い込む僕でさえ勝てないと感じたもん。魔族で言えば侯爵以上か下手したら四魔……
「ないない。魔力は膨大だったけど見た目人間だったし」
片付けも終わったし馬鹿なこと考えてないでヒメちゃんと遊ぼう!
荷物を軽く蹴飛ばしながら廊下を歩き寝室に行く。
「あら可愛い」
扉を開けると、ヒメちゃんがクライスのお腹の上で丸くなっているのが見えた。少し寒いのかもしれない。クライスが買ったタオルと同じものを2枚持ってきて包む。
「もう小型犬より大きくなってる。やっぱり普通のキラーウルフとは違うみたい」
普通のキラーウルフの子供ならここまでなるのに3日はかかるのに、たった1日でこんなに……
「ミルクだけじゃ大きくなるためのエネルギーが足りないと思うんだけど……」
ほんと、最初のお客さんは主従揃って謎だらけだ。