16話
この時期のトイレってサウナですよね。でもその後水風呂に入ると元気100○なのでプラマイ○です。
社畜体質発見!?
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「そのアキュムレーター?ってなんなのさ?」
「魔力を体に溜め込むんだ。本人の意思とは関係なくな」
だからあの母親は弱っていたんだ。ヒメに魔力を吸われて……
「それの何が悪いの?」
「勝手に魔力を吸収するんだぞ?俺は魔道具で抑えているがヒメは全開の状態だ。もし初日にヒメと寝ていたらフラウ、お前死んでたかもしれないぞ」
俺の言葉に驚いた顔をする。そりゃ突然こんな話をされたらそうなるか。
「で、でもクライスは……」
「俺は魔力だけは多いからな。この体質のおかげで溜め込んだよ」
今でこそ影響は無いが……
「じゃあクルウも危ないんじゃないの?」
「俺の魔力を大量に取り込んだんだ。まだ大丈夫だろう」
定期的に魔石を食べさせることで対処しよう。
「あれ?でも普通のモンスターも魔力は体に吸収するよね」
「撃ち込まれた魔法すら吸収出来るか?俺達はそれが出来るんだよ」
ヒメを撫でる。急に撃ってごめんな。
「そっ……か、どうするの?」
「……魔道具を複製する。俺が着けている魔道具を複製する」
服の下からネックレスを取り出す。いつ見ても見事な造形だ。
「うわー、綺麗なネックレス。誰から貰ったの?」
「俺の恩人から貰った」
筆頭魔道士ビンセント様からな。だが作り方も素材も分からない。ビンセント様は錬金を使えなかったから誰かに貰ったか作らせたんだろう。
「クライスはその人に愛されてるんだね」
正確には愛されて"いた"だな。あの時までは……
「……寝る」
「え?ヒメちゃんどうすればいいの?」
「対処法を思いつくまでお前は近付くな、死ぬかもしれないからな。クルウお前もだ」
忍び寄るクルウに釘をさす。巨体だから視界に入るんだよ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
2階の部屋に入ってベッドに大の字になってうつ伏せで倒れこむ。
「ダメだ」
勇者を探すという任務を中断するか、魔道具作りと両立出来るか。思考が頭をグルグルと回る。
「とりあえず一眠りしてそれから考えよう」
目を閉じて深呼吸する。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
体全体が重い。体がベッドに沈み込んでる。
「ふんぬぁあ!重いわクルウァ!」
背筋を使って上半身だけ起き上がってベッドに手をつく。右側にクルウの頭がドサっと落ちた……俺に乗ったまま寝ていたのか。
「ヒメは……」
モゾモゾと何かが頭を這い上っている。顎を引くとズリズリと落ち始めた。
「つめツメ爪!」
視界の上半分が隠れた時顔に痛みが走る!
「痛いわぁ!」
左手ではぎ取る、案の定ヒメだ。その指には立派な爪が伸びてい……
「るぅ!?」
体を支えていた右手ごと逆海老反りの状態でクルウに拘束された。左手だけ伸ばしてガックリと項垂れる。
「俺が悪かったから許してくれー」
とりあえず謝ってみるが一向に緩まない。文句があるなら分かるようにしてほしい。
『『……』』
4つの瞳に見つめられる。
「え〜とぉ」
「クライス……そういう趣味があったんだね」
俺が答えに窮しているとフラウが部屋に入ってきた。くそ、まさか見られるとは。
「クルウ、餌やるからはな—ぶっ」
視界いっぱいにヒメのお腹が!
「んーー!(息が!)」
「苦しくないの?」
「んんーーんーんん!(見ての通りだよ!)」
「分かんないよ。ほら、クルウも離れなよ」
下半身は解放されたが、離れまいと締め付けてくるのでむしろ悪化してる。息出来ないしクルウの、いやフラウの所為で肺の空気が搾られる。
「んんー!(死ぬー!)」
ヒメが再度ずり落ち始めた。イケる!
「さようからクラ——」
「ぶはぁ!!」
「イス。なんだ解放されたのか」
「おかげ、様でな」
まだ心臓が暴れてる。息が出来るって素晴らしい。ごめんねミール君……マール君だっけ?どっちでもいいや。
「ほら、クルウも退いてくれ」
頭をポンポン叩きながらお願いするとやっと解放された。はぁータチの悪い寝起きドッキリだよ、死にかけたわ。
「……」
「フラウ、何で黙ってるんだ」
「いやぁ、多分クルウはそれを見られたくなかったんじゃない?」
フラウの指差す方を見ると……それはもう立派な、立派な糞が。
「クルウ……お前」
クルウを見るが俺から視線を逸らして尻尾で捕らえたヒメを差し出してくる。いやいやいや騙されないからね?
「まさか恥ずかしいとかの感情があるとはナァッ!?」
素直な感想を言おうとしたら、しなる尻尾が眼前に迫ってきた。
「ヒィ!」
俺は避けたが切り返して……
「え?」
バチィィンといい音を立ててフラウの顔にヒットした。大丈夫か!?
「よかったぁ俺に当たらなくて」
あ。
「ひ、ひどすぎる……ガクッ」
本音と建て前を逆に言ってしまった……まぁいいか。
「ほらクルウもあやま……ヒィ!」
何で!?
「待て、今日のことは忘れる。忘れるから尻尾をユラユラするな」
助けてヒメ!あ、ダメだ。ベッドの上でヘソ天で寝てやがる。寝るときそればっかだなヒメ。
「たまには丸くなって寝ても——かはっ」
ヒメに気をとられた瞬間意識を刈り取られた。
「ちょ、倒れるならあっちに」
無理です動けません。
「おさわり禁止!ちょ、アアァァァ!」
起き上がろうとしていたフラウの上に倒れる。二度寝しますね。
「重い!」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「クルウの照れ隠し怖い」
「怖いっていうか痛い。実害を伴ってる」
クルウにぶたれた箇所を冷やしながら夕食を食べる。当のクルウは何食わぬ顔でオークを呑み込んでいる。のどごしはどうですか?
「満足そうな顔しやがって……可愛いなちくしょう」
「親バカでも良いけど躾はちゃんとしてよ」
これに関してはごもっとも、反論のしようもない。
「魔言で命令すれば良いんだけどな」
「話しかける時って魔言じゃなかったの?」
「魔言は強制力を持つ言葉だ。ただ魔力を込めるだけじゃ話す事しかできない。あ、それ取って」
水差しを指差す。
「へぇ〜、爬虫類系はカバーして無かったから知らなかった。はい」
フラウがパンを取ってくれた。
「ありが、全然ちげぇし」
自分で水差しを取る、一応パンも受け取る。
「……一緒だよ」
ほほぅ?パンは砂漠で水差しはオアシスだぞ?
「この……絶壁無乳女」
「何、なんて言った?悪口言ったよね」
「超絶美乳少女って言ったんだよ」
「嘘つけぇ!」
パンを投げるな。怒られるぞ……誰かに。
『座れ』
「へ?」
ストンッと椅子に座る。
「あれ?何で僕座ったんだろ」
「さっき言っていた魔言だよ。力の差が無いと効果は無いけどな」
「何だよそれぇ」
「嫌な気持ちか?」
「いや、そーでも無いんだよね」
それが魔言の怖いところだ。意識していないと魔言だと気付かないから自発的に動いたと錯覚する。
「それって誰でも出来るのかな」
「訓練を積めば出来るようになる」
ラナより早く習得してラナで遊んでいたのを思い出す。変な踊りをさせたり変顔をさせたりしていた。バレた時は殺されるかと思った。
「あ」
「何?」
忘れてた。今日ギルドに行く予定だったんだ。
「……まぁいいや」
「ちょっとちょっと、僕に関係してる?」
「これは本当に関係無い」
「……なんかモヤっとした。僕も関わらせろ」
関わらせても良いけど、こいつ何で店やってんだ?
「じゃあ明日の昼ギルドに行くぞ」
「リョーカイ」
ヒメと離れたく無いだけか?そうだろうな。