13話
未だに名もないこの大陸は大体オーストラリアみたいな形と大きさで考えいますので想像していたけど違った方、想像すらしていなかった方は覚えておいて下さい。
愛情も体重も重い巨大蛇
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店につくなりデビルズロープを下ろす。床がミシリと音を立て軋む。
「おかえり〜って何でデビルズロープ?」
出迎えたフラウがデビルズロープを見て訝しげな目をする。そういえば獣系が好きなだけでモンスター全般じゃ無いのか。
「新しい従魔だ。産まれて2ヶ月くらいの個体だろう。ま、俺の魔力を吸収してデカくなってるが」
「なり過ぎたよ。しかも鱗もかなり硬そうだ、牙も大きいし毒を使わなくても獲物を狩れそうだね」
ペタペタと触ったり口を広げたり好き放題してるがデビルズロープは大人しくしている。種族的なものもあるがフラウ本人の雰囲気もあるのだろう。
「こいつ用の餌はあるか」
「うーん、腹を満たそうとしたら猫とか大きめのが必要だね」
猫は無いがオークの死体なら大量にあるぞ。
「オークじゃダメか?」
アイテムボックスから1体取り出す。
「あ、それでも良いかも……ね。良いみたいだね」
出した瞬間デビルズロープが呑み込み始めた。自分の半分くらいあるがグイグイ呑み込んでいく。
「すげぇな」
「これが猫だったら失神してたかも」
5分程で完全に呑み込んでしまった。お腹は破裂しないか心配なほど膨らんでいるが、満足そうな顔をしているので大丈夫だろう。
「すごいね、さすがはBランクモンスターだ。豪快すぎる」
「そうだな……イテッ」
またヒメに噛まれた。私に構えと言うことか?それは構わないが噛み癖が付きそうだな。フラウは甘噛みしてるヒメを見て鼻を押さえている。変態が極まってるな。
「ぶふっ!あ、ちょっとごめん」
耐え切れなかったらしい、ご丁寧に一言断って裏に消えていった。
デビルズロープは腹が邪魔で塒を巻けないのか鎌首をもたげてキョロキョロしている。目は悪いので熱で俺を探しているんだろう。何となく面白かったので、ヒメを下ろしてから高速で動いて視線から外れるように動く。
「何してんのさ」
フラウがアホを見る目をしている。はたから見ればかなり変人だったな。
「く、訓練だ」
少し息が切れてる。我ながら弱くなっているな。
「そ、ヒメちゃんも床に置いちゃってかわいそー」
抱き上げて見せ付けてくる。だがヒメなら分かってくれるさ。
「可哀想と思うなら俺に返せ」
手を伸ばすと体に隠される。ヒメのユラユラ揺れる尻尾だけが見える。あの感じは気まずいんだな、フラウと俺が喧嘩してる思ってるのか?
「ほら、ヒメも不安そうにしてるから早く返せ」
「あれ!?目が開いてる!」
聞けよ!というか見せろ!強引にヒメを奪い取る。毒魔法でフラウを麻痺させたから抵抗なく奪えた。
「ク、クラ、イスの、けちん、ぼ」
麻痺しながらも恨めしそうな目を向けてくるとはなんて精神力だ。賞賛に値する。
「なんとでも言え、ヒメの記念すべき瞬間には親である俺が立ち会うのが義務付けられてるんだ」
今決まった、今決めた。
「じゃあ、僕が母親、になふ」
痺れが取れきってないのか途切れ途切れで呂律が怪しい。
「申し訳ないが政略結婚はNGだ」
「誰がクライスなんかと!!」
もう完全に痺れが取れたのか、早かったな。だがヒメの母親なら俺の嫁になるだろ。
「フラウはヒメの……姉か妹だろ」
「姉だろ!いや……成長したヒメちゃんに甘えたいから妹で!」
欲望丸出しの妹宣言とは恐れ入った。だが断る。
「嘘だ。良くて近所のおばさんだ」
「おばっ!お姉さんだろうがぁ!」
スラリと伸びた脚でハイキックしたきた。フラウの脚は俺の側頭部にクリーンヒットした。
「いったぁ〜」
脚を押さえて座り込むフラウ。
「錬金速度を上回らなければ痛い目見るだけだぞ」
ラナの時と同じように頭から肩にかけて分厚い鋼鉄を錬金したのだ。肩まで錬金したのは衝撃の負担を首に与えないためだ。
「くそぉ、魔道士に近距離で勝てないなんて……」
「大丈夫だ、頭の出来では勝ってる」
「そう?」
「頭のバカさ加減の出来だ」
「くそ!」
パァっと花が咲いたように笑顔になったがすぐに悔しそうに床を殴り始めた。
「飯は?」
「うっ、うっ……奥の部屋にあるよ」
こいつ泣いてるのか?どんだけ悔しかったんだよ。
「泣いてるのか?ハンカチ使うか?」
「ヒメちゃん頂戴?」
「一生泣いてろ」
嘘泣きだったうえにありえない要求をされた。フラウはほったらかしにして飯があるという部屋に向かう。
「ちょっと!もう少し心配してよ」
心配も何も嘘泣きだろうが。部屋に入ると大皿のうえに豚の丸焼き?が置いてある。
「おい」
「な、何かな?」
目を逸らして誤魔化そうとしてるがダメだ。
「お前丸焼きよりマシなのを作るって言ったよな?あれは何だ」
丸焼き?を指差す。
「さぁ?デビルズロープが吐き出したオークじゃない?」
グロいことを言うな!
「明らかに丸焼きだろ。しかと失敗してるし」
肩焼きで背中側しか焼けてなさそうだ。一応開いてみたが中はほぼ生だ。
「料理出来ないなら言えよ……」
「だ、だって期待されたら言いづらいじゃん」
手を後ろで組んで体を恥ずかしそうに呟く。可愛いけど俺には効かないぞ。
「今日は2階で寝るわ」
「じゃあ僕も2階で寝る」
「自分の寝室があるだろ。1人で寝ろよ」
「ヒメちゃんがいないと嫌だ!」
こいつなんて綺麗な目で言い切りやがる。だがヒメと2人きりで寝るなんてお父さん許しません。
「ならこれやるよ」
ある物を錬金して渡す。
「なにこ重い!!」
重さに驚いたらしい、なにこれと言いきれずに撃沈した。
「純タングステン製のヒメ像だ」
渡したのは希少金属であるタングステンで出来たヒメの像だ。原寸大で作ると100kgを超えそうだからミニチュアで作った。
「悔しいくらいに再現してるけど馬鹿みたいに重いから寝るときは使えないよ」
ミニチュアでも20kgくらいあるしな。棒を錬金してくっ付けたら立派な武器になる。
「じゃあ返してくれ」
「それとこれとは話が違うよ。お店に飾ります」
そう言って部屋から出て行ってしまった、本当にお気に入ったのか。
「……まぁ、こっちはこっちで飯の準備するか」
準備と言ってもアイテムボックスから出すだけだが。
アイテムボックスから黒パンとセレスお手製のビーフシチューを取り出す。セレスはエルフのくせに肉を使った料理が異様に上手い。さすが掟を破って里を出た男だ、普通のエルフとは一味違う。
「いい感じに飾れた……良い香りがする」
「俺の友人が作ったビーフシチューだ。お前は丸焼きを食べろ」
「意地悪言うなよ〜」
フラウが枝垂れかかってきた。そんなに近付くと胸が……無いのか、少し残念だ。
「また失礼なこと考えてるだろ」
「いや、胸が無いなと」
「そこは誤魔化すとこだろぉ!?」
ギィ
「ヒィ!」
扉の軋む音にフラウが飛び上がる。見るとデビルズロープが部屋に入ってきて、シュルシュルとテーブルに近付いている。
「「まさか」」
案の定パクッと豚の丸焼きを呑み込み始めた。既にオークは消化したのか……
「凄い食欲だな」
「軽く呑み込んじゃった……」
チロチロと舌を出してる。まだ食べ物を探してるのか!?
「さすがに食べ過ぎだ、そこで寝てろ」
俺の言葉は聞こえてないはずだが巨体をダランと伸ばして、顎を床に付けてぼーっとした顔をしている。
「そういえばこの子の名前は決めないの?」
「そうだなぁ、オスかメスか分からないんだよな」
尻尾の太さがどうとか聞いたことはあるが見分けられない。
「もうフラウでいいかな」
「ん?僕が名付けをするってこと?」
「いや、名前がフラウってこと」
そしたら『フラウが豚を丸呑みにした』とか『フラウが巻きついて離れない』とか言えるわけか……
「面白いなっ!ハッハッハ」
「ふざけんな!バカ!」
「冗談はさておき、お前の名前はクルウだ」
頭に手を置いて言葉に魔力を込めて伝える。聴覚が無い魔物は魔力や揺れなどを聴覚や視覚の代わりにしているので、魔力を込めてやれば大抵伝わる。
クルウから返事は無いが大丈夫だろう。頭をポンポン叩いてテーブルに着く。
「僕の分は?」
「クルウが食べた。飯が食べたいならクルウに分けてもらえ」
「いや、無理だから!もう消化始めてるよね!?」
ギャーギャー煩いので仕方なく小さいパンとスープを出してやる。
「ビーフシチューは?」
「出してやってもいいがヒメを放せ」
俺がクルウに名付けている間に確保されてしまったから交渉する。先に料理を出して食欲を刺激してやる。
「ジュルル……ヒメちゃんは渡さないから」
「はい、残念」
パンを収納する。
「!?ヒメちゃんは渡さないしスープも渡さないから!」
そう言うと皿を片手で持って傾ける。テーブルに手をついてヒメの上に傘を錬金する。
「バカだな」
「あっつぁ!」
底が浅く縁が広い皿を使ってるんだ、こぼすに決まってる。ヒメは傘のおかげで被害無しみたいだ。
「大人しく席に着け、それにそのスープはヒメ用だ」
「ならこんな皿使うなよ!ヒメちゃんが火傷したらどうするつもりだ!」
立ち上がって服をパタパタしながら叫ぶが、勿論錬金で形を変えるし冷ましてから食べさせるに決まってる。
「お前と違ってヒメは賢いから大丈夫だ。ほら自分で俺のところに帰って来た」
フラウの魔の手から逃げ出しテーブルの下を歩いて来たらしい。膝に登ろうと助走をつけてジャンプしている。失敗したら距離を取ってリベンジするところが可愛い。
「あ、ほんとだ。やっぱりクライスが一番かぁ」
フラウがテーブルに突っ伏す。当たり前だろ、これでもまだ赤ん坊だぞ。
「ヒメ、これを食べたらクルウと遊んでこい」
床に皿を置いて柔らかい竜肉を入れる。脂身は少ないが柔らかい高級な肉だ。
「ヒメちゃんは高価な竜肉だと……僕は?」
「ヒメが大きくなるまでこの家に居候することを許せば俺と同じものを食わせてやろう」
この街のギルドでは依頼を受けたく無いので引き篭もる気でいる。この家なら周囲の干渉もなさそうだしこう物件だ。
「それくらい良いよ。むしろいて欲しいな」
普通なら俺の事かと勘違いしそうだが実情は……
「ヒメちゃんをいつでも見れるなんて最高じゃないか」
ほらな、うっとりしている。ま、許可してくれたから食わせてやるか。
ビーフシチューと黒パンを取り出す。
「ほら食べるぞ、着替えて来い」
「はっ、おほぉ!美味しそう〜」
コロコロ表情が変わるから見ていて飽きないな。ラナと一緒で煩いがこういうところが違うな、何か新鮮だな。