11話
最初の構想では、街という概念は無かったんですよね……ホープの街とか設定のどこを見てもありませんでしたよ。
転移者人知れず脱落
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宿でのことをクラッグに報告して要望を伝えた。ミノルが死んだことにショックを受けたようだが個人に入れ込むのは良くないぞ。
「なーヒメ」
左腕に抱いているキラーウルフの子供であるヒメを撫で繰り回す。
『ウゥー』
四肢を使ってイヤイヤする様子に癒される。イジメてごめんよ!と言いつつお腹に顔を埋める。
「アロマテラピーならぬヒメテラピー最高だわ」
語呂が悪いとか気にする奴は殺す。
「クライス殿、いやクライスの要望を飲みましょう。それでこの件は口外しないようにしてくれるんですよね?」
俺からの要望はオーク討伐のGPを繰り越すことと俺に敬称を付けないことだ。
「これで俺はCランクになった訳だな。Bランクからは試験があるんだろう?」
そう、Bランクになるにはめんどくさい試験を受ける必要があるらしい。試験内容はその時々で変わるから何をやるかは分からないらしい。
「そうです。このギルドで受けるなら優遇しますが……」
このギルドからは依頼も受けたくない。
「遠慮する。俺はこのギルドが嫌いだ」
おもむろにヒメを頭の上に乗せる。ギュッとしがみついてきて可愛い。でもちょっと爪が出てきて痛い。痛かわいい。
「わ、分かりました」
クラッグはこめかみに青筋を浮かべ手も震えているから怒っているんだろう。原因は明白だな。重要な話をしてるのに俺がヒメと遊んでいるからだ。でもやめないけどね。
「明日また来るから用意しておけよ」
好き放題やってサッと帰る。格下との交渉ならこれが一番早いし楽だ。力を信条とする魔族だからこそ出来ることだ。
外に出たがまだ明るい。日没まだ数時間あるし森に行くか。
「北は門の反対だし南の森に行くか」
門番にカードを見せて南の森に行く。はっきりとは見えないが何かがいるのは分かる。
「爬虫類系って擬態が上手かったりして面白いんだよな」
影に溶け込んでいるシャドウリザードに近付くが襲われない。いつもながら不思議だな。昔から爬虫類系や物質系、精霊の類に襲われたことがない。物質系とはゴーレムや彷徨う鎧・剣などで、精霊は各属性の精とか木精とか光精だ。
「これもテイマーの才能か?でも他の種族は襲って来るんだよな」
真っ黒なシャドウリザードの背中を撫でる。シャドウリザードは影に潜み獲物をひたすら待つ待ち伏せ型のEランクモンスターで、その体はヒンヤリしていて夏季はよく枕にしていた。昼間は日向で日光浴するらしい。
「人よりモンスター達の方が楽でいいな」
撫でるのに一区切りつけて立ち上がって火の魔石を食わせてやる。こいつらは体内に溜め込んだ火の魔石を使って瞬間的に体温を向上させることも出来る。
「他に何かいないかな〜」
ヒメを抱えて薄暗い森の奥に入って行く。
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結局シャドウリザードを10匹見つけただけだった。バジリスクとは出会えなかった、あのモンスターの涙は石化の治療薬に使えるから欲しかったんだが……
「バジリスクは徘徊型だから、仕方無いよな」
バジリスクはその巨体に似合わず静かに移動するので見つけるのに苦労するな……ん?
「こいつデビルズロープか」
悪魔のロープと言う名前の蛇のモンスターだ。威嚇した時に広げる頸部の模様が悪魔のように見えることからその名がついたのだが、俺が伸ばした右手からスルスルと首まで登って来る。見た目は恐ろしいが怒らせなければ無害なモンスターなんだ。体が大きく毒が強力だからBランクに分類されてるだけだ。
「幼体じゃないが産まれてから数ヶ月は経ってるな」
デビルズロープは俺の首の後ろをグルリと回って左側から覗き込んで来る。尻尾は右腕に巻き付いているので落ちることは無いだろう。
大きさは3mくらいで大人の半分程度だが、毒は変わらないからDランク相当の脅威はあるだろう。
「俺にかかればただの可愛いペットだな」
頭や胴をペシペシ叩いても舌をチロチロ出すだけで威嚇もしない。愛い奴め。
「イテッ」
デビルズロープに構っているとヒメに噛まれた。と言ってもアグアグと甘噛みするだけだ。
「落ち着け落ち着け」
デビルズロープがヒメに威嚇し始めたので強引に視線を外させる。俺が攻撃されたと思ったんだろう。
「今日の成果はこいつだけか」
デビルズロープを連れて帰ることは決定事項だ。バジリスクとは会えなかったがこいつと会えたのだいいだろう。