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星を巡るソフィア  作者: 彩都 諭
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第9話 再会と出会い

 第9話 再会と出会い


 朝食を食べ終わったソフィアたちは、家族で手分けをしてリゴを探していた。

 もう昼近いのに、なかなか見つからない。結局、辺りをひと周りした家族と再び合流した。リゴはどこにもいない。


「はぁ…リゴ、どこ行っちゃったの?こんなに探してもいないなんて。ルーナ、大丈夫?」


「うん、平気だよ。お母さんも一緒だし、無理はしてないよ。それにしても、どこ行っちゃったんだろ?」


 ルーナもソフィアも、お互いに顔を見合わせる。


「リゴさん、街を離れたのかしら?先に近隣都市に移動したとか…」


「その可能性もあるが、それならリゴ殿から一言ありそうなんだがな。それに、この街の周辺は今、救援部隊が幾つも来ている。だから、街から街への移動は制限しているんだ」


 テオはそう言うと、一つアイディアを思いつく。


「そうだな…メリダの市民を近隣都市へ移送している兵士たちに聞いてみる手があるな。確か、その調整を行っているのは…エメリア姫だ」


「え!お姫様!?」


 二人の娘たちが一斉に声をあげる。なんだか嬉しそうな顔だ。


「ん?お前たち、姫様に会いたいのか?」


「うん!!」

 声を揃えて、即答する。


「ははは!そうかそうか!それじゃあ、家族揃って会わせていただけないか、頼みに行こう。普段は王族である姫様との謁見は難しいが…なあに、俺も姫様の直属で任務をしていたし、カトラも面識がある。それに、側にはちゃんと衛兵もいる。たぶん姫様も喜んでお会いして下さるだろう。あ、でもお忙しそうだったら、我慢するんだぞ?」


「はーい!」

 二人は嬉しそうに返事をする。ソフィアたちはメリダの外に行ったことが無いので、勿論王都にも行っていない。王族、しかもお姫様に会えるかもしれないと思うと、ちょっとした乙女心もくすぐられていた。


 カトラの提案もあって、ソフィアたちは先に軽く昼食を取ることにした。王族に会うのだから、それなりの身だしなみを整える必要もある。謁見のマナーも、家族で軽くリハーサルをした。一通り準備が出来ると、一同はエメリア姫が執務をしているテントへと向かった。



 昼を過ぎて、日が少しずつ傾き始めた頃、ソフィアたちはエメリア姫の執務テントを尋ねる。まずは衛兵たちに話を通し、許可を得なければならない。テオはテントの周辺を見回した。

 衛兵たちは皆、椅子に座っている。誰も入り口の横に立っていない。何か違和感を感じたが、テオは衛兵に近づき、話しかける。


「失礼、エメリア姫に御目通りを願いたいんだが…?」

 返事がない。テオは衛兵の肩を揺する。すると、ドサッと音を立てて、衛兵は地面に倒れる。


「これは…眠っている!?まさか、刺客か!」

 周囲の衛兵も全員眠っているようだ。すぐには起きそうもない。

 テオは帯刀していた剣を抜く。増援を呼んでいる時間は無いかもしれない。仕方なく、困惑するソフィアたちに下がるように言い、テオはゆっくりとテントに入る。中に入ると、信じられない光景が広がっていた。

(な…狼だと!?なんだこの大きさは?姫様は!?)

 テントには巨大な黒い狼が、こちらに背を向けていた。テオは状況が理解できない。だが、まずはエメリア姫を探そうと辺りを見回す。すると、姫は狼に向き合って立っていた。それから、もう一人。


「まさか…陛下!?」


 あまりの驚きに、声を出してしまう。すると、狼と国王陛下とエメリア姫が一斉に、テオの方を振り向く。テオは全身からブワっと汗が出るのを感じた。


「おお、テオか」

 エメリアが平然と言う。


「姫様!それに…国王陛下!この状況は一体…?」


「ああ、そうだった。外の衛兵は眠っているのだったな。いかんいかん、私もこの状況に慣れすぎていた」

 エメリアは緊張感なく、思い出したように今の状況を再確認する。テオはどうしていいかわからず、固まったままだ。

 すると、突然後ろから影が背中に突っ込んで来る。影はテオに勢いよくぶつかり、一緒に倒れこむ。


「うお!?」


「きゃ!!」


 今度は何が起こったのかと思いながら、テオは覆い被さった影の方を見る。そこには、ソフィアとルーナ、カトラも一緒に乗っかっていた。手にはフライパンやら、箒やら、オタマやらを持っていた。


「お、お前たち!?何をしてるんだ!」


「いたたた…。あ、お父さん!」


「お父さん!じゃない!なんで入ってきた!?」


「だって、姫様の一大事なんだもん!助けなきゃって」


「助けなきゃって…カトラ!お前までなんで!?」


「あらー?私もつい?」


「ついって、お前…」


「はっはっはっは!!」


 テオたちはすっかりドタバタして、大混乱だった。その様子を見ていた国王と姫、それから狼は、揃って大笑いする。

 ソフィアたちはキョトンとしていた。


「あー、こんなに笑ったのは久しぶりだぞ!皆、驚かしてすまなかったな!どれ、私の方から説明するとしよう。とりあえず、そこのテーブルにフライパンやらは置いときなさい」


 国王に言われ、ソフィアたちは呆然としながら、テーブルにフライパンやらオタマやらを置く。テオも剣を収め、入り口側に立つ。カトラも我に返って、テオの横に立った。


「あの…すみません。ところで、どちら様ですか?」


 唐突に、ソフィアが国王に向かって質問する。テオとカトラはギョッとした。


「お、お、おいソフィア…こちらの方は…」テオの声が震えている。上手く喋れていない。すると、また笑い声が返ってくる。


「はっはっは!良い、良い。そうだな、お嬢さんと我々が会うのは初めてなのだから、自己紹介をしなくてはな。私はアリアス王国の国王、ヒース・オーランド。こっちは娘のエメリア。そして…」

 国王は横の大きな狼の体に手を触れる。


「こっちの大きな狼は、リゴ・ソラン。北の地では、"古狼"とか言われてたかな。大丈夫、私の友達だよ」


 ルー家四人は揃って、彫像のように固まる。国王陛下?エメリア姫?それにでっかい狼はリゴ?リゴは王様の友達?

 衝撃的過ぎる状況に、思考が止まる。四人の様子を見たリゴは、とりあえず人間の姿に戻る事にした。部屋全体が光に包まれ、その光が収まったかと思うと、目の前の狼が消え、目覚えのある老人が立っていた。


「あ。リゴだ」

「あ。リゴさんだ」

「あ。リゴ殿」

「あら。リゴさん」


 四人は揃って、リゴの名前を口にする。目が点になっている。どうやらまだ思考が止まっているようだ。


「いやあ、驚かしてすまなかった。許してくれ。近々話そうと思ってたんだが…」


「おい、リゴよ。皆、お主の知り合いなのか?」


「お前、他にも事情を話した人たちがいたのか?しかもテオたちに。それなら先に言って欲しいぞ」


「え、ええ。この御家族には色々と縁がありまして…」

 国王と姫の、再びの質問に、リゴは苦笑いする。


「とりあえず…ソフィアたちにも事情を説明しなくてはな。話を聞いて貰えるだろうか?」

 リゴが改まって言うと、ソフィアたちは少し正気に戻ってきたのか、揃って頷いた。


 まずは先に眠っている衛兵たちを起こし、中央に長テーブルを用意する。一行はテーブルを囲むように座る。国王と姫も、同席した。お茶とお菓子も既に用意されて場が整うと、リゴは姫と国王に話したことを、ソフィアにも説明し始める。


「全ての始まりは、千年以上も昔に遡るのだ。そう…かつての友との別れから」



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