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星を巡るソフィア  作者: 彩都 諭
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第7話 謎

 第7話 謎


「ソフィア、ルーナ。朝御飯できたわよ」


「はーい!」


「はい、お母さん」


 昔から変わらない、いつも通りの朝の雰囲気。ただ違うのは、ここは仮設キャンプ。あの災厄が起こってから、一週間が経とうとしていた。後続の救援部隊が到着し、メリダの人々への支援はかなり安定していた。だが、人手は足りても街の再建にはかなりの時間がかかる見込みで、ひとまず別の都市に移動する住民も増えて来ている。ソフィアたちは、まだ仮設キャンプにいるが、今後の事を考えると、同じように近隣都市に移動する事になりそうだ。


 朝食を食べながら、ソフィアたちはメリダの壁を眺める。


「メリダ、早く直してあげたいな」


 ソフィアが呟くと、ルーナも首を縦に振る。まだ怪我の痛みがあるので、ゆっくりと。


「家が直ったら、またみんなで住めるよね…?」


 ルーナが少し俯きながら言うと、ソフィアは得意のニカッとした笑みを浮かべて応える。


「うん!きっと大丈夫だよ」


 ソフィアはそう言うと、ルーナも笑顔になる。怪我をしたあの日からルーナは、やはり前ほどの元気はなく、落ち込む事が多くなった。以前は励まされる事が多かったソフィアが、逆に励ます側になっている。その様子を見て、母のカトラは胸を痛める。


(あの日、私はこの子たちの側にいてあげられなかった…)


 カトラは心の中で悔やんだ。親として、子供たちの側にいてあげられなかった。父のテオも同じ事を言っていたが、彼は過酷な三日間をソフィアたちと耐え抜いた。後続部隊の第二陣で到着したカトラも、すぐに医師として街の人々の為に全力を尽くした。それは現在も変わらない。それでも、家族のために何かもっと出来ることはないか。ずっと考えていた。


 カトラはいつの間にか考え込んでしまい、朝食の手を止めていた。それを横にいるソフィアが、心配そうに見ている。

 ハッと我に返ったカトラは、慌てた様子で話す。


「あらら、ごめんね!ちょっとぼんやりしてたみたい。大丈夫よ!」


 あまり大丈夫そうではないが、カトラは娘たちを心配させまいとする。


「そう?お母さん、少し疲れてるんじゃないの?お医者さんのお仕事も忙しいし…」


「そうだよお母さん。お姉ちゃんの言う通り、疲れてるのかも。無理しちゃダメだよ!」

 ソフィアもルーナも、ずいっと身を乗り出してカトラの顔を凝視する。


「ははは…あれー?」


 私の方が心配されてる?と、カトラは苦笑いした。ソフィアたちも母の様子を見て、首を傾げる。

 朝食を続けていると、外で父のテオがうろうろしているのが目に入った。誰か探しているようだ。


「お父さん!どうしたの?」

 ソフィアが声をかけると、テオが駆け寄ってくる。仕事ではないようだ。


「おお、みんな揃っているな。今、人を探していてな。そう、リゴ殿だ」


「え?リゴを?」


「そうだ。兵士の仕事が忙しくて、ずっと会えないでいたのだが、やっと時間をもらえてね。今は家族みんなが揃っているし、改めて娘たちを救ってくれた恩人にお礼をしようと思ったんだが、なかなか見つからないのだ」


 テオがそう言うと、カトラも同意する。


「そうね。リゴさんには私からも、ちゃんとお礼を言いたいわ。お会いしたのは一瞬だったし…」


 カトラがソフィアたちと再会した直後に、リゴは「家族水入らず、ゆっくりしなさい」と、優しく告げると、すぐにその場を去ってしまった。それ以降、誰も姿を見かけていない。


「そういえばリゴ、全然見かけないね?どこ行っちゃったんだろ?」

 ソフィアはそう言うと、ふと、何かを思い出しそうになる。何か大事な事だったような…


「リゴさんはどんな方なんですか?」

 カトラが尋ねると、テオが話し始める。


「リゴ殿はとても尊敬できるお方だ。重ねてきた齢の威厳と、深い慈しみの心を感じられる。俺も年をとったら、そうありたいと思えるな。それから、あの混乱の中でも、とても冷静な状況判断をされていた。もしかしたら、昔は名のある兵士だったのかもな」


 テオの話を聞きながら、ソフィアはリゴの事を思い浮かべる。すると、また何か思い出しそうになる。


 (灰色のローブ…いや、マント。その下に、革の鎧。そして腰には短剣)


「そういえば…あの日リゴはどうしてあんな格好をしていたんだろう?」

 ソフィアは思い出した疑問を口にする。ルーナも、そういえば、と考え込む。父と母は不思議そうな顔をしていた。


「リゴ殿は普段、何をされているんだ?」


「うん。普段は独りで街の花壇の世話をしているおじいちゃんで、みんなからは"花の老人"て呼ばれてたの。私はお花のおじいちゃんって呼んでたけど。とにかく無口で、名前は誰も知らないくらい」


 ソフィアがそう言うと、両親は首を傾げる。そのまま話は続いていく。


「それで、独りで寂しそうだったから、私がお手伝いをしたくなって、花壇に押しかけたの。相変わらず何も話してくれなかったけど、追い払ったりもされなかった」


 そこまで言うと、テオは疑問を投げかけることにした。


「リゴ殿はそんな感じの人ではなかったぞ?始めてお会いした日も、お前と自然に話していたじゃないか」


 ソフィアも確かに、と思う。

「話せるようになったのは、山脈が崩壊したあの日、リゴが私を助けてくれた時からなの。名前を教えてくれたのも、その時なんだ」


「そうそう、あの日の朝まではお姉ちゃん、まだリゴさんの名前知らなかったよね?あ…」


 ルーナは急に口を止めて、考え込んだ。少し肩が震えている。


「どうしたの?ルーナ?」


 ソフィアが尋ねると、ルーナは困った顔をした。そして意を決したように言う。


「崩壊の前の日にお姉ちゃん、リゴさん

 に悪い事聞いちゃったって、ひどく落ち込んでたじゃない?その時の話なんだけど、リゴさんが庭園のお花を、北の地から持って来たのかもしれないって言ったでしょ?」


「うん…。それがどうしたの?」

 ソフィアは自分の心臓が高鳴るのを感じた。よくわからないが、胸騒ぎがする。


「リゴさんはあの光景を知っていたのかな…?空に浮かぶ地面のことも、裂けた大地のことも…」

 ルーナは自分が発する言葉に胸が締めつける。そして、なんとか一つ呼吸をし、もう一言を告げる。


「…いずれ山が崩れることも」


「そんな!!」


 ソフィアは思わず叫んでしまった。


「そんなはずない!リゴが知っていたなら、必ずみんなを助けようと、避難を呼びかけるはずだよ!?こんな事が起こるなんて、知ってたはずが…?」


 ソフィアはルーナの言葉を全力で否定しながら、また忘れていた記憶を思い出した。そう、助けてもらった時に、リゴが突然語った、あの言葉を。

 ソフィアは自分の手足が急にガタガタと震えていることに気づいた。先を考え続けるのが恐かった。その様子を、家族が心配そうに見ている。言いたくない。でも、なぜか口が開く。


「リゴ…あの時、私にこう言ってた。これは終わりで、始まりだって。たぶん、知ってたんだ。あの日のことも、これから何が起こるのかも」


 ソフィアは泣きそうになるのを、必死に我慢していた。自分やルーナの事を助けてくれて、心の支えにもなってくれた人が、どうしてこの惨事が起こる前に教えてくれなかったのか。大勢が死んで、ルーナも怪我をした。早く言ってくれれば、こんなに酷いことにはならなかったのかもしれない。老人がしばらく姿を見せていないことも、ソフィアに辛い現実を突きつけていた。


「なんで…なんでみんなに隠してたの?リゴ、なんで…」


 我慢しきれず、ソフィアは顔を下に向けて泣きだした。ルーナはソフィアを静かに抱きしめる。だが、言葉が出ない。ルーナも口を開こうとすれば、今にも泣いてしまいそうだからだ。


 カトラは言葉が見つからず、傷ついた娘たちを包むように、ただ優しく抱きしめることしかできなかった。

 テオは目を閉じて考え込む。やがて、静かに話し始めた。


「リゴ殿がこの大崩壊を予見していたかどうかは、正直わからない。そもそも、本当に北の地に行けたかも怪しいんだ。あそこには…古狼がいるしな」


 テオはそう言うと、ソフィアたちの頭を優しく撫でながら、微笑んだ。


「お前たちが言うように、確かにリゴ殿にはわからないことが多い。でもな、お前たちを体を張って助けてくれた。それに…優しい子だって言ってくれた。それは事実なんだ」


 テオは何か決めたように、よしっ!と、言って胸を張る。


「さあ、朝御飯を食べ終わったら、リゴ殿を一緒に探しに行こう!お礼を言いたいし、事情も聞きたい!今度は家族みんなで押しかけるぞ!」

 少しいたずらっ子のように笑うテオを見て、ソフィアたちと母はクスクスと笑った。そして元気よく席に戻って、朝御飯の続きをはじめる。



 救援部隊の指揮所では、エメリアが独りで黙々と、書類を整理している。各方面への報告書をまとめ、住民の移送の手はずを整えたりと、まだまだやることは山積している。


「ふー。やっとここまで終わったか」


 エメリアは椅子の上で体を伸ばす。最初はあちこち動き回って指揮をとっていたが、後続が次々に訪れ、補佐官も部下たちも増えてくると、専ら書類仕事に追われることとなった。


「まったく…こっちは補佐官の仕事ではないか?私は野外で動き回る方が性に合っていると言うのに…」


 ボソッと愚痴を言う。確かに、"銀髪の騎士"が黙々と書類に向かっている姿は、違和感がある。彼女の補佐官たちは、物資の管理や近隣都市への対応に追われ、あちこちに走り回っているため、これはこれで忙しい。必然的に、書類の整理が滞るため、現場に留まらねばならないエメリアの仕事になるわけだ。


「あー、馬に乗りたい。そしてあの北の地の…あの異様な光景の謎を突き止めたいなぁ」

 エメリアはメリダに到着した時の事を思い出す。街の惨状、崩れた山脈、その先の地の、異様な光景。そして…


「盾…か。一体この街には何があるというんだ」


「お答えしましょう。姫様」


 エメリアがブツブツと呟いていると、急に入り口の方から声が聞こえてきた。衛兵ではない。


「何者だ!?」


 エメリアは勢い良く立ち上がり、素早く剣を抜いた。入り口の方を見ると、灰色のマントに革鎧を着込み、腰に短剣を差した老人が立っていた。エメリアは老人に向かって怒鳴りつける。


「貴様、刺客か!?衛兵はどうした!」


「御安心下さい…彼らには少し眠って頂きましたが、無事です。私はあなたと話がしたくて来たのです。エメリア姫」


 そう言うと、老人は短剣を腰から外し、柄をエメリアに見せる。そこには紋章が刻まれていた。


「それは…!アリアス王国の王家の紋章ではないか!何故、お前がそれを持っている?一体お前は何者だ!?」


 エメリアは困惑しながらも、老人に剣先を向けながら問う。


「私の名は…リゴ・ソラン。この名はかつての王に頂いた名です。ですが、多くの人々は私の事を、"古狼"と呼びます」



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