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星を巡るソフィア  作者: 彩都 諭
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第6話 家族

 第6話 家族


「…もう少しで街の外に出られるね。ルーナ、大丈夫?」


「うん…お姉ちゃんこそ、平気?」


「私は大丈夫!リゴもついてるからね!」


 半壊したメリダの街から出るために、ソフィアたちは下層地区の南門へ向かっていた。怪我で動けないルーナは、ソフィアとリゴが作った担架で運ばれている。周りには他にも脱出しようとする人々が移動を始めているが、道は瓦礫が多く、その歩みを早めることは難しい。また、怪我人の救助も所々で行われている。

 何らかの非常事態が起こった場合、街の行政官と衛兵隊が避難誘導などの指示を行うことになっていたのだが、彼らの姿はほとんど無かった。僅かな兵士たちと、動ける医師が救助活動を行なってはいるが、かなり場当たり的な動きになっており、統制が取れていない。

 市民も兵士も医師も、皆それぞれが目の前の困難と対峙しており、余裕がなかった。


「この辺りの家も崩れやすくなっている。近づくのは危険だ」

 リゴが辺りを見回し、呟く。それを聞いていたルーナは、住んでいた家が壊れている光景を再び思い出し、泣きそうな顔を手で覆う。その様子に気づいたソフィアが、ルーナの頭を優しく撫でた。


「大丈夫よ、ルーナ。家は壊れちゃったけど、みんなまた会えるよ。だからルーナも、今は一緒にがんばろ?ね?」

 ソフィアがそう言うと、ルーナは顔を覆っていた手を下ろし、涙をぐっと我慢くる。

「そうだね、お姉ちゃん。お父さんとお母さんに早く会いたい。私、頑張るよ」

 ルーナは担架に横になりながらも、精一杯の声を振り絞って言った。その様子をリゴは、背中越しに聞いていた。


(本当に、本当に優しい、いい子たちだ。そう、あいつの娘たちにそっくりだ)


 リゴの脳裏には、草原を走り回る姉妹の姿が浮かんでいた。そう、大切な友人の娘たちがーー


 リゴが古い思い出を懐かしんでいると、南門の外から街に向かってくる騎馬の一団が見えた。彼らは南門に着くと馬を降り、中に入る。どうやら外に出ていた兵士たちのようだ。


「フラガの班はまず南門の外の安全を確保!サラの班は行政官並びに衛兵隊隊長、もしくは指揮を執る者を探せ!私も後で行く!残りは市内の被害状況確認!避難誘導と救助の準備にかかるぞ!」


 隊長と思しき人物が命じ、部下たちが一斉に動き出す。よく訓練された動きだ。その部下に命じていた男がソフィアたちの方を見ると、一瞬固まった。そして、名前を叫びながら走ってくる。


「ソフィア!!ルーナ!!」


 その声にソフィアとルーナはハッとする。よく知ってる声。それはソフィアたちの父、テオ・ルーの声だった。


「お父さん…?お父さんが来てくれた…!ルーナ、お父さんが来てくれたよ!!お父さーん!」

 ソフィアは叫び返す。満面の笑みだ。


 テオはソフィアたちの元へ駆け寄り、二人に声をかける。


「ソフィア、ルーナ。ああ、生きていてくれた。良かった…。だがルーナ、その怪我はいったい…ルーナ、大丈夫なのか!?何があったんだ!?」

 テオは担架の上のルーナを見て、激しく動揺する。慌てる父を見て、ルーナは父を安心させようと笑顔で声をかける。


「大丈夫だよ、お父さん。私は大丈夫。お姉ちゃんと、そこのおじいちゃん…リゴさんが、私とお姉ちゃんを助けてくれたの。だから慌てないで。でも…お家が。お家がね、壊れちゃったの。大切な…大切な…」

 ルーナはまた家が壊れてしまった光景を思い出して、言葉が出なくなる。ルーナが苦しそうにする様子をみて、テオは優しく抱きしめる。


「ルーナ、ソフィア、お前たちが生きていてくれさえすれば、それで良いんだ。そう、家族が一緒にいてくれればそれでいい…。もう大丈夫だよ、ルーナ、ソフィア。よく頑張ったな」

 テオはそう言うと、二人の娘たちを優しく抱きしめる。親子三人は目を閉じ、再会できたことに心から感謝していた。


 再会の抱擁が済み、落ち着いたところでテオはリゴの方へ向く。


「ご挨拶が遅れてしまい申し訳ない、リゴ殿。私はこの子たちの父、テオ・ルーと申します。この度は娘たちの命を助けて頂き、誠に感謝致します!あなたは私たちの家族の恩人です」

 テオがリゴに礼を述べると、リゴはテオの肩に手を当てて話す。


「いや、私の方こそ、礼を申し上げねばなりますまい。私も彼女たちの優しい心に救われたのだ。このような状況にも関わらず、本当にあなたの娘さんたちは良い子たちだ」

 リゴも御礼を述べるとテオと顔を見合わせて頷く。それから、二人は目の前のことに気持ちを切り替えた。


「今、この街は全く統制がとれていない状況です。特に救助活動は注意しなければ。家屋の倒壊も進んでおり、安易に近づくのはとても危険です」

 リゴが現在の状況を軽く説明すると、辺りを見回したテオは同意する。そして丁度、指揮官の捜索を命じていたサラ班が帰って来た。報告によると、行政官、衛兵隊隊長は、多くの兵士と共に瓦礫の中で亡くなっていたらしい。つまり、現在このメリダで被害に対応している指揮官はいないのだ。


「そうなると…私が指揮を執らねば」


 そう言うとテオは、ソフィアたちの方を見る。親としては、再会したばかりの娘たち、特に怪我をしているルーナの側にいてやりたい気持ちがあるが、兵士として民を守る義務を今こそ果たさなければいけない。

 無論テオはどうすべきか、わかっていた。だが、どうしても葛藤してしまう。その様子を横で見ていたリゴが、テオに声をかける。


「テオ殿。あなたがこれから、兵士としての義務を果たさなければならないことは承知しております。しかし、父親として我が子の側にいてやりたいお気持ちも察しております。それでですが…娘さんたちの面倒、今は私に任せてはもらえないだろうか。この老人に出来ることは多くはないが、あなたの心にざわめく不安が少しでも和らぐのであれば、是非お力になりたいのです」


 リゴにそう言われると、テオは頭を下げて言葉を返す。


「リゴ殿、あなたのお心遣いに深く感謝します。恩人のあなたに言われては、その申し出を受けない理由はありません。あなたであれば、娘たちのことを安心してお任せする事が出来ます。どうか、娘たちのことを宜しくお願いします!」


 テオは頭を下げ続けた。彼のその両肩をリゴはポンポンと叩く。


「確かに承りましたぞ、テオ殿」


 リゴは短いながらも、はっきりとテオに告げる。


「お父さん、頑張ってね!」


「気をつけてね、お父さん!」


 ソフィアもルーナも、父を笑顔で見送る。テオは「行ってくる」と一言告げて、その場を後にした。その目にはもう葛藤の色はなかった。



 それから三日後の救援部隊が到着するまで、テオは部下たちと共に街中を駆け回り、生き残った人々の避難と救助に尽力した。また、街の周辺はどこまでが安全なのか、状況を確認することで、応援が駆けつけた際の受け入れ場所や、物資の集積出来る場所などを確保することも出来た。街の被害は大きく、助けられなかった人も多かったが、彼は自分に出来ることをやり遂げた。


 また、リゴもソフィアとルーナの事をよくみてくれていた。ルーナの怪我には応急処置しか出来なかったが、ソフィアの助けもあり、ルーナは心の元気を取り戻す事が出来ていた。こうして、救援がくるまでの時間はあっという間に過ぎて行く。


 第一陣の救援が来てからはテオの激務も少しだけ整理がつき、ソフィアたちの元へ顔を出す事が出来るようになった。大勢の医師が到着し、ルーナもちゃんとした治療を受ける事が出来た。ただ、少しだけ後遺症は残るようだ。その事にソフィアはショックを受けたが、今度はルーナが励まし、また乗り越えていった。


 そして、救援の第二陣が到着すると、そこには医師であるソフィアの母、カトラ・ルーの姿もあった。


 カトラはソフィアたちを見つけ、駆け寄る。


「ソフィア!ルーナ!やっと会えたわ!」

 母の声を聞いた娘たちが、カトラに勢いよく抱きつく。父の時とはまた違い、もっと子供っぽい喜び方だ。


「お母さん!おかえり!これでやっと家族みんな揃ったね!」


 ソフィアがそう言うと、ルーナも満面の笑みになる。テオも横で、リゴと共に静かに笑っていた。久しぶりにメリダの空に、温かな笑い声が響き渡っていた。



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