表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星を巡るソフィア  作者: 彩都 諭
4/32

第4話 大崩壊

 第4話 大崩壊


「ルーナ!ルーナ!」


 ソフィアは中層地区に降り、瓦礫が散乱する道で妹の名前を叫びながら走る。街はまだ粉塵が収まっていないので、視界が悪い。辺りからは、混乱した人たちの悲鳴、兵士の怒声、怪我をして助けを求める人の声などが入り混じって聴こえてくる。

 ソフィアは所々で転んだり、壁にぶつかったりしながら、必死に家に向かう。今朝、妹が落ち込む姉を励まし、見送ってくれた時の光景が頭をよぎる。

 ソフィアの目に、また涙が溢れてきた。粉塵の影響もあり、余計に前が見えない。涙を拭っても、止まらない。


「早く…早く帰りたい。ルーナ…」


「ソフィア、待ちなさい」


 突然、背後から手が伸びてきて、ソフィアの左腕を掴む。花の老人が、後を追ってきてくれていたのだ。

 しかし、ソフィアはとにかく急いで帰りたいがため、老人の手を振り払おうとする。


「おじいちゃん、離して!!早くルーナの所に行かないと!きっと家で待ってるの!お願い、離して!」

 必死に前へ進もうとするソフィアを、老人は強く抱きしめる。


「お願い…行かせてよ…おじいちゃん」

 ソフィアは老人の胸で泣きながら、懇願する。老人はソフィアの頭を撫でながら、優しく話しかける。

「わかっている。わかっているよ。だからこそ、この手を離すわけにはいかないんだ、ソフィア。君に何かあったら、ルーナと言ったな、その子が悲しむだろう。だから、落ち着いて。私が一緒に行こう」


 老人に言われて、ソフィアは涙を拭い、ぐっと気持ちを堪える。涙は止まったようだ。

「…うん、わかったよ。おじいちゃん、ありがとう。そうだ、おじいちゃんの名前を教えてよ」

 ソフィアは老人の名前を聞く。今まで、決して教えてくれなかった名前を。老人は少し考え、再び口を開いた。


「すまなかったね。今まで黙っていて。わしの名前は、リゴ・ソラン。リゴで構わんよ」

 老人はソフィアに名を告げた。ソフィアは自分の胸に手を当て、その名前を大事に仕舞い、そしてニコッと笑う。

「よろしくね、リゴ!改めて…私はソフィア。ソフィア・ルーよ」

 リゴはソフィアの頭に手を乗せて、優しく微笑む。

「そうか、そうか。ありがとう、ソフィア」

 二人はようやく、ちゃんと自己紹介をすることができた。リゴはソフィアの手を引く。その手は大きく、ソフィアの手をしっかりと包み込んだ。二人は再びルーナが待つ家に急いだ。



「痛っ…。私、どうしちゃったの?なにがあったの?」

 目が覚めたルーナは、まだ視界がぼんやりとしている。頭も痛い。あちこち怪我をしてるようだが、とりあえず生きている、と、自分で確認した。


「確か、お姉ちゃんを見送った後、二階の掃除をしてて…なんか目眩がしたみたいに揺れたと思ったら、急に何かが下から突き上げてきたような…」

 頭を少し打ったのか、なかなか記憶が辿れない。ルーナは深呼吸をして、再びゆっくりと記憶を繋いでいく。


「それから、外で凄い轟音が聞こえたと思ったら…何かに飛ばされたような。あれ、そういえば私、なんで外にいるんだろう?家の中にいたはずなのに…というか、私の足元の板、これ二階の天井…?」

 ルーナは自分のいる場所を見回す。辺りは何かの粉塵に包まれて、モヤモヤとしているが、なんとなく家の庭先であることがわかった。だが、二階の天井が落ちていたり、瓦礫が散らばっているのを目にして、心臓が止まりそうになる。


「そんな…私たちの家が…ばらばらになってるの?そんな…そんな…」

 ルーナは痛みを忘れて起き上がろうとしたが、体が言うことを聞かない。致命傷は免れたみたいだが、打撲や捻挫があちこちにある。起き上がれないルーナは両手で顔を覆い、泣き出した。


「お母さん…お父さん…お姉ちゃん…みんな、どこ?お家がなくなっちゃったよ…みんなが帰ってくるお家が…」

 なかなか一緒に揃えない家族の、貴重な思い出が詰まった家を失ったことが、ルーナにはとても堪えた。どうしたらいいのか、何も考えられない。ただ、泣くことしかルーナには出来なかった。


「ルーナ!!」

 頭の上から、聞き覚えのある声が聞こえる。


「ルーナ!!大丈夫!?お姉ちゃんだよ!返事をして!」


「お姉ちゃん…?」


「そうだよ、ルーナ!帰ってきたよ!」


 ルーナは姉の声をハッキリ聴いて、声がする方向に顔を向ける。そこに金髪が埃だらけで、涙目の姉がこっちを見て笑っていた。ルーナは姉に会えたことを実感し、涙を溢れさせて声を出す。


「お姉ちゃん…帰ってきてくれたんだ。お姉ちゃん…お姉ちゃん…!」

 言葉を絞り出した後、わんわんと泣き出したルーナを、ソフィアが小さな腕で優しく抱きしめる。

「ただいま、ルーナ。さあ、まずは手当てしよう」

 そう言うと、ソフィアはリゴを呼んで、ルーナの手当てを始めた。


 街に漂う粉塵が収まり始め、視界が徐々に開けてくる。人々は安堵する間も無く、街の変わり果てた様子を目にし、立ち尽くす。この日、エバ山脈は崩壊し、メリダの街は半壊した。多くの怪我人と犠牲者が出たこの日を、後の人々は"大崩壊"と呼んだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ